目覚めた瞬間、少年はすべてを失っていた。
──記憶、名前、人の姿。
川辺に映るのは、長い尻尾と灰色の体毛に覆われた「獣」の姿。
言葉を発すれば、化け物と恐れられ、追われる日々。
だが心は確かに人間のまま。助けを求める声は、誰にも届かない。
そんな彼の前に現れたのは、異能の力「鮮花」をその身に宿す少女たち。
片や、命を断つことで死者を救う「白刃の羅刹」。
片や、笑い声一つで人を支配する「黄金の支配者」。
彼女たちは「花を持つ者」。
それは神に選ばれた証であり、同時に人を遠ざける呪いだった。
獣に成り果てた少年は、なぜ花を持ち、なぜ人間に抗えるのか。
そして、その身に宿る「咲いてはいけない力」とは──。
これは、名も知らぬ少年が世界に咲かせる、一輪の物語。
記憶を失った少年が目覚めると、彼の身体は鼠へと変貌していた――。
己の中に宿る“鮮花”の力、そして“羅刹”という存在。支配に抗う少女・ザクロと共に、彼は誇りをかけた戦いの旅へと踏み出す。
本作は、和風ダークファンタジーの魅力を存分に詰め込んだ一作。
緻密に構築された世界観と、信仰と信念の間で揺れ動くキャラクターたちの心理描写が見事に絡み合い、物語に引き込まれる。
少年とザクロの関係性も絶妙で、単なる戦いの物語にとどまらず、信頼や選択の重みが深く描かれているのが印象的。
しっかりとした構成と濃密なキャラクター造形によって、物語は常に緊張感を保ちつつも、時折挟まれる和やかな歓談が登場人物たちの人間味を引き立て、より魅力を増している。
和風の幻想的な雰囲気とダークな要素が絶妙に融合した、見応えのある作品。ダークファンタジーが好きな人には、ぜひ読んでいただきたい作品だ。