第25話 ベイリールの夜
「そうか――。アリアーデとアルたちの出会いが懐かしいな――。島には今も
と、ユーヒはルイジェンに確かめる。
「――ほこら? 何のことだ?」
と返すルイジェン。
ルイジェンはそんな祠の話など聞いたことが無いようだった。
「あ、いいんだ。まだ記憶が混同している部分があるのかもしれない。気にしないで。たぶんどこかと勘違いしたんだ――」
ユーヒはそう言って話を畳む。今のルイジェンの反応だと、テルトーの湖の島には祠はないということになる。
無かったものが増えるのはわかるが、在ったものが消えるというのも1000年以上もたてば当たり前かもしれないと、そう思うことにしておく。
「さて、そろそろ船に戻ろうか? 今朝が早かったからもう眠くなってきたよ?」
「はあ? 何言ってる。ここからがお楽しみだろ?」
「え――? 帰らないの?」
「ベイリールの夜は長いんだ。いいところがある、ほら行くぞ?」
ルイジェンはそう言うと、ユーヒに会計を急がせて、二人は屋台をあとにした。
ベイリールの街は確かに「夜が長い」。一晩中篝火が焚かれ、人々が行きかい、あちらこちらで喚声が上がる。
よく聞くと、剣戟の音さえ聞こえてくるのは、冒険者たちが多い証だ。酔った冒険者が腕比べをするために「
「
相手に対し、
なお、この「
「ほら、こっちだ!」
「ああ、まってよ。」
ルイジェンが急かして走るのになんとかついていくユーヒ。エールをすでにひっかけているため、なんとなく体が火照っているが、海風がひやりとして今は涼しくも感じる。
ルイジェンは建物の間を抜け、高台へと向かう。
ユーヒもとにかく黙ってついていった。
「ここだよ、ユーヒ! 見てみろよ、ベイリールの街が一望できるぜ?」
そう言って、高台の端の手すり付近で眼下を指さすルイジェン。
ユーヒも、ルイジェンの隣まで進むと、やや下方へと視線を移す。
眼下に広がる街並みはすでに日が暮れていて暗くなっている。屋根屋根は黒い影となっているが、通りに掲げられた篝火が煌々と街路を照らし出し、入り組んだ路地まで綺麗に光が並んでいる。
さっきまでいた屋台街のある波止場沿いの通りは一層にぎやかで、光が集結しているが、その先には海が広がっているため、今度は波止場や少し離れた海面に停泊中の船たちの篝火が、黒い海面を照らし出している。
「わぁあ、すっごい綺麗だね――」
「だろ?」
「これはなかなかに見ごたえがある景色だよ。たぶん一生この風景は忘れないと思う。ありがとうルイ、いいところに連れて来てくれて――」
「へへ、いいっていいって。旅費も宿賃も飯代ももらってるんだ。俺は「
ルイジェンとの契約は、シルヴェリアのエリシア大神殿までとなっている。
その間に寄るべきところ、寄らなければならなくなったところには同行してくれるという約束だ。
場合によっては旅費を稼ぐために、クエスト達成の補助もしてくれると、「彼」は言った。
それにしても、やっぱり、エルフ族の血を濃く引いているのか、肌が白く、整った顔立ちはいつ見ても惚れ惚れする。
これほどの美男子であれば、女性が放っては置かないところだろうが、ルイジェンから女性関係の話や、女遊びの話などは一切聞いたことがない。
(もしかしたら、エルフ族の血の所為で、異性に対して恋愛感情が芽生えるまでには相当の年数が必要なのかもしれないな。実年齢はともかく、精神年齢的には見た目とほぼ変わらないとか言ってたような気がするし――)
「ねえ、ルイ。ルイは好きな女の子とか、いたことはないの?」
思わず口をついて出てきてしまった。
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