鍵の隠し場所

 乾清苑を出て警察車両に乗り込むと、佐伯は早速、「祓川さん。マンションで彼、秋貞君とすれ違ったこと、捜査会議で報告していないのではありませんか――⁉」と祓川を責めた。

「報告?」と祓川は不思議そうな顔をすると、「やつと被害者の接点を探す必要があるな」と佐伯の詰問を無視して独り言を言った。

 怒りを抑えながら、佐伯が尋ねる。「何故、彼が犯人だと思うのですか?」

「あの日、エレベーターの前で、やつと出会った。やつは四階でエレベーターを待っていた。管理人が知らない顔だと言うので、名前と連絡先を聞いておいた。お昼にはちょっと早い時間だったが、出前だと言う。確かに中華料理屋の店員らしい格好をしていた。あの格好ならマンションをうろついていても誰も怪しまないだろう。出前だと思うはずだ」

「出前に来たのではないのですか?」

「おかもちを持っていなかった」

「えっ――⁉」と佐伯が聞き直すと、祓川は面倒臭そうに繰り返した。「おかもちを持っていなかった」

「ああ~」と佐伯が頷く。

 おかもちとは、出前などで料理を運ぶ際に使う箱のことだ。出前だと言うのなら、おかもちを持っていないのはおかしい。何を運んで来たと言うのか。

「それに、聞いたか?」と祓川は言う。

「何をです?」と佐伯が答えると、「何だ。聞いていなかったのか――⁉」と祓川が声を荒げた。

「すいません」

「やつに、仲崎の部屋に出前を持って行ったのではないかと聞いた時、あいつ、『あっちには行っていない』と答えた。仲崎の部屋の場所を知っていたのだ。仲崎の部屋を訪ねたに決まっている」

「何故、仲崎の部屋を訪ねたのでしょうか?」

「鍵だろうな」

「鍵ですか――⁉」佐伯が首をひねる。

 頭の回転が早いからだろう。祓川の説明は余計な言葉を省き、いきなり核心をついて来るので、理解が追い付かない。

「やつは部屋の鍵を持ってきたのだ。仲崎幸太郎を殺害後、遺体をバラバラにしてゴルフ・バッグに詰めて部屋から持ち出した。仲崎幸太郎はゴルフ・クラブを持っていなかった。と言うことは、ゴルフ・バッグはやつが持ち込んだことになる。部屋を出る時、仲崎が持っていた鍵でドアに鍵をかけた。遺体を池に捨て、うっかり鍵のことを忘れて立ち去ってしまったのかもしれない。それに気がついて、あの朝、慌てて帰しに来た。そして、エレベーターの前で私とすれ違った。まあ、そんなところだろう」祓川は自信満々に言う。

「考え過ぎじゃないですか? 鍵は電気メーター・ボックスに置いてありました。被害者は鍵をそこに隠しておく習慣があったのではないですか?」と佐伯が言うと、祓川は「まあ、そうだろう」とあっさり頷いた。

 祓川の答えにいらついてしまう。

「可能性を考えているだけだ」と祓川は言う。

 仲崎幸太郎殺害の犯人についても、現時点で仲崎兄弟と野川孤高である可能性が高いという考えに異論はない。だが、「冤罪を出してはならない」というのが祓川のポリシーだ。その為には、ありとあらゆる可能性を考え、排除して行けなければならないというスタンスなのだ。

「そうですか・・・」佐伯は祓川のことを少しだけ見直した。

 傲慢に見えて、繊細に捜査を進めている。

 捜査会議で割り振られた祓川と佐伯への指示は、仲崎光輝から事情聴取を行うことだった。「じゃあ、次は仲崎光輝のもとに事情聴取に行くことで良いですか?」と尋ねると、祓川は素直に「うむ」と頷いた。

 祓川と佐伯は仲崎光輝と会いに向かった。光輝は父親の住むマンションからほど近い場所にある安アパートの二階に住んでいる。

 連絡を取ると、「ああ、家にいるから何時でも来てくれ」と光輝は答えた。

 兄の勇次はギャンブル癖があるものの、真面目に工場に勤めをして家族を養っている。一方、光輝はと言えば、父親同様、何をして生計を立てているのか分からないような暮らしをしていた。

「グラフィック・デザイナーをやっている」と光輝は言った。

 光輝の部屋を訪ねると、パソコンひとつ置いていなかった。グラフィック・デザイナーをやっているようには見えなかった。最近は輸入雑貨の卸売をやっていると言い、部屋の中にオリーブオイルの空き瓶が山ほど置いてあった。

 三十路を過ぎた独身の男の一人暮らしとあって、ごみ溜めのような部屋を想像していたのだが、逆に家具がほとんどない生活感の無い部屋だった。

 祓川は光輝からの事情聴取に興味がないようで、必然、事情聴取をするのは佐伯の役目となった。

 先ずは柿の木坂公園の池から見つかったバラバラ死体が仲崎幸太郎のものであったことがことを伝え、型通り、お悔やみを述べた。

「へえ~あれ、やっぱり親父だったんだな。まあ、そうじゃないかと思っていた」と光輝は他人事のように答えた。そして、「親父のあのマンション、売っても構わないだろう?」と尋ねた。

「マンションですか? もう暫く犯行現場として現状の維持をお願いします。その後、マンションをどう処理するかは、お兄さんとご相談されて決められてはいかがですか」

「ふん、兄貴か。あのマンションは俺が親父からもらったんだ。親父に『マンションをくれよ』って言ったら、『俺が死んだら好きにして良い』って言われたんだからな」

「遺書でも残っているのならともかく、口頭での約束は効力がないと思いますよ。相続者の一人であるお兄さんとよく相談して決めて下さい」

 あくまで刑事事件の捜査だ。民事に介入するつもりはない。光輝は納得が行かない様子で、「なんで兄貴と相談しなければならないんだよ」と不満そうだった。

 父親が亡くなった途端、マンションを売り払って金に換えようとするなんて、どうかしている。父親は保険金目当てで母親を殺害し、その子供は父親が殺されたと聞かされて悲しみの色ひとつ見せない。

 光輝のアリバイを確かめて来いと言われている。佐伯は「六月十一日の夜、何処で何をしていましたか?」と尋ねた。

「六月十一日の夜?さあ、何をしていたっけな・・・確か・・・ここにいたと思うよ」

「それを証明してくれる人がいますか?」

「ああ、いるよ。このところ、ずっとここで打ち合わせをしていたからな」

「打ち合わせですか?」

「うん。ちょっと新しい商売をやろうと思ってな。仲間と打ち合わせをしていた」

「夜にですか?」

「ああ、そうだよ。忙しいやつらだからな。夜の方が集まるのに都合が良いんだ」

 どうも怪しげな話だ。「その、一緒に打ち合わせをしていた方の名前と連絡先を教えてもらえませんか?」と佐伯が頼むと、「おいおい、そんなことまで言わなきゃあならないのか! 俺は親父を殺された被害者だぞ。まさか、俺のことを疑っているんじゃないよな」と光輝は顔を真っ赤にして怒鳴った。

 自分が疑われていることに気がついていなかったらしい。

「教えて頂けないとなると、こちらで調べるだけです。事件関係者のアリバイを調べることは、捜査手順のひとつなのです。アリバイがないとなると、それこそ、こちらとしても疑ってかかるしかありません。できれば、是非、ご協力、頂きたいのですがね」佐伯が嫌味ったらしく言うと、「じゃあ、一人だけだ」と言って、光輝は打ち合わせ仲間の名前を漏らした。

 名前を手帳に書き留めながら尋問を続ける。「お父さんが大金を持っていた件について、幾つか確認したいのですが、よろしいでしょうか?」

 佐伯の言葉に光輝は興奮した面持ちで言った。「金の話? あの金、兄貴が独り占めにしたんじゃないか。いや、きっとそうだ。あれ、親父の金だから、半分は俺のものだよな?」

「お兄さんが独り占めにしたという事実は今のところありません」

「そりゃあ、金を独り占めにしておいて、独り占めにしましたとは言わないだろう。刑事さん、しっかり調べてくれよ」

「分かりました。お兄さんは会社の同僚からお父さんがお金を持っているという話を聞いて、お金を借りにお父さんのマンションに向かったそうです。でも、『金は無い』と追い返されました。丁度、あなたから電話があったので、金の話をしたら、『俺が確認してきてやる』と、あなた、返事をしたそうですね?」

「そうだっけ? まあ、金を持っているのかどうか確かめに行って、ほら、そちらの刑事さん――」と言って、光輝は祓川に視線を向けた。「とマンションで一緒になったって訳よ」

 祓川は知らぬ顔だ。あくまで光輝からの事情聴取には興味がない。

「ああ、なるほど」と軽く頷いてから、「お兄さんとは、よく連絡を取り合っているのですか?」と続けて尋ねた。

「まあ、たまにね・・・兄貴も金は持っていないが、俺や親父と違って定職についているからな。毎月、きちんと給料ってものが支払われる・・・まあ、金は貸してくれなくても、飯くらい奢ってくれるからな」

 要は、光輝は食事を奢ってもらうつもりで勇次と連絡を取った。勇次は「悪いが今は飯を食わせてやる余裕がない」と断ると、「親父が金を持っているらしいぞ。それも大金みたいだ。金を借りに、行ってみたらどうだ? 俺には貸してくれなかったけど、お前なら貸してくれるかもしれない」と教えてくれた。

 父親が金を持っていると聞いて、喜び勇んでマンションに向かうと殺されていた――そういうことになる。

「お父さんは『お宝を売ってお金に換えた』と言っていたそうです。お兄さんは『家に値打ちものの宝なんて無かった』と言っていましたが、心当たりはありませんか?」

 光輝は「ああ――」と答えてから、「そうか。兄貴が家を出てからのことだからな。兄貴は知らないんだ」と言ってにやりと笑った。

 勇次は高校を卒業すると直ぐに家を飛び出している。勇次が家を出てからの話のようだ。

「では、お宝があったのですか?」

「さて、あれが宝かどうか、俺にもよく分からない。俺が学生だった頃の話だ。ある日、学校から家に戻ると、新聞紙に包まれた細長い箱のようなものが家にあった。『それ何?』と親父に尋ねたら、親父は血相を変えて、『そんなこと、お前は知らなくて良い!』と怒鳴って、箱を押入れに仕舞い込んだ」

「箱の中身は何だったのですか?」

 佐伯の問いに光輝が首を傾げながら答えた。「それが変なんだ。親父の居ない時に、箱の中身を確かめてやろうと思って、押入れを探したんだが、その箱みたいなものは無かった」

「箱が無くなっていたのですね?」

「ああ、親父が処分してしまったみたいだ。結局、それっきりだった。親父がどこから箱を手に入れ、それをどうしたのか。箱の中身が何だったのか。分からず仕舞いだった」

「お宝は確かにあったが、処分されてしまっていた・・・」

「それっきり、箱のことは忘れていたんだけど、この間、ふと思い出して、親父に尋ねてみたんだ。『昔、細長い箱のようなものを持っていたよな?』って。そしたら親父、『そう言えばあれがあったな』と呟いて、えらく喜んでいた。親父も忘れていたみたいだ。でも中身が何だったのか、やっぱり教えてくれなかった」

「お父さんはどこか別の場所にお宝を保管していた?」

 佐伯の言葉に、光輝は「保管? 親父が? はは。それはないね。売り払ったんじゃなければ、それをカタに金でも借りたんだろう」と意外に鋭いことを言った。そして、「もう少し、親父にしつこく聞いておけば良かった」と悔やんだ。

 幸太郎はどこからか貴重品を手に入れ、それを担保に金を借りた。そしてその貴重品の存在自体を忘れてしまった。光輝の言葉でそれを思い出した。幸太郎は貴重品を取り戻し、売り払って大金を得た。

 光輝の話から、佐伯の脳裏にはそんな筋書きが浮かんでいた。

「寝室の押入れから何か無くなっているようです。押入れには雑然と物が詰め込まれていましたが、隅に隙間ができていました」

「それが多分、金だよ。やっぱり大金を持っていたんだ」

「お金? 現金で保管していたのでしょうか?」

「親父が銀行に金を預けるものか! 銀行に預けると、何時、差し押さえられるか分からないと言って、常に現金で持っていた。お袋の保険金が降りた時も、親父はずっと現金で持っていた。今度も現金で隠し持っていたに違いない。やっぱり、兄貴が持ち去ったんじゃないのか!」と光輝が吠えた。

「まあ、まあ~」となだめてから、「ところで、あなたのお父さんに恨みを持っていた人物はいませんでしたか?」と佐伯が尋ねた。

「恨み? さあ? 親父も昔は色々、手広くやっていたみたいだからな。誰かに恨みを買うことがあったかもしれない。親父を恨んでいたやつなんて、それこそ星の数程いそうだけど、残念ながら俺は知らないね」

「手広く何をやっていたのですか?」

「兄貴同様、ギャンブル狂だったからな。派手に遊んでいた。遊ぶ金欲しさに、色々、危ない橋を渡ったんじゃないか」

「お父さんはどんなお仕事をされていたのですか?」

「親父の仕事?」と言ってから、光輝が考え込んだ。佐伯が「ご存じないのですか?」と尋ねると、「さあ、最近は何で飯を食っていたんだろう? お袋が生きていた頃は、会社勤めをしていたけど、お袋が死んでからは、仕事らしい仕事はしていなかったような気がする。時々、出かけることがあったから、何かやっていたんだろうけど」と光輝が答えた。

「そうですか。お母さんを亡くされてから・・・」

「うん。交通事故でね」この時ばかりは、しおらしく答える。

「今日は色々・・・」と佐伯が質問を打ち切ろうとすると、横から祓川が言葉を挟んだ。「ところで、お父さんの部屋の鍵が玄関前の電気メーター・ボックスから見つかっています。何時も、鍵はそこに隠してあったのでしょうか?」

「玄関前の電気メーター・ボックス――⁉ 本当か?」

「ええ」と祓川が頷くと、「言っただろう。親父は常に家の中で現金を保管していた。銀行を信用していなくて、現金を隠し持っていた。そんな親父が、鍵を玄関前の電気メーター・ボックスなんかに隠しておくと思うか⁉ そんなことをすれば、兄貴が留守中に部屋に上がり込んで、金を持って行ってしまうだろう。違う、違う。そんなところに鍵を隠したのは親父のはずがない!」と光輝が怒鳴りながら言った。

 玄関前の電気メーター・ボックスに鍵が隠してあったなら、勇次に限らず、光輝だって勝手に部屋に上がり込んで、金を持ち去っていただろう。

 光輝の答えに「なるほど~なるほど~」と祓川は満足そうに頷いた。

 電気メーター・ボックスに鍵を隠したのは、犯人である可能性が出て来た。奇しくも祓川の推理が裏付けされた形になった。

 仲崎光輝からの事情聴取を終えた。

 仲崎光輝のアリバイ確認が行われた。証言通り、事件当夜、光輝は部屋で友人と打ち合わせを行っていたことが分かった。だが、その打ち合わせは怪しげなものだった。オリーブオイルの卸売をやっているという仲間と仕事の打ち合わせをやっていたと言うが、捜査二課によれば、最近、健康志向からオリーブオイルの売上が伸びているそうだ。成分や品質を偽った偽物が市場に出回っているということだった。海外からの輸入物だと偽って、販売されているらしい。

 祓川と佐伯は光輝の部屋でオリーブオイルの空瓶を大量に確認している。

 光輝はそういった偽物の販売に関与している疑いが濃厚だった。一課から二課へ、情報が提供され、内偵が行われた。


 捜査の結果、被害者、仲崎幸太郎が不動産会社で働いていた過去があることが分かってきた。

 かつて、仲崎は警備会社で働いていた。妻の事故により巨額の保険金と賠償金を手に入れた後、警備会社を辞め、悠々自適の生活に入った。マンションを購入したりするなど、派手に金を使っただけでなく、持ち前のギャンブル癖から湯水のように金を使い、数年で保険金と賠償金を使い切ってしまった。

 その後、金に困った仲崎は非合法の金融機関から金を借りた。その金もギャンブルに費やしてしまったのだろう。借金の返済が滞るようになると、借金のカタとして不動産会社で働かされていたことが分かった。俗に言う「地上げ屋」と呼ばれる法律すれすれのやり方で不動産を買いあさる悪徳不動産屋の手先として働いていた。

 今でも幽霊社員として不動産会社に籍があるようだ。

「バブル期には随分、あくどいことをやっていたようです」

 一件の事故が捜査会議で注目を浴びた。仲崎幸太郎が関与していると思われている。

「死亡したのは梅沢うめざわトキという老婦人で、目黒区の自宅でガス中毒を起こして亡くなっています。梅沢さんは事故当時、一人暮らしをしていました。冬場、お湯を沸かそうとコンロにやかんをかけたまま、こたつで居眠りしてしまったようです。吹き零れた水がコンロの火を消してしまい、部屋に充満したプロパンガスによるガス中毒により死亡しています」そう捜査員が報告した。今度は、一人暮らしの老人の事故死に仲崎が絡んでいると言う。

 幸い、自宅前を通りかかった通行人がプロパンガスの匂いに気が付き通報した。ガス爆発を避けることができたが、トキは助からなかった。

 遺体に不審な状況は見られず、事故死と判断された。

 生前、最後に会っていた人物が仲崎だった。事故当時、トキは糸井不動産という不動産会社の地上げに遭っていた。トキが住む一軒家の周りが再開発の対象となっており、トキを含めた近隣の住人が好条件を餌に立ち退きを迫られていた。

 トキは「この家は祖父さんとの思い出の場所だ。おれの目の黒い内は、この家は売らない!」と立ち退きに反対していた。かつてここで、夫の栄三郎えいざぶろうと蕎麦屋を営んでいた。栄三郎が死去した後、蕎麦屋は閉めてしまったが、この家に愛着があった。

 トキの死後、一人息子の敦夫あつおがまるでトキの死を待っていたかのように、一軒家の売却に同意し、大金を手にしている。

「まさか、息子が母親を殺害したとは思えませんが、金に困っていたことは調べがついていました。当時の捜査員に話を聞いたところ、地上げに同意しないトキさんに業を煮やし、仲崎がトキさんを殺害、ガスの元栓を開け、やかんを置いて事故を偽装したのではないかという疑いがあったようです。『仲崎が、ガス爆発でも起こって辺り一面、焼け野原になれば良いと考えたふしがある』と担当の刑事は疑っていました。通行人がたまたまガスの匂いに気が付いたので、最悪の事態は避けられました」

 捜査会議で担当刑事よりそう報告があった。

「しかし事件は事故として処理されたようだな」係長が尋ねる。

「はい。せめて死体に首を絞められた跡でもあれば、他殺の疑いあり!――ということで遺体を解剖に回すことができたのですが、異常は見られませんでした。刑事は遺体を司法解剖に回すように勧めましたが、母親の死後、直ぐに家を売り払うような息子です。息子の同意を得ることができずに、遺体は荼毘に付されてしまいました。遺体を解剖していれば、違った結果が出たかもしれません。残念です」

 またひとつ、仲崎が関与したと思われる事件が見つかった。

「梅沢トキの事故についても、詳しく調べてくれ。仲崎幸太郎の事件に繋がっているかもしれない」

 捜査会議はそう結論付けた。梅沢トキの関係者、それに野川孤高から話を聞く必要があった。住民票から野川の東京での住まいが分かっているのだが、留守でまだ話を聞くことができていなかった。

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