第30話 迷いながら書くことの価値

創作の過程では、迷うことが避けられません。「このテーマで本当にいいのだろうか」「この表現で伝わるのだろうか」と考え込んでしまう瞬間は、誰にでもあります。しかし、迷いながら書くことには大きな価値があると感じています。迷うことで自分と向き合い、深く考え、結果としてより深い表現が生まれるからです。


私は、迷いを「悪いもの」だと感じていた時期がありました。スムーズに進まない自分に苛立ち、他の人が次々と作品を生み出すのを見て焦ることもありました。しかし、あるとき気づいたのです。迷うということは、それだけ自分が真剣に作品に向き合っている証拠だということに。迷いの中にある葛藤や不安は、創作の中でしか生まれないものです。それを見つめ直すことで、作品がより強い個性を持つようになるのだと感じました。


迷いながら書くことの価値は、自分の本心を探る時間を与えてくれる点にあります。たとえば、あるテーマについて「本当にこれを表現したいのか」と自分に問い続けることで、より明確な意図が浮かび上がります。迷わなければ通り過ぎてしまうような細かい感情や、表現に込めるべき真意が見えてくることがあります。その発見が、作品に深みを加えるのです。


また、迷いは新しい道を開くチャンスでもあります。一度行き詰まりを感じたとき、方向を変えてみたり、異なる視点から考え直したりすることで、新しいアイデアが生まれることがあります。私自身、迷いながら書いた作品が予想外の展開を見せ、自分でも驚くような結果になった経験があります。迷いの中で生まれた選択肢は、想像以上に豊かで、創作の幅を広げてくれるのです。


さらに、迷いは自分の成長を促すものだとも言えます。簡単に書ける作品ばかりでは、自分の表現力や感性を深める機会を逃してしまうかもしれません。迷いの中で試行錯誤を繰り返すことで、自分がどのような表現を求めているのか、どんなスタイルが自分に合っているのかを見つけることができます。迷う時間が長いほど、完成したときの達成感や喜びは一層大きくなるものです。


迷いながら書くことは、決して無駄ではありません。むしろ、それは創作の本質の一部であり、より豊かな作品を生み出すための大切なプロセスです。迷うことで、自分の表現が磨かれ、書くことの意味を深く考えられるようになります。そしてその先には、迷いがあるからこそたどり着ける特別な作品が待っているのだと信じています。


これからも、迷いを恐れず、むしろその迷いを楽しみながら書き続けていきたいと思います。迷いの中にある価値を見つけ、自分だけの表現を探し続ける――それが、私にとっての創作の醍醐味です。

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