第5話 再び画商。

 わたしは、描きあげた絵を前回と同じ画商に持ち込むことにした。


「また、貴女ですか。妄想話はもううんざりですよ。こう見えて私も結構忙しい――」


 前置きは無しで、キャンバスを画商の前に出す。

 今度こそ彼の目が興味深げに見開かれた。


「買いましょう。5万円でどうです?」

「は、はい、ありがとうございます」

「他にもありますか? 持ってきてください」

「ちょちょ、ちょっと待ってください」


 後ろに振り返り、"わたし"と相談する。


 因みに、彼女はわたしの脳内に存在するはずなのに以心伝心というわけにはいかない。

 彼女との意思疎通は声に出して会話するか、筆談で行う必要がある。


 ――今回は時間がないのでヒソヒソと小声で密談を交わす。


「他にも絵が描ける?」

「描けるし、描いたのもあるよ」

「そっか。じゃあまた見せて?」

「オッケ。いくつか用意するね」

「お願い――あっ、大丈夫です」


 画商の方に振り返ると、険しい目をして、わたしの方を見ている。

 ……あっ、怪しまれている……汗々。


「まだ、その設定は"生きてる"んですね。まあ、良いです。良い絵が買えるなら、貴方が狂人でも全然構わないですからね」

「あ、ありがとうございます」


 今のわたしは、狂人扱いされても確かに否定できない状況ではある。

 逆に、狂人でも取引を続けてもらえるというのだから、何も不満を言うことはない。


「今回の絵は50万円の値を付けて売りに出してみます」

「は、はい」


 文句はありませんね? と有無を言わせぬ眼光に、素直にうなづくわたし。

 10倍かー。

 その値段で売れたら確かに嬉しいし、わたしにはその値段で売るなんて無理だし、彼の実力なので何も文句はない。

 それにわたしの生活費は今の仕事で得てるし――ね。

 一応は結果的に最終いくらの値が付いたのだけは知りたいところだ。

 それが、"彼女"の得るべき賞賛なのだと思う。


「ありがとうございます! 出来るだけ早く次の絵も持ってきますから! 待っててください!」




――――

あと2話で完結です。(早!w)


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