第24話 ルイジェンの生い立ちを少し


 ルイジェンが生まれたのは、テルトーの街だった。

 シルヴェリア王国王領内テルトー。それが街の正式名称だ。

 

 現在シルヴェリア王国は、南のガルシア王領と、北のヴィント公領とに分かたれていて、それぞれに統治機構が異なっている。


 王領の統治は言うまでもなく、ガルシア王家である。

 公領の方は、ルシアスの死後、妻のアリアーデ・デル・ヴォイドアークが形式上の領主となったが、彼女のたっての願いにより、レイノルド・フレイジャが一時的に執政しっせいという形で政務を担当していた。

 そののち、アリアーデ自身はメルリアを置いて、竜人族の世界へと帰ってしまう。

 メルリアは父の遺志を継いで、冒険者ギルドの長に就任し、しばらくたった後、レイノルド・フレイジャの死より少し前に領主の地位をアリアーデから禅譲された。


 と、ルイジェンは聞いている。


 その数年後、テルトー以北をヴィント公領とすることが正式決定され、テルトー以南を王領とすることになる。


 つまり、ルイジェンの生まれ故郷は、シルヴェリア王国国王領の最北の街ということになる。


 テルトーからは実際、ソードウェーブの方がシルヴェリアより近く、王領と公領の間に関所もなく自由に出入りできるため、ルイジェンも若いころからソードウェーブに訪れており、自然と冒険者ギルドへと登録する流れになった。



 新生精霊族――。

 と言っても、その体形・容姿・標準的な身体能力には様々な特徴があり、個体差が大きい。


 よりよく原精霊族の容姿や身体能力を残しているものは、人族との間の混血児だろう。

 一番最初の新生精霊族はユーフェリア・リュデイルイーと、人族の男性との間に生まれた。


 ただ、ユーフェリアには生殖機能はなく、出産機能もない。

 ゆえに、その男性の「種」とユーフェリアの「種」を結び付け、精霊族の科学技術によって誕生したと伝えられている。

 

 生まれたのは男子であり、生殖機能を有していたらしい。


 これを受け、まだ健在であった若い原生精霊族女性の「種」と、若い人族男性の「種」を結び付ける希望者を募ったところ、数百以上のカップルが応募し、ことごとく培養が成功した。


 そして生まれたものたちが、いわゆる『第一次新生精霊族』と呼ばれるものたちだ。


 その後、早いものですでに第5世代にまで至っている者も現れ始めている。


 総じて、生殖機能の不全はなく、最後の原生精霊族であったユーフェリアが逝去せいきょしたことで、原生精霊族はこの世界から消滅することになった。


 が、今では、新生精霊族たちが、その他の種族と同様に恋をしたり、婚姻をしたりするようになり、混血児の種類は他種族間との間にも生まれ、生活するようになっている。


 ルイジェン・シタリアは第4世代新生精霊族で、母が新生精霊族、父は人族である。

 ルイジェンが生まれて数十年後、父は他界し、母は今でもテルトーの実家を守っている。



「ねえ、ルイジェンのお父さんやお母さんって、どんな人なんだい?」


 いきなりユーヒが質問を投げた。


「な、なんだよ急に――」


 ルイジェンは食べかけていたチキンの骨付きもも肉を手から滑り落ちそうにして慌てて応じる。


 二人は今、ベイリールの屋台街の一角で、「焼き鳥」を食べながら、エールを飲んでいた。

 先ほどすでに冒険者ギルドを訪れ、チユリーゼさまやレイノルド公が冒険者たちを訓練していた中庭や、創業当時のメンバーがよく集まっていた執務室、当時の食事のメニューの展示物などを見て回ってきたところだ。


 その中で、初代ギルマス、アルバート・テルドールはソルスという村で、人族の父母の間に生まれたという表示看板と、そのアルバートが初めて父からもらった木の短剣のレプリカが展示してあった。


 ルイジェンは興奮のあまり、飛び上がってしまいそうになったが、周囲の目があるため、何とか平静を装うことが出来た。


 ユーヒに、あれがアルバート・テルドールが最初に使った木の短剣で、ギルドの名称にもなり、意匠にも使われているんだぜと、説明するも、


「そうなんだね――」


と、ユーヒはたいして盛り上がらない。


 当時のメニューの復刻版とかも展示されていて、英雄たちが何をこの食堂で食べていたとかいう話も、ルイジェンは目を輝かせて聞いていたのに対し、ユーヒはぼーっとしたまま反応が薄かった。


 そんなことの後、食事をしているさなかに、いきなり父母の話になったものだから、さすがに面食らってしまったのだ。


「父はもうずいぶんと前に死んだよ。人族だったし、俺は小さかったから、あまりよく覚えてないんだ。母は今でもテルトー村に住んでいるよ」


 と、ルイジェンが端的に答えた。


「テルトー村!? 村の東側には、そこそこ大きな湖が無いか?」

と、今日一番の食いつき具合を見せるユーリに、ルイジェンは、大きく思わずのけぞりながら、

「あ、ああ、東側というよりは、ほぼ中央だな。湖の中央には島があって――。あ、今はシルヴェリア王国政務庁が、その島へ渡ることを禁止しているけどな?」

と、答える。


 ルイジェンはその後にユーヒが零した言葉に驚愕することになる。

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