第3話 ダッシュダッシュ。

 

 彼女が描いた傑作をどうにかして他の人にも見せたい。

 彼女が他の人の賞賛を得て、これまでの時間と努力が報われてほしい。

 どうにかして――


「そうだ!」


 思いついたら、即行動。

 わたしは画材屋に走り、真っ白の新しいキャンバスを買ってきた。


「"わたし"、何するつもり?」

「こう、する、つもり!」


 買ってきたばかりの真っ白のキャンバスに彼女の傑作を重ねる。

 彼女の絵の方はわたしの頭の中にしかないから、思惑通りピタリと重なり、固形の油絵の分だけ上に浮き出て見える。


「……もしかして、トレースするの?」

「当たり。これであなたの絵を現実に存在させれるわ。いいでしょ!?」

「……いいといえばいいけど……」

「なによ、はっきり言って、"わたし"!」

「……キャンバスだけじゃ、無理じゃない?」

「あっ、絵の具と絵筆!」


 わたしはこの日2度目のダッシュをする羽目になったのだった。




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