第17話 ケジメ

「……」

「ちょっと」

「……」

「待ちなさいっての!」


 足早に先を行くアルティの腕を掴むと、ようやく足を止めた。


「……離してください」

「何をそんなに怒ってるのよ? ここじゃあれくらいのこと普通――」

「貴女は『準騎士』になったんです。言ったはずですよね、これは試験的な制度です。なのに、抗争の手助けをするなど、情報を得るにしたってやりすぎです」


 どうやら、彼女はエレシアが交わした内容に不満があるようだ。

 ――とはいえ、ベナから得られた情報はかなり大きい。

 それこそ、一回ぐらい手を貸してもいいくらいの価値はあるだろう。


「別に、そういう機会があるかもってくらいだもの。アルティちゃんが気にすぎなのよ」

「……エレシアさんが気にしなさすぎなんです。特定の組織の抗争に手を貸すなど、騎士なら間違いなく許されない行為です。『準騎士』だって、それに該当することになります」

「まだ手を貸すと決まったわけじゃないわ」

「……そんな適当な約束で、許されるものなんですか?」

「――まあ、それはないわね」


 口約束であっても、約束は約束――オズワール商会と交わしたのは契約のようなもの。

 特に、商会を名乗っている以上、そういった契約については特に重視する。

 エレシアが約束を守らなければ、報復される可能性も十分に考えられるだろう。


「……私が怒っているのは、エレシアさんが自分の身を大切にしていないことについてです」

「私の身?」


 それは、エレシアにとっては予想もしていない言葉だった。


「自分の身に危険があったとしても気にしない――だから、取引の内容に自分ことをを使う……貴女はそういう考えなのでは?」

「……否定はできないわね」


 痛いところを突かれた、というべきか。

 ――エレシアは最悪、オズワール商会との仲が拗れたとしても問題ないと考えていた。

 アルティに協力するという目的を達成することだけを考えている。

 仮にエレシアに何か危険が迫っても、剣の腕には自信がある。

 だから、自分の身に危険が及ぶ分には何も問題ない――自信過剰とも言えるだろうが、そういう考えだからこそ、治安の悪い町でも生きていけるのだ。

 ただ、その考えはアルティには当然、受け入れがたいもののようで。


「私とエレシアさんは今、パートナーなんです。私を無視して勝手に話を勧めようとはしないでください」


 アルティの表情は真剣で――怒っていた。

 少し前のエレシアなら、こういった手合いの相手はしない。

「はいはい、じゃあ今日限りで終わりね」と投げやりに言って終わっただろう。

 だが、エレシアは彼女にできる限り協力するつもりで行動している。

 ――投げやりな気持ちも、今は沸いてこなかった。


「悪かったわね。次からは気を付けるわ」

「……そうしてくださると助かります。私も、あの場ではよくない態度を取ってしまいました。申し訳ありません」


 アルティはそう言って頭を下げた。

 彼女なりのケジメといったところか。


「私は気にしてないわよ。それに、謝るべきは商会に対してなんだろうけど、わざわざ戻って言いに行くことでもないし、向こうも気にしないだろうから。でも、アルティちゃんって結構、感情的になりやすいのね」

「……誰のせいだと」

「ん?」

「何でもありません。次の場所に行きましょう」


 アルティはそう言うと、再びエレシアの前を歩き出す。


「ちょっとちょっと、行先分かってるの?」


 そんな彼女の後を追いかけて――二人は再び、捜査に戻った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

かつて『剣姫』と呼ばれた元騎士だけど、昔助けた女の子が騎士になって押しかけて来た 笹塔五郎 @sasacibe

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ