第15話 話を聞くだけ
エレシアがアルティを連れて向かったのは、今度は町の中心部にやや近づいたところ。
この辺りは人通りもそれなりにあって、一見すると治安もそこまで悪くないように見える。
もちろん――表向きにはそう見えるだけだが。
「次はどこに向かわれるつもりなんですか?」
「言ったでしょ、私がたまに仕事をしてるところ」
「それはどういった仕事を?」
「簡単に言えば用心棒ね。知っての通り、ここって治安が悪いから」
エレシアの強さを生かす、という意味では――用心棒というのはうってつけだ。
金払いがいいところもまた、仕事を受けるには十分な理由になる。
ただ、エレシアが常に必要とされているわけではないために、時々仕事を一緒にする程度の間柄、という形だ。
建物全体が赤色に塗られ、黒色の看板が出された建物の前で、エレシアは足を止めた。
「……オズワール商会、ですか」
「もしかして聞いたことある?」
「過去に一度だけ。違法とされる薬品を取り扱っている、情報が入ったために調査を。結果はシロでしたが」
「たぶんそういうのも扱ってるでしょうね。……たぶんクロかグレーだと思うけど上手く隠したのね」
「? 何か仰いましたか?」
「何でもないわ、中に入りましょ」
わざわざここでオズワール商会が怪しい――などと伝える必要はない。
真面目なアルティの性格を考えると、『ついでに調査もしましょう』と言いかねないと判断した。
目的はあくまで、『人狩り』の確保――今はオズワール商会に話を聞くのが優先だ。
建物の中へ入ろうとすると、屈強な身体つきをしたスーツの男に制止される。
「ここに何か用か?」
「商会長と話をしに来ただよ。私のこと、覚えてるでしょ?」
「無論、覚えているとも。エレシア・フェイレス――あなただけなら通しただろうが」
ちらりと、男はエレシアの後方に視線を向ける。
――やはり、アルティのことが気になるようだ。
「私はレイヴァート王国騎士団に所属するアルティ・エンバーです。今回はある事件の捜査のためにエレシアさんに同行をお願いしています」
「騎士かどうかは見れば分かる。……ある事件というと?」
男は一層、警戒を強めた様子を見せた――当然、事件の調査でわざわざ訪れたとなれば、『疑われている』と考えるのだろう。
そういう仕事をしている者達であるから、言い方は考えなければならない。
「それは――」
「王都で起こった殺人事件の捜査よ。先に行っとくけど、別に商会のことを疑ってるわけじゃないの。犯人と思しき人物の情報がほしいだけ」
「……少し待っていろ」
エレシアの言葉を受けて、男が建物の中へと入っていく。
「……本当に疑っていないのですか?」
「馬鹿正直に言っても得しないわよ。『疑ってるけど調査に協力してくれます?』なんてね。それに、情報を聞きに来ただけなのは事実だもの」
「そういうものですか」
アルティは少し納得のいっていない様子であった。
――やはり、正直すぎるところがあるようだ。
しばらくすると、男が扉を開いて言う。
「話を聞くそうだ。中に入っていい――だが、武器は置いてってもらうぞ」
「!」
男の言葉に、アルティは身構える。
エレシアはすぐにアルティに小声で話しかけた。
「平気よ、話を聞くだけだから」
「ですが……」
「警戒する気持ちも分かるけどね。ここは私に任せてもらえる?」
「……分かりました」
アルティは頷いて、腰に下げた剣を鞘ごと男へ手渡す。
エレシアも同様に剣を手放して――ようやく、商会長との話し合いの場へと向かうことができた。
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