悪の裁判
王座に座った者、声色から推測するに少女が言葉を発した.我らが王が存在した.それだけで構成員たちの熱気が上がりざわめきが広がる.
[ 静かに.王のお出ましだ. ]
これまでへらへらとしていた色欲の鋭い声が聞こえると共に、騒がしかった構成員たちが静まり返る.
それだけで色欲の地位の高さが伝わり周りに緊張が走った.
その緊張が走り少しぴりつく空間に王座に座る少女の低くもなく高くもない不思議な声がよく響く.
[ 色欲.そこの少女を起こしてくれ. ]
眠らせたのはお前だろうと少女が呆れたように命令する.
[ は-い.、ボス.仰せのままに . ]
色欲がパチッと指を鳴らすと魔法が解けるかのように少女が目を覚ます.
[ ……? ]
何やらここがどこだか、自分が今どういう状況にいるのか理解できてない様子.
[ おはよう.さっきのことは覚えてる? ]
色欲が少女に近づき、随分と親しげに話しかける.
目の前に現れた男に眠っていた少女の視点が合うと少女が驚いたように、口を開く.
[ さっきの男…!ちゃ、ちゃんと覚えてるよ. ]
めんどくさそうに、少し狼狽えながら少女が話す.
王に近い者にする態度じゃないと彼を慕う者たちの殺意が少女に一斉に向けられる.
[ 覚えてるなら良かった.じゃあ今から裁判を始めるよ. ]
色欲が楽しげに妖艶に微笑み宣言した内容は少女にとって意味がわからないこと、組織の人間にとって最も待ち望んでいたことである.
[ 色欲.勝手に話を進めるな…と言いたいところだが、予定していたことだから、まぁいいか. ]
先ほど色欲の隣にいた色欲より小さめの男、傲慢が色欲に噛みつくが王座に座る少女の視線で押し黙る.
彼ら組織の人間にとって王が第一.王に反することはできない、しないという暗黙の了解が当の本人の知らぬまま、彼らの間ではあった.
[ はい、裁判開始-.あ-、めんど.勝手に進めといて. ]
そんな二人を横目に傲慢よりも小柄な男、“怠惰”-スロース-が軽く手を叩き緩く開始を宣言する.そして横にいた青年の肩を軽く叩いた.
[ なんで俺?まぁいいけどさ、、.]
肩を叩かれた青年、“強欲”-グリード-が面倒臭そうにに呟きつつも受け入れ、口を開く.
[ 今夜の裁判は俺が受け持つ.異議があるものは前に. ]
全体に聞こえるように、その見た目からは想像できないような大声を出し、再び全体が静まり返る.
[ 待って.裁判ってどういうこと?私にもちゃんと説明してよ! ]
そんな静かな空間に反して眠っていた少女の高い声が響き渡る.
少女が朧気な足取りで前に出て強欲を問いただした.
[ あぁ、君は絶対参加だから.もう逃げられないし、見てたらわかるから黙ってな. ]
強欲が仲間に向けていた不器用ながらも優しい笑みを消し冷たい表情で、彼女に告げる.
彼らのいう裁判とは、そのままの意味で彼らにとっての敵、または味方となり得る者を彼らのルールで裁くことである.上手く味方になることができれば生存.失敗し敵として認定されれば即死亡という彼らの本拠地である組織以外では通用しないルールをもつ裁判のことだ.
つまり眠っていた少女の生死は今から始まる裁判に全てが掛かっている.今はおとなしく従うのが吉と言えよう.
少女が黙ったのを見て強欲が再び口を開き宣言する.
―[ 異議がある者いなさそうだな.じゃあ裁判を始めよう ]―
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