第2話 ぼくは夕日
「な、あ!? 僕はどうしてこんなとこにいるんだよ~~!」
まあ、叫んでも、誰も答えてはくれないはずだ。だって、僕の言葉は日本語なんだよ? あの人たちが日本語を話せるなんてどうして思えるのさ?
とんとん!
と、いきなり僕の肩を叩くものがある。
もしかして、
「何かの手違いでしたー、てへっ。夢だと思って忘れてくださ~い」
とか言われて、目が覚めるフラグではと思い、期待しながら振り返る。
「あんちゃん――。そこどいてくんねーか? 俺が通る道なんだからよ?」
振り返った僕は、思わず腰が抜け、その場にへたり込んでしまう。
目の前に立ちはだかる大きな図体。首から先に人間のそれはなかった。
(う、う、牛が喋った! しかも、日本語を――!!)
慌てて、自分の顔を
だけど、幸い、顔は人間のままのようで、ちゃんとぺっちゃんこの顔をしていた。
「あ、あ、あ――」
僕は言葉が出ずに、へたり込んだまま、口をパクパクと動かしているだけだ。
「ほら、兄さん立てるかい?」
と、麗らかな声が響く。この展開は、もしかしてヒロイン登場?
そんな淡い期待に駆られ声のした方へと目を向けた。だが、僕の手を引いて立たせてくれた人は、女の人じゃなかった。耳のなが~い色白の青年。
「ごめんね、旦那。こいつ、ボクの連れなんだ。ここはボクに免じて許してくれないかなぁ」
その耳長の青年が、牛頭に向かって言い放つ。
「どうするかなぁ? ああそうだ、お前が今晩俺の
牛頭がそう返す。
はっきり言って、言ってる意味がわからない。牛男とエルフ男の「ちょめちょめ」なんて想像しただけで変な汗が止まらない。
「今、なんつったお前――。俺にお前の夜伽をしろだと? その臭い鼻が半分にならないうちに、さっさと消えるんだな?」
へ? 今このエルフが言ったの? ちょっと、容姿と言葉が合ってないんですけど~!
「おもしろい、なら、やってみるかぁ?」
「お前、いい加減にしろよ? このクインジェムの
「蒼龍かどん竜か知らねぇが、お前こそその綺麗な顔がぐちゃぐちゃになる前に――ぶへぇ!!」
あー! いきなり、剣の柄で殴ったんですけどぉ!
「お? まだ、鼻が半分になってなかったようだな? よかったな、今ならまだ、臭いが嗅げるぜ?」
「こ、このやろう!!」
牛頭が繰り出す右拳は正確にエルフ男の顔面に向かっている。しかし、エルフ男は涼しい顔をしたまま避けようともしない。
どうぅっ!!
と、鈍い音が響くと、牛男の拳がエルフの顔に到達する前に停止する。そして、ずるずると、牛男は内股姿勢でへたり込んだ。
うぐっぐぐぐう――、と、(おそらくだが)苦悶の表情を浮かべる牛男。あれはかなり痛そうだ。
この時点で、エルフ男の側で勝負ありだと、周囲の皆が思ったに違いない。よくは見えなかったが、エルフ男が牛男の股間に打撃(だと思われるなにか)を放ったのだろう。
だが、エルフ男はそれで終わらなかった――。
そこから、ひたすら剣の柄で牛男をべしべしと打ち据える。骨折したり、顔が変形するなどというまでではないが、執拗に、べしべしと叩きつけるように打ち据えるのだ。
いわゆる、『
あれは、皮膚の痛覚にダイレクトに痛みを伝えるため、かなり痛いと聞いたことがある。ある意味、杖や棒で殴られるより、数倍痛いらしい。
わぁ! べしっ! おべぇ! べしっ! べふぅ! べしっ!
「や、やめてくれぇ~! ゆるしてぇ~!」
と、とうとう牛男は逃げ去って行ってしまった。
「ふん! すこしばかり図体がでかいからと言って調子に乗りすぎるから痛い目見るんだ――。最近ああいう輩も増えて来たなぁ――って、兄さん、立てるかい?」
「あ、ああ、あり、がとうございます――」
「ところで兄さん、厄介事から救ってやったんだ。ボク、お腹がすいてるんだよね? カレーなんか食べたいなぁって――」
「え?」
「だーかーらー、カレーが食べたいんだよー」
「カレー、ですか。でも僕、お財布もってないから――」
「え? もしかして、無一文?」
「え? いや、この格好ですし、ね――」
そう言って
だってさ、寝る時の格好ってこんなもんだろ?
「――ちぇ! なんだよ! それならそうと先に言えよな! 助けて損しちまったぜ。金無いなら用はねぇよ。じゃ、俺、いくから――」
「あ、あ! ちょっとまって! 今は何も持ってないけど、何か御礼がしたいから――。その前に、ちょっと聞いてもいいかな?」
周りの人すべてと言葉が通じるかなんてわからない。今はこのエルフが唯一の頼りだ。
「えっと、僕の名前は
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