第27話:初めてのサイクルショップ②

カフェスペースに入ると、事務所から日吉店長が顔を出した。


「どう?お気に入りの子はいたかな?」

松平先輩に聞く。


さきほどまで少し興奮気味だった先輩は、

「みんな可愛くて、どの子がいいのか困ってしまって」

と正直に答える。


「それは嬉しいねぇ!ありがとう」


そこに事務スタッフの女性が飲み物が入ったカップをお盆に乗せて持ってきた。


「浅見くんはコーヒーなしなしで良かったよね?松平さんは紅茶にしておいたよ?ミルクが欲しかったら言ってね。

あ、俺の分も頼むよ」

スタッフさんに声をかける。


「「ありがとうございます」」

僕と先輩は頭を下げる。


さ、飲んで、と店長は右手を出して勧めた後、後ろのブックスタンドからいくつかパンフレットと冊子をテーブルに置いた。


「松平さんはマウンテンバイク以外はお考えではないんですか?」


紅茶に口をつけていた先輩の代わりに僕が答える。


「僕もクロスかシティサイクルを勧めたんですが、マウンテンバイクがいいと。

体型的にもまず軽さ重視で考えた方が個人的には良いかなあと思います」


「それはそうだね。じゃあいくつか候補を出してあげる。それで2人で相談して決めればいい。それでもいま一つ決め手にかけるなら他にも色々見て、ネットとかでもね?何度でも店に来てもらってもいいし。単に暇だからと、ここにお茶をしに来るのでもいいよ?」

となんの含みもない感じで笑う。


紅茶を飲みながらカタログに手に取って見ていた先輩は、

「私が最初に良いなぁと思ったのは、この子とこの子で…」


「ああ、あそこにあるタイプの」


「優雅くん、さっき優雅くんが言ってた軽量性の点でこの子達はどうなんですか?」


ん〜…とカタログスペックに目を通す。

日吉店長はわかってるんだから言ってくれればいいのにと目をやると、ニヤニヤしている。


「こちらはフレームも重いです。それに比べてこちらは少し軽めですけれど、油圧ディスクはいいとは思いますが、先輩の身長を考慮すると乗りづらいかもしれません」


「そっかぁ…」

僕の表情で悟る先輩。


「日吉店長のオススメは?」

ここで店長に助け舟を求める。


「これか、これか…後はいまは店にないけどこれ、かな?

こっちの2つはいま店に出しているもの以外にも別のカラーリングもあるし、えっと…次のページのこういうカラーリングだね。店にないものもこんな感じで選べるし、身長も幅広く対応している。

オールグラウンドタイヤを採用しているのも良いと思うね。浅見くんもセカンドバイクとしてどう?」

と、要らぬ商魂を出してくる。


「日吉店長よしてくださいよ。貧乏学生にはセカンドバイクは無理ですし僕にはパンタがいますから」


そっかあ、まあそうだよな、うんうんと頷く日吉店長。

なぜか先輩も頷いている。


「松平さんどう?」

と日吉店長。


ん〜…、と思案したあと、

 

「優雅くんが決めて!」

 

先輩はそう言ったのだった。

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