第3話仲間との出会い
王都に向かうため、村を出発してから数日が経った。道中は静かで、特に大きな危険もなく、平和そのものだった。だが、王都に近づくにつれ、道行く人々の顔にはどこか張り詰めたような緊張が見て取れる。王都には「厄介な魔物が現れた」という話をちらほら耳にするが、詳細はわからない。
「本当に俺に、あの魔物が倒せるのか……」
不安を抱えながらも、俺は自分に言い聞かせるように一歩ずつ歩みを進める。俺の知識魔法は戦闘力としては乏しいが、知識の活用次第で解決策は見つかるかもしれない。今の俺にできることは、とにかく進むことだけだ。
やがて王都の門が見えてきた。巨大な石造りの城壁がそびえ立ち、その威圧感に圧倒される。門をくぐると、活気に満ちた人々の声と、行き交う馬車の音が周囲に響き渡った。初めて訪れる大都市に、俺は少し興奮を覚えつつも、迷わないように注意を払って歩き出す。
「おい、そこの兄ちゃん!」
急に声をかけられて振り向くと、筋骨隆々の青年が立っていた。茶色の髪に鋭い眼差しを持ち、腰には大きな剣を携えている。
「お前、もしかして噂の賢者様か?」
「え、ええっと……そう、みたいですね」
自分でも「賢者様」という呼び名にはまだ慣れないが、彼は俺の言葉を聞くなり、にやりと笑った。
「噂は本当だったんだな! 俺はアーロン、王都の剣士だ。実は、あんたに会いに来たんだよ」
「俺に……?」
アーロンという名の青年は、自信に満ちた笑みを浮かべ、俺を見据えている。その瞳にはどこか挑戦的な色が宿っていて、俺は少しだけ警戒心を抱いた。
「聞いた話じゃ、あんたは『知識の魔法』ってやつを使うんだってな」
アーロンは興味津々といった様子で、俺の知識魔法について尋ねてきた。俺が持つ「知識魔法」が特殊な力であることは確かだが、それがどれほどの価値を持つのか自分ではまだわかっていなかった。
「まあ……戦闘向きの魔法じゃないけど、役に立つことはあるかも」
そう答えると、アーロンは笑みを深めて大きくうなずいた。
「面白い! そんな力を持つ賢者が、どんな戦い方をするのか見てみたくなったぜ。よし、オレもお前に付き合ってやるよ!」
「え、付き合うって……」
予想外の申し出に驚きつつも、俺はアーロンの目に熱意を感じていた。どうやら、彼は俺の力に興味を抱き、共に戦いたいと思っているようだ。
「……ありがとう、助かるよ」
その日の夕方、アーロンと共に王都を見渡せる小高い丘に登り、日が沈むのを眺めていた。アーロンは自分がどんな戦士であるかを語りながら、俺に戦い方のアドバイスをしてくれる。
「お前の力は知識を武器にするってわけだろ? だったら、どんな情報でもまずは集めておくことだな。情報が武器になるってのは、俺たちの世界でも同じさ」
「確かに……情報は力だよな」
アーロンの言葉に、俺は頷きながら自分の知識魔法についての理解を深めていく。彼のアドバイスは実際に役立ちそうで、これからの戦いにおいて重要なポイントになるだろう。
その翌朝、俺たちは魔物が出没すると噂される「闇の森」に向かって歩き始めた。道中、アーロンは「本当にお前は賢者なのか?」と冗談交じりに聞いてきて、俺は苦笑しながらも返答する。
「俺だって、まだ自分が賢者かどうかよくわかってないんだよ」
するとアーロンは大声で笑い、「そのうちわかるさ」と肩を叩いてくれた。その言葉に少しだけ勇気が湧き、俺は一歩一歩前進する気持ちを強めた。
闇の森に足を踏み入れると、周囲は昼間だというのに薄暗く、冷たい風が吹きつけてきた。木々の影が不気味に揺れており、森の中にはどこか悪寒が漂っている。
「この辺りに魔物が現れるって話だが、気を引き締めていこうぜ」
アーロンは大剣を構え、前方を警戒しながら進む。俺も知識魔法をいつでも発動できるように身構えていた。
しばらく歩いていると、突然、前方から低い唸り声が響いてきた。木々の影から大きな獣のような姿が現れ、その鋭い牙が光を反射している。
「来たか……」
アーロンは即座に構えを取り、俺に小声で「バックアップ頼む」とだけ言い残して前に出た。俺は本の知識を呼び覚まし、魔物についての情報を思い出す。
「これは……『シャドウウルフ』。闇に紛れて襲いかかる魔物だ」
シャドウウルフは俊敏で、暗闇に潜む能力を持っている。その弱点は、視界を奪うことによって攻撃を防ぐことだ。俺は咄嗟にその情報をアーロンに伝えた。
「アーロン、奴の目を狙え! 闇に紛れる力を封じれば、攻撃しやすくなるはずだ!」
「了解!」
アーロンは俺の助言に従い、シャドウウルフの目を狙って剣を振りかざす。シャドウウルフは一瞬怯んだように見え、アーロンの剣がその頬をかすめた。だが、完全に倒すには至らない。
「くそ、やっぱりしぶといな!」
アーロンが苦戦しているのを見て、俺は何か他にできることがないかと焦る。すると、またしても知識魔法が反応し、新たな魔法の詠唱が頭に浮かんできた。
「光よ、闇を裂け!『フラッシュライト』!」
俺が魔法を唱えると、手のひらから強い光が放たれ、シャドウウルフの視界を一時的に奪うことに成功した。眩い光に驚いたシャドウウルフは怯み、その隙にアーロンが一気に接近する。
「これで終わりだ!」
アーロンは力強く剣を振り下ろし、シャドウウルフの体に深く突き刺した。シャドウウルフは最後の悲鳴を上げ、地面に倒れ込むと動かなくなった。
「よっしゃあ! やったぞ!」
アーロンは満足げに剣を収め、俺に向かって親指を立てて見せた。俺も安堵の息をつき、笑顔を浮かべる。
「ありがとう、アーロン。君がいなければ、絶対に倒せなかった」
「いやいや、お前の知識がなけりゃ俺だってこんなにスムーズに倒せなかったさ。やっぱり知識の賢者ってのは伊達じゃねぇな!」
俺たちは互いに労をねぎらい、森を後にすることにした。こうして、俺とアーロンの初めての共闘は成功に終わり、俺は少しずつ自信を取り戻していった。
王都に戻った俺たちは、王の使者に魔物討伐の報告をした。彼らは驚きつつも称賛の言葉をかけ、俺たちにさらなる依頼を申し出てきた。
「賢者様とアーロン殿には、ぜひとも今後もお力を貸していただきたい。国にはまだ多くの問題があり、あなた方の助力が必要なのです」
俺は少し考えた後、アーロンと視線を交わし、彼の力強い頷きに背中を押された。
「……わかりました。俺にできることなら、喜んでお力添えします」
こうして、俺とアーロンの異世界での冒険が本格的に始まることとなった。果たして、俺たちが出会う新たな仲間や、試練はどんなものが待っているのだろうか。
続く
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