第4話
学校でアイツのモデルをするようになって、自然と昼飯を一緒にすることが多くなった。
食後にいつも俺は缶珈琲を飲む。
その俺を見るアイツの視線が気になって仕方がなかった。
「かっちゃんて、珈琲好きだよな。いつも飲んでるし」
「まぁ、美味いからな。飲んでみるか?」
缶を渡そうと手を伸ばす。
なかなか受け取ろうとしないアイツ。
「ほら」
手を伸ばし、缶を受け取り、そのまま口へ持っていく。
ひと口、ごくっと喉が動いた。
「うーやっぱ俺、苦いの無理……」
琥珀の瞳が潤んでいる。
「そんなに苦いか?」
アイツは首を縦に振る。
俺は砂糖ミルクなしが好きだ。
でもアイツは珈琲自体が嫌いだったと後から知った。
だったら飲まなきゃいいのに。
そういえばモデルとなった絵を美術展に応募したらしいと誰かから聞いた。なぜアイツ本人が俺に言わないんだと、少し腹が立った。
だからアイツに黙って見にいって、からかってやろうと思った。
全国学生美術公募展。
何度か写真展を見に来たことのある会場だ。
東西南北、地域ごとに展示が分かれていた。
どれも秀作な出来。
風景写真を主に撮る俺には、やはり風景画が好きだ。
逆に抽象画にはあまり関心が向かなかった。
俺をモデルにした絵を見つけた。
思わず首を捻った。
そこには幾何学的図形にされた俺。
いわゆるキュビスムという手法で描かれてあった。
これなら別に俺がモデルをしなくても良かったんじゃないかとも思った。
額縁の下には、入賞を示す紙が張ってあった。
それを見て俺は、絵の評価というものがますます分からなくなった。
写真は写真機を通じて、目の前にある物を正確に写し撮る。
画像編集ソフトによって写真家が意図通りに編集し直すことは可能だ。
それでも絵画と写真は違う。
同じ芸術でも違う。
それは俺たちにも言えたことだった。
**
あれは高校3年の冬。
ひんやりとした美術室。
何がきっかけだったのかは、思い出せない。
覚えているのは、琥珀の瞳が揺れ、真っ赤な顔のアイツ。
俺はアイツを壁に押し付け、唇を合わせた。
瞳から流れる涙を見て、咄嗟にごめんと呟いた。
押さえていた体を離すと、アイツは教室から飛び出して行った。
どうしてこんなことをと自分を責めた。
でも何もかも遅い。
その時は、本当にそう思った。
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