ペンではなく剣を握ることになった素人作家、「自作世界クインジェム」は自分が思ってたより過酷な世界だった!?~ユーヒ・ナメカワ奮闘記(仮)

永礼 経

第1話 『クインジェム』


「よし、これで完結っと――」


 僕こと、滑川夕日なめかわゆうひは、うだつの上がらないサラリーマンだ。年齢は30歳になろうかというところだ。


 なんだかんだ趣味で始めた「書き手」も、ようやく一つの物語を完成させるところまで続けられた。


(まあ、評価は大したことないけどね――)


 そうだ、評価の数値は全くと言っていいほどのものだ。しかも、自分で書いておきながら、出来栄えに微妙な『しこり』が残っている。


(もちろん満足してはいけないとは思う。でも、いいじゃないか。最新話を投稿しても、もう二人ほどしか訪問してくれなくても、それでも書き続けたんだ。最後まで書き続けてちゃんと終わりまで書けた。それだけで今回は充分だ。自分にもちゃんと書けるって自信になったから――)


 だから、ありがとう、アル、ケイティ――。君たちが僕をここまで連れて来てくれたんだ。


 本当にお疲れ様――。


 物語の最後は彼ら主人公たちがその世界を去って150年ほど後のエピソードで幕を閉じた。

 

 そこにはたぶん、僕自身の願いが込められているんだと、そんな感じもする。


 完全に一から作り上げた「世界」。主人公やその他の登場人物たち――。


 そんな世界が、この先もずっと色褪せないで輝き続けてくれるといいのに、と。



 さあて、次はどんな物語を書こうかな――。やっぱり流行りに乗っかって悪役令嬢とか溺愛とかなのかな――。


――それ、お前書ける?


 と、頭の中の誰かが問いかけてくる。


(無理――だな……)


 だよなぁ、そもそも「悪役令嬢」の意味が理解できていない。えっと、悪役の娘ってことでいいのかね? つまり、ラスボスの娘? なんかちがうよーな気がする。

 溺愛って、結局、ベタ惚れされる展開ってこと? 男主人公だとただのハーレム小説じゃないのか? わからん。


 女主人公にして男どもにちやほやされる物語なんて、女子の気持ちが分からん僕に書けるわけないって!(笑)


 じゃあ、男♡男ならどうだ? 


――あ、無理。背中がむずむずしてとても想像できない。


 考えただけで、体のあちこちに異常な居心地の悪さを感じ、冷や汗が出る始末だ。



(ふぅ――。結局、僕には『ファンタジーこれ』しか書けないんだよな――。だから、また、空想世界の構築でもするとするか――。新しい世界、新しい世界――。って、今書き終えたばっかですぐに思いつくわけないだろう!)


 もう寝よう。


 今日はとても疲れた。


 最終話とエピローグの二話連続で書き上げたから。投稿は明日の朝9:00だ。


 たくさんの人が読んでくれたらいいのになぁ――。でも、最後までお付き合いしてくれた人が満足してくれるのが一番いいよね。


 とにかく、寝よう。明日も仕事だしね――。次の物語はまた明日。寝たらいい案が浮かぶかもだしね――。


 じゃあね、おやすみ、アル、ケイティ、みんなも――。


 あ、そう言えば『この世界』に名前つけてなかったじゃないか――。まあ、いいか、今さらだしな。

 現実、この世界にだって名前があってないようなものだ。


 『地球』? 『3次元』? 『リアルワールド』?


 全部、世界の名前じゃない。この世界は「この世界」なのだ。


 だから、別に名前なんてある方がおかしいんだよ。


 でも、もし名前を付けるとしたら――。


「五つの種族が住まう世界」だから、「クインケ五つのジェネーラ属性のムンディ世界」 ――。



 『クインジェム』――。


 ああ、いいんじゃないか――。明日、書き足そうか? いや、今さらだな。もう終わったんだ――。


 そうか、終わっちゃったんだな……。



 そうして僕は眠気に誘われ、深い深い闇の中へと落ちて行った。




――――――




「の、はずなのに! なんだここはぁ!!」


 僕は街の通りの真ん中で一人叫んでいる。


 周囲を見渡すと、明らかに人間じゃない人たちが歩き回っている。いや、人間ももちろんいるのだが、猫か犬かわからない耳を頭に生やしながらも、恐らくは革製と思われる上下を着こみ、腰にはまさしく剣を帯びているものが歩いているのだ。


 他にも、羽の生えたちっちゃい人間が空をせわしなく飛んでいたり、耳がやたらと長く、色白の美男美女も目に映る。


「――獣人? 妖精? エルフ?」


 物語の中の記述として見たり、アニメの中で描写されているようなそんな「人間」が通りを当たり前に歩いているのだ。


 僕は今、自分の置かれている状況を全く把握できていない。

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