第24話
使われていない旧校舎とはいえ、学校の中にモンスターの巣窟があるのはいかがなものか。
一体全体何がどうなってこんな事に……と、考えたところで気が付いた。
ダンジョンだこれ。
ゲームならではの仕様、というか環境というか。
平和な街のはずなのに、何故か下水道ではモンスターとエンカウントするようになっていたりするアレだ。
そしてこの旧校舎がこうなっているとなると、原作ではここで何かしらのイベントが起こると考えられる。
これはやはりここで決まりか。では早速施錠された門を蹴破って……はいけない。環境を保全しないと。
原作ではきっとどこかで鍵を入手するか、或いは別の場所から侵入できるようになっているはずだ。それを俺が蹴破ってしまったらルートがぶち壊しになってしまう。
他に手段が無いならそれでも強引に侵入するところだが、幸いここはどうとでもなる。
この旧校舎は木造三階建てで、横は教室が五つは収まる長さがある。入口には事欠かないだろう。
少し離れて外観を眺めながら歩くと……あった。二階の廊下の窓が開いている。
「よっ、ほっ、ほいっと」
大ジャンプで強引に飛び込んでもいいのだが、ここはスマートに壁を伝ってするりと侵入する。原作では絶対にあり得ない芸当だろう。
早速寄ってきたネズミのモンスターを蹴り飛ばすと、他のモンスターに見つからないように移動する。これも環境保全の一環だ。
「うーん……?」
その後、二階と三階の教室を見て回ってみたものの、どうにもピンと来ない。
どの教室を覗いてもただ埃っぽく古びた廃墟といった様相で、ここにミリーを監禁するというイメージが沸かない。
夕方になって西日が差し込んできているのもあってか、ここまで見てきた全ての教室があまりにも明るすぎて、監禁という行為とはそぐわない気がしてならない。夜になればまた印象は変わってくるだろうか。
「暗い方が……一階か?」
一階から侵入した主人公がモンスターを倒しながらダンジョンを攻略し、最上階でボスと戦う。
そんな様式美が適用されているとの考えから一階は放置していたが、こと暗さだけなら周囲の木々が日光を遮っている一階が一番だろう。
そうして向かった一階はどうも他の階とはレイアウトが違うらしい。
二階と三階は全て同じ広さのクラスで使う普通の教室だったが、一階の一部屋目が妙に広い。内装は全て取り払われているが、僅かに残った痕跡から……恐らく職員室。
二部屋目はまず間違いなく保健室。
そして一階最後の三部屋目は……開かない。施錠されている。
「え、面倒臭っ」
この校舎のどこかに鍵が置いてあって、それを見つけてここを開ければ中には宝箱がある。RPG的にはそんな感じだろうか。
校舎の外に出て窓から中を覗いてみると、何やらごちゃごちゃと雑多な物が詰め込まれた物置のような部屋だった。
見た感じでは、暗さは良し。ただ、とにかく狭い。
監禁には一番相応しい場所のように思えるが、物が多くてどうにも狭苦しい。
救出に突入してきた主人公とはその場で戦闘になるだろうから、それなりの広さはあって然るべきだ。
「いや、RPGなら広さは関係無いか……?」
これがアクションならそれなりに暴れ回るスペースが必要だが、RPGなら極論人一人が通れる隙間があればそこで戦闘は発生する。
現実的にはあり得ないかもしれないが、ゲームの仕様にケチを付けても仕方がない。
そうなるとやはりこの物置が第一候補になるわけだから、次に必要なのはこの部屋に入るための鍵だ。
「………………窓から入るか」
ここはあくまでゲーム風の現実なんだ。環境保全したところで何か意味があるとは思えない。どうせ主人公だって扉を蹴破って強引に突破するに違いない。
まだ見ぬ主人公を脳筋バカだと決め付けた俺は、嵌め殺しの窓を格闘スキルレベル五で習得した『鉄斬掌』で窓ごとスパッと切り取る。手刀から切れ味のある青白いオーラが出てくる便利な技だ。いよいよ人間離れしてきたかもしれない。
「よっ、ほっ」
高い位置にある窓枠に手を掛け、軽くジャンプして頭から上半身を窓に突っ込み、そのまま部屋の中へ落ちる様にしてくるんと前転。
扉を蹴破るであろう乱暴な主人公とは一味違う華麗な入室を決め、一見何も無い物置を見回す。
ゲーム的に鍵の掛かった怪しい部屋に何も無いことなどあるはずがない。そう考えて部屋中を探し回ると、衝立のような物の奥に地下へと続くあまりにも怪し過ぎる穴があった。
「…………」
こんな怪しい穴があるもんかね、という言葉をグッと飲み込む。ここにケチを付けても仕方がない。
穴を覗き込むと案の定暗くてよく見えなかったので『ペフ』の光で照らしてみる。今のところ『ペフ』は治癒よりも光源目当てで使うことの方が圧倒的に多い。
『ペフ』で照らされた穴は幸い底が見えないほど深いということもなく、五メートルほど下に石の床が見えた。
ご丁寧にも壁に埋め込まれた金属製の取っ手が床まで続いており、これを梯子のように使って上り下りするのだろう。ただ、その取っ手に残った埃を見るに、期間は不明だがしばらく人の出入りは無いようだった。
放棄された何かの施設か何かがあるのか、と考えながら穴に飛び込んでみると、そこは地下室ではなく地下道だった。
その細い一本道を少し進むと、やけに仰々しく飾り付けられた重厚な扉に行き当たる。
絶対ボス部屋だこれ。ということはここはボス部屋前通路。ぬるいゲームならこの辺りにセーブポイントがあるんだろう。
「もしもーし」
中にボスがいた場合、俺が倒してしまうとさすがに不味いかもしれない。そんな懸念からノックをしてみるが返事は無い。
というか中に気配は無いし、そもそもここのボスは多分俺だ。ということはここは俺の部屋。
そう思って遠慮なく扉を開けると、そこはかなり広い部屋のようで、奥の方は暗くて全く見えなかった。
やはり通路ならともかく部屋はさすがに『ペフ』一つだと暗い。そこで何か適当な棒に『ペフ』を十個ぐらい付けて明るくしようと周囲を見回すと、入口の脇に謎のスイッチを発見した。
ここはボスの部屋でボスは俺だから俺の部屋。そして俺の部屋にあるスイッチは俺のスイッチ。なので躊躇なくパチリと切り替えてみると、部屋の壁に据え付けられていたらしい謎の照明器具が一斉に灯りを燈した。
もし爆発でもしたら次のゲルド君には気を付けてもらおうなどと考えていたが、ただの照明のオンオフのスイッチだったようだ。いよいよ家っぽくなってきた。
改めて明るくなった部屋を見ると、部屋の左右で全く様相が異なっていることがわかった。
左側はキッチンや戸棚にベッドやテーブルといった生活感たっぷりの内装で、奥に見える扉はおそらくトイレや風呂関係だろう。
右側は本棚が多く、他にはいかにも胡散臭いビーカーや試験管のような実験器具の類が設置された机が並んでいる。
本棚に詰め込まれた本の背表紙を確認してみると、そのほぼ全てが魔法関係。つまりここは昔の魔法使いが籠って研究でもしていた部屋だったんだろう。
「決まりだなこりゃ」
監禁する場所はここで決定だ。こんな部屋に何も無いってことはないだろう。戦闘するのに十分なスペースもある。
別のイベントのための部屋という可能性は大いにあるが、その場合はごめんなさいしてやり直せばいい。
さあ、あとはミリーがハーレムに加入するのを待つだけだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます