第26話 やっぱり帰るのか?
「――え? 女の子?」
と、ルイジェンが戸惑いの表情を見せる。
「前に言ってたじゃないか。見た目年齢と精神年齢は大体一緒ぐらいだって。ルイの見た目的に、そろそろそういう心情とか芽生えてたりするんじゃないかなと思ってさ? ハーフエルフのことはあまりよく知らないから、教えて欲しいんだよ」
ユーヒはあくまでも一般的なハーフエルフ族の生態について興味があったに過ぎなかったのだが、ルイジェンは少し
「いないよ……」
とだけ、短く言った。
さすがに、すこし気まずい質問だったかとユーヒは後悔し、慌てて次の句を継ぐ。
「ほら、僕の場合、前にいた世界では、人間でいう30間近だったからさ。恋愛云々って少し落ち着いちゃう年だから、若い子とその感覚が少しずれちゃったりして、ルイの行きたいところに一緒に行ってあげられないとか……」
「ど、どういう場所のことを言ってるんだよ!? お、俺はそんなところには興味はねぇよ!」
あ、しまった、少しベクトルが違う方を向いてしまっているような気がする。
「――ユーヒはそういうところに行きたいのか?」
「え? そういうところって、その、女の子とあれやこれやってこと?」
「――そうだよ」
「う~ん、僕はそういうのは、いらないかな。今はそんなことを考えている場合じゃないし。そもそも、そういう場所には興味がないから」
「――なら、よかった」
「そう?」
そうか、ルイジェンもそういう場所は苦手だってことでいいのかな。まあ、今はまだってことかもしれないし、何かで手痛い目に遭ったことがあるとかかもしれないから、この話題はここまでにしておこう。
それよりも――。
「明日はとうとうソードウェーブだね。ギルマスにはすぐに会えるかな――」
「たぶん、問題ないと思う――」
ユーヒにはその答えがあまりにも自然すぎて、この時は大した違和感を感じなかった。
ギルマスのメルリアは、面会を求める冒険者に快く応じる性格なのだろうぐらいにしか考えていなかったのだ。
「そうか。それなら心配ないね。あとは彼女が僕の話を受け入れてくれるか、だけど――」
こればかりは会って話してみなければわからない。
隣にいるルイジェンでさえ、僕の話を恐らく半分も信じていないだろう。
「なあ、ユーヒ……」
「ん? なに?」
ルイジェンが珍しくトーンを落として
「ユーヒの言うとおり、お前が「地球」とかいう別の世界からやってきたのが本当で、そこに帰れる方法がわかったら、やっぱり、帰るのか?」
「え――?」
あまりよく考えていなかった。
いや、帰る方法を探すために、ここまで来たことは間違いないし、帰れるのなら帰りたいとも思う。
だから、ここでいう「考えてなかった」は、帰ることについてではなく、この世界に二度と戻ってこれなくなるということの方だ。
ユーヒ自身、これまでに数日、「
ユーヒが右も左もわからないのに、ここまでついて来てくれ、道筋を示してくれたと言っても過言ではない。
「――あ、いや! 当然だよな! 余計なこと聞いちまった、今のは忘れてくれ。ユーヒ、ベイリールもいい街だけど、ソードウェーブはもっといいぞ? なんたって、冒険者の街だからな!」
ルイジェンがこちらの返答を聞く前に話を畳んでしまった。
だが、今のユーヒに先程のルイジェンの問いに対する的確な解答はない。
ユーヒも、この問題は時間が解決してくれるだろうと今は割り切っておくことにする。
「しってるよ。ルシアスがソルスの村から海岸線までを整備して港を作ったところから始まったんだ。それまで公爵という最高位の貴族位を与えられながら、領地を受領せず、ガルシア王の「用心棒」をやっていたルシアスが、冒険者ギルドを立ち上げるという夢をアルに託して、自分はその礎となる拠点を整備したんだ。そんな、ルシアスの想いが込められたソードウェーブは、冒険者たちの心の拠り所になっているはずだと、僕も思いたい」
「ああ、その通りだぜ? ソードウェーブはまさしく冒険者たちの拠り所さ。駆け出し冒険者から熟練冒険者までみんなあの街に集まる。『ソードウェーブに戻れ』は冒険者たちの合言葉なんだ。何か困ったことが起きたら『ソードウェーブに戻れ』、心が折れそうになったら『ソードウェーブに戻れ』、祝い事があれば『ソードウェーブに戻れ』、冒険者を辞めようと決意したら『ソードウェーブに戻れ』――ってな」
そう言ったルイジェンの顔からは先程の憂いはもう消えていた。
そうだ。彼もまた「冒険者」だった。
そこにはルシアスの想いと初代ギルマスのアルバート・テルドールとの想いがしっかりと伝わっていることを感じられる。
「冒険者」は常に希望を胸に前へ前へと進むものだと、ルシアスは身をもってアルたちに示したのだから。
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