第31話 「書く」という自己表現の意義

「書くこと」は、単なる表現手段以上の意味を持っています。それは、自分自身と向き合い、自分の内面を解き明かす行為であり、同時に自分の存在を形にする作業でもあります。書くという行為には、言葉にしなければ見えなかった感情や考えを浮き彫りにし、自分自身をより深く理解する力があると感じています。


創作を始めた当初は、書くことが「何かを伝えるため」の行為だと思っていました。読者に何かを教えたり、感動を与えたりするために書く――それが目的だと信じていたのです。しかし、書き続ける中で気づいたのは、書くという行為が何よりもまず「自分のためのもの」であるということでした。書くことで、自分の中にある言葉にならない思いや感覚が形を持ち、自分が何を感じているのかが明らかになるのです。


特に、自分の中で混乱しているときや、感情がうまく整理できないときに書くことで、頭の中がクリアになり、次に進むべき方向が見えてくることがあります。言葉を紡ぐたびに、自分の中にあるモヤモヤが少しずつ整理され、「これが私の本音なんだ」と気づく瞬間があります。書くことは、まるで自分自身と対話をしているような感覚をもたらしてくれるのです。


さらに、書くことは自分の存在を形にする行為でもあります。私たちは日々の中でたくさんのことを感じ、考え、経験していますが、それらは言葉にしなければ流れていってしまうことが多いものです。書くことで、それらを記録し、自分がここに存在した証を残すことができます。書き上げた作品を見返すたびに、「このとき自分はこう感じていた」「こんなことを考えていた」と、自分の軌跡を確認することができるのです。


また、書くことは、自分の声を世界に届ける行為でもあります。誰かに読まれることを目的にしていなくても、自分が書いたものがどこかで誰かの心に触れる可能性がある――その可能性を考えると、書くことが一層意味深いものに思えます。書いた言葉が誰かの心に響き、共感や感動を生む瞬間があるかもしれないと思うと、書くことがより特別な行為に感じられるのです。


書くことには、自己表現だけでなく、自己発見や自己肯定、さらには他者とのつながりをもたらす力があります。それは、単なる作業ではなく、私にとっては生きる中で欠かせない営みです。書くことで自分自身を理解し、書くことで自分を形作り、書くことで自分を世界に伝える――それが、私が「書く」という行為に込める意義です。


これからも、「書くこと」を通じて自分と向き合い、表現し続けていきたいと思います。それが、私が生きる中で見つけた最も大切な自己表現の形だからです。

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