第5話 Side瑠璃


 あれからずっと、舞ちゃんのことが頭から離れない。


 正直彼女のことは、俺の中でものすごく大切にしてきたつもりだ。

 このレンタル彼氏という立場で誰か一人を特別に思うのはダメだというのはわかっているけれど、思いというものは仕方がないものだ。


 一緒にいて心地良い人。

 少し変わっていて、自分にはない視点を持っていて、いつの間にか毎月彼女に会うことを楽しみにしてしまっている自分がいた。


 本業以外で特にすることもなかったからと始めて見たレンタル彼氏という副業は、案外大変なものだった。

 そもそも俺は根っからの人見知りだ。

 女性経験だってそんなにある方じゃない。

 引きこもってゲームをしていることの方が多い人生だったから、もはやゲームが恋人ともいえるような人間だ。


 そんな俺が初対面の女性とデートだとか、そんな簡単にいくわけがない。


 それでもすぐに諦めて投げてしまうのは性に合わず続けてきたが……舞ちゃんと出会って、いつの間にかこの副業を楽しんでいる自分がいることに気づいた。


 彼女は神社が好きだ。

 俺は神様とか信じてはいないけれど、彼女に付き合ってよく各地の神社を巡った。

 ある時、手を合わせながら願いを込めているのだと思っていた彼女の口からぽろりと漏れたんだ。


『ありがとうございます』と。


 俺が『何でお礼?』と尋ねると、舞ちゃんはきょとんとしてから笑って答えた。

『神様に願いを込めても、聞いてくれるとは思ってないもん』

 それならばなぜ神社をめぐるんだと眉を顰める俺に、彼女は笑顔のまま続けた。


『神様にはね、日々生かしてくれてありがとうって伝えるの。それと今は──、瑠璃さんに出会わせてくれてありがとう、って。感謝を伝えて、この願いのために私は頑張るからねって、決意を伝える。それが私のお参りの仕方かな』


 少しおかしな、でも綺麗な心を持った子。

 惹かれてはいけないのに、そんな彼女に惹かれていく自分に戸惑いながら、気づかないふりをして距離を保ってきた。


 舞ちゃんだから手を繋がなかったんじゃない。

 誰ともない。

 それは俺が、今まで生きてきて誰かと手を繋ぐという習慣がなかったからだ。

 なんてコミュ障だ……。

 自分でもそう思うが、そのせいで悩ませてしまっていたのだと思うと、胸が痛む。


 もっと傍にいたい。

 手を繋ぎたい。

 このままでいたくない。


 次に会うのは、来月。

 舞ちゃんの誕生日。


 俺は湧き上がる決意を胸に、スマホを手にした。








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