第26話:初めてのサイクルショップ①

「わ〜!いっぱい綺麗な自転車がありますね!」

 

店に入るやいなや、松平先輩の目は輝きっぱなし。


「はい、この辺りはシティサイクルですね」


「私も中学生までこういう形の自転車に乗っていました。といってもどこかにお出かけするときは、ほとんどお車だったんですが…」


 (やっぱりそうなんだ。想像通り間違いなくかなりのお嬢様だ)

 

「そうだったんですね?あ、あの辺りがロードバイクです」

と視線を誘導する。


「え?これはどこを持って乗るのですか?」

 

「スピードを出す時はここの部分のハンドルですね」


「かなり前の方に体の重心がいきませんか?乗りづらそうです」


「乗り慣れたらそう感じなくなるとは思いますが、最初は乗りにくいかもですね?一度試してみますか?」

スタッフさんをキョロキョロ探す。


「優雅くんこれは無理無理!絶対に上手く乗れそうにないですし、倒してしまいそうで怖いです」

と高速首振り。


「そうですか?試すならケガしないように僕が体を支えますし、大丈夫ですよ?」


「今はやめておきます。それよりも目的のマウンテンバイクはどこでしょうか?」

とキョロキョロ。


「あちらですね?」

先輩の手をとり、マウンテンバイクの方に歩き出す。


あっ…///。

と言ったっきり黙ってしまう先輩。


「先輩どうかし…」

と言いかけて無意識に手を繋いでいたことに気がつく。


「ご、ご、ご、ごめんなさいつい!」

手を離し頭を下げる


「だ、大丈夫ですよ?マウンテンバイクも色々ありますね〜!」

頬を赤らめつつも本題に戻してくれた。


この子可愛い!

あ、この子も!

この子は皆さんよりもタイヤが太くてマッチョさんですね。

一台一台見ながら感想を言っている先輩。


「浅見くんお久しぶり!」

そこに日吉店長が寄ってきた。


「あ、日吉店長!こんにちは!お久しぶりです。今日はお邪魔しています」


「どうぞどうぞ。来るなら連絡してくれれば良かったのに。今日はパンタくん連れてきてないんだ?もしかしてデート???」


「いえいえ!デートではないです!バイト帰りです。パンタは雨が降ってましたし。バイト先の先輩が購入を検討していまして」

と全力否定しておく。


「お、ありがたいね〜!ん?彼女はマウンテンバイクがいいのかな?」


「そうみたいです」

と話していると先輩が目をキラキラ輝かせながら小走りで駆け寄ってきた。


「先輩、店長さんの日吉さんです。日吉さん、こちらは同じバイト先の松平先輩です」

と紹介する。


「初めまして松平と申します。優雅くんのマウンテンバイクを見ていて、私も欲しくなりまして、今日は実際に拝見させていただきに参りました」

そして丁寧にお辞儀。


「こんにちは。どうぞゆっくりと気が済むまで見てやって下さい」

と言ってから僕の方に顔を近づけてきて

 

(浅見くん!浅見くん!彼女さん、凄い美人さんじゃないか!長丁場になるようなら、カフェスペースにおいで。珈琲か紅茶くらい出すよ)

と囁いて僕が否定する間もなく事務所に戻って行った。


「ん?」

と小首を傾げる先輩。


「あ、えっと、あとでカフェスペースにおいでって。飲み物を用意してくださるようです」


「あら、そうなんですね?」


「一通りは見られたんですか?気になった子はいましたか?」と尋ねる。


「みんな可愛い子ばかりで迷ってしまいます。優雅くんのおすすめはありますか? 」


「ん〜……、まず、マウンテンバイクはオフロードと呼ばれる凹凸の激しい悪路や山道を登り降りすることが出来る時点しなんです。衝撃を吸収するサスペンションがついていますから未舗装路や山道でも安定して走れる性能をもっています。 その代わりタイヤも少し太めですし、スピードが出にくいですし、有料の駐輪場の輪止めに入らないところもあります。

街乗りするだけならクロスバイクで十分だとは思います。山登りなどに対応していない分、街乗りとして無駄な性能がありません。その分、価格もリーズナブルですし装備も充実していることが多いです。

普通に街乗りメインで考えるならクロスかシティがオススメなんですが…」

と言い終わるやいなや


「優雅くんと同じがいいです!パンタくんはマウンテンバイクなんですよね?」

とたまに見せる意思ある目。


「わかりました。そうですね。先輩の身長なども考慮すると…トップチューブは短めのもので、ハンドル幅も狭めで、細めのグリップが好ましいかもです。あと、何より軽さを重視した方がいいと思います」


「ふむふむ」

頷く松平先輩。


「目移りしているようでしたら、ここらで一度カフェスペースにお邪魔して頭をフラットにしてみませんか?」


「さんせー!」

と言いながら、今度は松平先輩が僕の手をとってカフェスペースへと歩き出した。

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