ずっと一緒だよ

 ここ最近、ずっと誰かに見られているような気がしていたんです。

 通勤中も、マンションに帰ってからも、ずっと。

 視線を感じるようになってからは一人で遊びに行かないようになりました。家に居る時も、昼夜問わずカーテンを閉め切っていました。


 視線……、と言うか、実際に、誰かにつけられていると感じることもあったんです。でも、その気配の主はなかなか姿を見せず、何度も警察に相談をしたのですが、


『気の所為じゃないか』


 と門前払いされるばかりでした。


 でも、仕事に集中している間だけは、その視線のことを忘れていられたんです。だから上司に残業をお願いされた時は快く引き受けていました。残業代も増えて、一石二鳥でしたから。


 今月の頭くらいに、半年に一度の在庫差異のチェックがあったんです。

 その日も私は残業がしたくて、皆が行きたがらない第二冷凍倉庫での作業を買って出ました。遅くまで居れば居るだけ、視線を感じることもないので。


 あと、ちょうどその日だったと思います。

 私の家のポストに手書きのメッセージカードが入っていたんです……。


『愛してる。ずっと一緒だよ』と。


 差出人も何も書かれていませんでした。

 それもあって、余計にマンションへ帰りたくありませんでした。


 このカードがあったから被害届を出すことが出来たんですけど……、複雑ですね。


 すみません、話を戻しますね。冷凍倉庫での作業は、本来は二人以上でしなければいけない決まりでした。


 うちの倉庫はうっかり閉じ込められても内側から開けるための装置はついているのですが、外側から間違って南京錠でロックされると、中から出る手段が無くなってしまいます。それを防止するために最低一人、監視する人を置くようにしているんです。


 冷凍倉庫は社屋から離れていることもあって、連絡手段を持たないまま閉じ込められたら、……余程、運が良くないと助からないと思います。

 特に第二倉庫は普段、人の出入りが少ないので尚更……。庫内作業用の上着があっても、半日が限界でしょう。スマホも持ち込むと故障しちゃうくらい寒いですから。


 結局、この作業についてきてくれる従業員はいなかったので、私一人ですることになったんです。


 閉じ込め事故を防ぐために、入口には段ボール箱を挟んで作業をしていました。社内規定では駄目と言われていたんですけど、……命のほうが大事ですからね。


 本当はゆっくり作業をしていたかったんです。でも、その日は何故か、仕事中なのにも関わらず視線を感じていました。

 とても気持ち悪く、一刻も早く終わらせたかったので、数分おきに暖を取ったりせず、黙々と作業を進めました。


 作業が終わったのは、定時から一時間ほど過ぎた頃だったと思います。社屋に戻った時は、まだ上司を含め何人か残業をしていましたが、私は先に帰りました。


 それから数日経って、警察から連絡がきたんです。

 いくつか静止画としてピックアップされた、マンション入口の防犯カメラに映る住人以外の画像から、心当たりのある人物が居ないか、確認してほしい、とのことでした。


 その中に心当たりのある人物は、……いました。営業部の角川さんでした。


 彼が時折、私の部屋番号の集合ポストを確認している姿も映っていて……。

 とても信じられませんでした。


 角川さんとは、所属部署が違うし、普段は全然接点も無かったんですけど、うちはそんなに大きな会社でもないので、名前だけは一応、覚えていました。


 角川さんには奥さんと子どもが居るはずなのに、どうして私なんかに付きまとっていたんでしょうか。


 私は何か、恨まれるようなことでもしてしまったんでしょうか? 私が、悪かったんでしょうか……?


――――


 ストーカー被害者による供述は以上である。被疑者は同社の営業部に所属する角川で、書類送検済み。


 発見当時、角川は社内におり、スーツ姿のままだった。


 角川のスマートフォンは彼のデスク引き出し内から電池切れの状態で発見された。写真フォルダからは、被害者の写り込んでいる画像データが複数見つかっている。


 また、直近でアクセスされた履歴は全て消去されており、動機については不明な点が多い。


 被害者宛に送られたメッセージ入りクリスマスカードの筆跡は、角川本人のものと一致した。


 十月中旬、被害者から相談を受けていた職員の処分については現在検討中。


■ カクヨム乳業女性社員ストーカー被害事件・捜査記録より 2024/11/12 (火)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る