第7話 A級冒険者パーティの悲劇
睡眠不足だったのだろうか。
エレノアの意識はすぐ戻るはずだったが、一時間経っても気持ちよさそうに眠り続けていた。
状況から察するにダンジョンに何かがあるらしい。
異世界人の嫁となる覚悟をしなければならないほどの何かが。
「仕方ない。あまり使いたくなかったけど」
超能力の種類は多種多様にあるが、あまりにも非人道的な能力は封印している。
例えば人に対する透視。
男の夢とも言える能力だけど、一度でも使えば取り返しがつかない。他人の隠している部分を覗き見るなど精神が堕ちて戻れなくなるだろう。
その他にも脳波を解析して考えを読み取る「サトリ」や脳を直接弄って人格を変えてしまう「洗脳」など心に関する超能力は禁忌としていた。
その中で限りなく黒に近い灰色の能力がある。
「なるべく目的の部分だけにするから」
俺はエレノアの額に手を当てた。
身体に刻まれた傷や痛みを解析して彼女の記憶にアクセスする。
サイコメトリー。
本来は物体の記憶を読み取る力だが、広義では人間だって物と同じ物質と言える。
エレノアの記憶を数週間ほど辿っていく。
彼女の冒険者パーティだろうか。十数人ほどの冒険者が緊張感を漂わせてダンジョンに挑んでいた。巨人が作った遺跡なのか、階段一つ降りるのにロープを使っている。だが、彼女達の瞳は未知なる世界への好奇心に満ちており、疲れなど知らない様子だった。
魔法や剣術、冒険自体の素人でも分かる。この人達は一流のパーティだ。
(このメンバーで改めて挑戦すればいいのでは?)
疑問が解消されたのは、階段を下りてすぐのことだった。
エレノア達はとても巨大な宝玉を見つけ喜びを分かち合っていた。
(あれがスフィアの心臓……なのか?)
だとすれば、このダンジョンはおばあちゃんが言っていた場所と同じなのだろうか。
「……えっ?」
さらに記憶を辿っていくと、巨大な宝玉の周囲で次々と冒険者達が倒れていった。その様子はとても苦しそうで、呼吸困難と毒が同時に襲い掛かってきたかのような形相だ。エレノアが避難指示を出して数人の冒険者をダンジョンの奥へと誘っているが、間に合っていない様子。
そんな中、倒れた男性冒険者が杖をエレノアに向けた。それに気づいたエレノアが泣きそうな顔で首を横に振っているが、男性はニコリとほほ笑むと杖をクイと上にあげ意識を失った。
瞬間、エレノアの視界がダンジョンから草原へと変化する。いわゆる転移魔法だろうか、彼女は両膝を着いて叫ぶも仲間は一人も現れない。
その後、自国のギルドへ帰った彼女は仲間の救出依頼を要請するも、ギルド側から断られている様子だった。どうやらあそこのダンジョンの最下層を攻略できる冒険者はほとんどいないらしい。
自国が駄目ならと、隣国のギルドを転々とするも全て断られている。疲れ切った彼女が最後に選んだのがギルディアのギルド。
(焦燥しきった冒険者でも最後に選ぶほどギルディアは終わっているのか)
そこで冒険者試験を受ける異質な実力の持ち主、魔力ゼロの俺を見つけ、藁にも縋る思いで関所まで追いかけてきたという流れだ。
「パーティのリーダーなのに、子供みたいな人だな……」
妹がまさに似たタイプだった。普段は大人ぶっている割にテンパると精神年齢がグッと下がる。答えが近くにあっても遠回りしてしまい、身近な人間である俺に攻撃的になる。
俺の中で、グルグルと様々な感情が廻っていく。
「この人ならもしかして……」
邪な感情が心を支配していった。
―――――――
短かったので二話更新してます。
続きは夕方に読めますのでお楽しみください。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます