第二の事件:毒ASMR殺人事件

第二の事件:毒ASMR殺人事件①

 私の生誕祭の当日、オタクたちと一緒に持ち曲を熱唱している時に、狭いライブ会場の奥から何やら視線を感じた。ライブ中だが、気になってその視線の方へ顔を向けると・・・そこには、シャンが居た。シャンは私に鋭い眼光を向けて、両手のひらをいただきますのときのように合わせて、周囲に気を放った。ライブ会場の電灯が全て破壊され、辺りは真っ暗になり、ライブは中止。シャンは私の手を引っ張って、半ば強引に私はタクシーに乗せられた。そして、彼女と自宅マンションに向かった。車中でも彼女は無言。クライム・フリークの次の事件を発見して、急いで私を呼びにきたのだろうが、わざわざライブ会場に対して破壊行為をしてまで私を連れて行く必要はあったのだろうか・・・

 タクシー内で彼女はカバンからいつものようにタブレットPCを取り出して私に渡した。

 そこには、『毒ASMR殺人事件 報告書byシャン・プー』と書かれたPDFファイルがあった。今回は警察じゃなくてシャンが作ったやつなのか。ってか、毒ASMR!!?奇っ怪な事件だなおい!

 ASMRは動画サイトや、アダルト業界の中で昨今数字を伸ばしていると聞くが、まさかそれを使って殺人が起こるとは!

 事件について読み進めていく。とあるアダルトサイトで同人サークル反町電波研究所が無料で配布していた18禁ASMR作品『くりぃむ・ライチ青春編:義姉の福来ふくらいさんが耳を舐め続けて、俺の耳が瀕死寸前なんだが・・・part1』を聞いた人物たちが皆、不整脈による心停止で死亡したのだという。原因はわからない。なんせ、原因を分析しようとこの音声を聞いた警察官、動画配信者、有名探偵もその音声で死亡してしまったのだから。そんな物騒な音声であるから、この特性を活かして、自分の嫌いな人間を殺すために、このASMR作品を共有するという者も出てきたらしい。一昔流行った呪いのビデオみたいなもんか・・・しかし、なんでシャンはこの事件がクライム・フリークの仕業だと考えたのか?・・・と思ってたら、すぐにその疑問は解けた。サークル名と作品タイトルの謎を解けたからだ。まず、サークル名。反町電波研究所。反町の曲でヒットしたのは「POISON〜言いたいことも言えないこんな世の中は」だ。反町をPOISONに置き換えると、POISON電波研究所つまり、毒電波研究所になる。そして、作品タイトル。『くりぃむ・ライチ青春編:義姉の福来さんが耳を舐め続けて、俺の耳が瀕死寸前なんだが・・・part1』の中で、気になった語を分析するとアナグラムになっていたのだ。それは、くりぃむ・ライチのくりぃむの部分と福来さんの福来の部分だった。これらを平仮名にして並べてみると・・・くりぃむふくらいになる。そして、この平仮名を組み合わせていくと、くらいむふりぃく→クライム・フリークになるのだ。なんというセンスの無い回りくどい匂わせである。これは、クライム・フリークの仕業に違いない!

 しかしながら、死をもたらす毒ASMRの謎を解くにはどうすれば良いのだろうか?そんなことを思っていると、私のもとに電話がかかってきた。知らない番号からだったが、なんと無く電話に出ると、いかにもさわやか会社員な感じの男の声がした。

『はじめまして!はかどるさん、私のお友達のシャンさんから毒ASMR事件解決についてのご依頼に関するメールをいただきまして!今回は助手として手伝います』

「どちらさまですか?」

『ああ、申し遅れてました。私は毒島ぶすじま小狭しょうきょう、裏の世界では悪魔の毒々探偵として知られています。私は古今東西ありとあらゆる毒を試してきました。私に効く毒はありません!!ってか、もうさっき件の毒ASMR聞きましたけど、私には効きませんでした』

「はあ・・・なるほど。じゃあ、あの電波はどういった仕組みで人間を殺したのですか?」

『1/fのゆらぎって知っていますか?そう、あの人を心地よくさせるとされる振動のことです。これは音にも当てはまりまして。自然のせせらぎ音などがそのゆらぎをもたらすと言われてます。有名な歌手の方の歌声もこの1/fのゆらぎが出ている場合もあります。はい、この1/fのゆらぎをこの毒ASMRは巧みに使ってまして。1/fのゆらぎの音声、まあ今回の場合は耳舐め音ですが、それを何層も重ねて、最高の1/fのゆらぎを持つ複合音を作って聞かせた後に、発砲スチロール音の擦れる音やマジックテープの剥がれる音、黒板をひっかく音なんかを聞こえるか聞こえないかの絶妙な音量で挿入し、そしてまた1/fのゆらぎの複合音を聞かせる、という感じで、心地よい音の挿入と絶妙な音量の不快音の挿入、これらを何度も何度も繰り返します。こういった音の構成を聞いた人はリラックスした時に出やすい副交感神経の興奮とイライラした時に出やすい交感神経の興奮を交互に延々と繰り返していくことになります。そうするとどうなるかわかりますか?車に例えると、交感神経はアクセル、副交感神経はブレーキみたいなものだと言われています。つまり、この音声を聞くと、身体の中の働き、特に心臓の働きにおいてですが、猛アクセルをかけて心拍数と血圧を上げ、全身に思いっきり血を送り込んだたかと思ったら、すぐに急ブレーキをかけ、心拍数や血圧を下げて、血を送り出す機能も一休みする、ということを体の中で何度も繰り返すようなことになります。そして、人間が生きている内で体験しないような不自然な動きを延々と続けた心臓は不整脈を起こし、最終的に力尽き心停止してしまうわけです。まあ、私はこのような体に毒になる音楽いっぱい聞いてきたので、何も効きませんが!ははははは』

 毒島さんはそう言った後すぐに電話を切った。

 私のマインドフルネス推理は今回は必要ないかも、そう思いもしたが、なんか、助手役の探偵にしたら、毒島さんはうさんくさいし、何か他に気づくこともあるかもしれないし、やっぱり私は自宅マンションに着いたらすぐに能力を用いて推理をすることにした。

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