第3話

 助手と一緒にテントを張った後、俺は機材をセッティングし、助手は夕飯の準備をした。キャンプ慣れしているだけあって、なかなか美味い飯だった。


 食事も終わり、明日の準備も終え、いまは静かな時間のみが流れていく。

 湯を沸かしている炎が時折パチパチと音を立て、遠くからは虫の声が聞こえる。


「あのぉ前島さん、明日、本当に出ますかね? 150年ぶりだって言うし、……本当に奇跡なんて起こるんでしょうかね?」


 助手がこちらに顔を向けて話しているが、俺は炎をじっと見つめていた。


「お前は信じてないのか?」

「えーっと、それは……」


 顔を上げて助手を見ると、さっきとは反対に助手が俯いていた。


 炎のゆらめきが助手の顔に当たっている。

 その表情は光に照らされながらも陰っていくのが分かった。


「あっちの場所には、人がわんさといる。奇跡を信じてなかったら、あんなに集まらないだろ。それでももし明日、奇跡が起きなかったら、みんなショックだろうな」

「……そう言う、前島さんだってショックじゃないんですか? ずっとこの日のために準備してきたんですし」

「……さぁ、どうだろうな」


 ショックになるかどうかより、漠然とした自信はあった。

 明日は必ず奇跡、いや、現象は起きると。


 もちろん不安がないわけじゃない。

 特に自然現象は条件が整えば出現する話だ。100パーセント起こる保証はどこにもない。


 それでも生きていれば、奇跡だろうがなんだろうが、挑戦する価値はある。

 いつかどこかに置き忘れてきたようなことは、もうしたくない。


 鍋から湯気が立ち上り、お湯が沸いたと知らせてきた。

 助手がそれぞれのカップに湯を注ぐ。


 両手にじんわりと熱が伝わってくる。

 珈琲の豊かな香りが鼻の奥をくすぐった。


 そういえば、アイツは珈琲が苦手だったことを、ふと思い出した。

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