第34話 這い寄るテクニシャン(自称)

 高火力デストロイヤー部隊。

 このパーティーを表現するならまさにそれだ。


 まずは敵と出会い頭にアル君が魔術をブッパし、モンスターが浮き足だった所を学者以外がフル火力で殴る。

 戦いの妙味もへったくれも無い残存することを一切許さない殲滅パターン。

 ぶっちゃけると、どんなモンスターが出てきたかさえも俺はほぼ確認出来ていない。


 だって、かろうじて蠢く原形すらとどめていないモンスターを殴ってトドメ刺すだけなんだもん。

 なんだろ、瀕死のゴキブリをスリッパで潰してる気分です。


「えっと……ごめんなさい。また、役に立ちませんでした……」

「気にしない気にしない。そのうち戦い方なんて慣れるって」


 気軽な感じで言ってくれるシャルさん。


「うむシャルの言うとおりだ。気にする必要は無い。見て学ぶのもまた武への道。そなたを守り成長させることもまた、アルハンブラ殿より仰せつかった我らの仕事だ」


 厳つい牙を震わせながら豪快に頷くマッシュさん。

 俺はその言葉に頬が熱くなった。

 どんな時にでもアル君は俺のことを考えてくれている。

 天才過ぎるからこそ人と馴染めなかった彼が、俺を思って前もって手回ししてくれた依頼……

 自惚れかな?

 でも、自惚れても良いよね?

 アル君が俺を想って頼んでくれてんだもん。


 ……うん♪


「や~だ~、ここに乙女が居る~♥」


 嬉しそうに囃し立てるオネェ戦士のロイ。

 この野郎、面白いおもちゃ見付けたみたいな顔しやがって……

 お前みたいな勘のいいオネエは嫌いだよ。

 オネェ……

 あ、でも、ロイなら……


「ね、ねぇ、ロイさん」

「もう、ロイさんだなんて他人行儀ね。あたしの事はロイ様とお呼び♪」

「あ、じゃあ、ロイ様」

「抵抗もせずにマジ呼びするとはやるじゃない。で、何を聞きたいのかしら? 教えてロイお姉様って言いなさい」

「ジワジワとハードル上げてきやがった」

「細かいことは気にしちゃだめよ。で、で? あたしに何が聞きたいの?」

「えっと……その、あの……」

「もう、何よ? そんなに聞きにくいこと?」

「メッチャ聞きにくいです」

「あら、それなら聞くのやめようかしら」

「ああ、待って待って、あの……えっと……もうちょっと時間が経ったら、聞きますね」

「はは~ん、分かっちゃった♪」


 そう言ってニヤリと笑うと、左手の人差し指と親指で輪を作り、そこに右手の人差し指をスコスコ入れだした。


「って、おいこら! その仕草!!」

「ああん♪ 若いって良いわ!! エロスに興味津々」

「やかましいわ! って、ちゃいますし!?」

「ふふふ、心は乙女、身体は男! それって真乙女!! だからこそ教えてあげられる女でも使える男をイカせまくるゲイ達者な究極テクニックを貴方にも教えてあげるわよ♪」

「ちょ、そう言うことじゃ無くて!」


 まったく……この腐れオネェは……

 ま、まあ、ちょっとは興味あったりするけどさ……でも、今聞きたいのはそれじゃなく……

 って、どちらにせよまだ聞けるほど仲が良くなった訳じゃないし、もうちょっと時間が経ってか――


「うぉー、こんなとこに見たこと無い生物がおるんですが!?」


 ファッ!?


 何だようるせぇな!

 人が思案してるのに急に叫ぶな。


「これはこの蜃気楼の塔で最近増えているという噂のスライムザリガニ。ストーンザリガニを食べ過ぎたスライムがその細胞遺伝子を吸収し攻撃力と強靱さを得た生物と言われてます。これは塔内に元来生息する在来種同士のハイブリット種となりますね」

「それって、メッチャヤバないですか!?」

「大丈夫です。繁殖力は無く、今のうちにここらで潰しておけば在来の浸食は防げます。ちなみに攻撃力は上がってますが、スライム特有の柔軟な肉体を失っているため危険度は逆に下がっているといえますね。ハサミにさえ気を付ければ大丈夫。挟まれた時がチャンスです!」


 悩む俺をよそにチームアラフィフの学者コンビはやたらと生き生きしていた。


 蜃気楼の塔、現在四階層――


「せりゃ!」

「ほあちゃ!」

「ちょいなー!!」


 え? 何を珍妙な奇声を上げてるんだって?

 や、ちゃいますよ。


 ロイから「おりゃー!!」だの「せいっ!!」だのは可愛げが無いから直しなさいって。

 ぶっちゃけそんな忠告は聞く耳無かったんですがね、一言、


「彼氏が引くわよ」


 って言われりゃね。

 べ、別にアル君に嫌われるとは思ってないよ!

 思って無いけどさ、こんな俺と付き合って苦労させてるんだから、少しは、その、恥ずかしい思いをさせないように努力しないと駄目だよな……

 って、思うわけで。


 今更一人称を『私』に変えるのは勇気がいるけどさ、やれることから一つ一つやりたいなって……


「ほら、リョウたんそっちに言ったわよ!」


 オネェさんの注意を促す指示。

 俺の前に迫るのは巨大な植物の怪物。

 それはすでに何度か戦った怪物だ。

 見た目はリンゴにそっくりな実を付けているが、気色悪いことにそのリンゴには凶悪としか言えない顔が付いていた。しかも枝が震えると同時に発射されるみたいにして果実を投げつけてくる。

 それは一つ一つが意思持つ怪物。

 だが見た目が邪悪なだけで、正直恐れるほどの敵とは言い難い。

 さらにアル君が用意してくれた手甲のおかげもあって、作業の如く片っ端から叩き落とし、隙を突いて一気に親木に連撃を叩き込みへし折る。


「ふむ、記憶が無い以前に元々戦闘慣れしている訳では無さそうだな」

「しかし、反射神経や身体能力だけであの動きとは。我々よりも頭一つは抜けている。いやはやさすがは白狐族だな」


 背後から聞こえるマッシュとガイアの重厚な声音。

 一瞬、白狐族って何だ?

 とか思ってしまったが、そういや俺の見た目って白狐族だったな。

 気を付けないとあっさりとボロが出そうになる。


「リョウたん、またそっちに行ったわよ!」

「ああ、もう! 次から次にしつこい!!」


 正直、敵の強さは今のところ恐れるほどでは無い。

 だけど辟易するぐらいとにかく数が多いのだ。

 アル君の絶対火力で視界の化け物達を何度も一掃しているのに一向に減る気配が無い。

 父さんが古いN天堂のゲーム機でやってた大作RPGの狂ったエンカウント率を思い出させるような湧き方――


「うぉっ!」


 余計なことを考えていたら地面が突然うねり、その亀裂から飛び出した根がさっき打ち落とした化け物リンゴを地面に引きずり込んでいく。


「今の根は親木の? ゴミ掃除でもしたのか?」


 何て思っていたら地面に突然芽が出て瞬く間に俺の身長と変わらない苗木に生長した。 さらに驚いたのは、早送りのように次々と実が成り馬鹿でかい樹木へと変貌を遂げる。

 どえらい高効率なリサイクル力。

 だけど、これってもしかして……


「アル君!」

「何?」

「ここら一体の地面を水浸しに出来る? 凍らせるのでも良いから!!」

「? 何か気が付いたんだね、了解した!」


 アル君が両手を打ち鳴らすと同時に地面に触れる。

 高速で紡がれる魔術言語。

 一瞬にして地面がふやけたみたいに波打つ。

 何度見ても俺には魔法と魔術の違いというのものが分からない。

 分からないが効果があったのだけはすぐに分かった。

 異常な急成長を遂げた木々が、一瞬だけさらに成長を加速させたが、突然葉を散らせると枝が萎れさらにリンゴが腐り落ちたのだ。


「え? ねぇ、何が起きたの?」


 罠士のシャルが目の前で起きた突然の変化に目をしばたたかせる。


「なるほど、リョウ殿そう言うことですか」

「さすが生物学者。気が付くのが早いですね」


 いち早く気が付いたのはさすがというかヒデさんだった。


「どう言うことだい?」


 意外だったのはアル君の反応だ。意味が分からないとばかりに小首をかしげた。

 いや、それはここに居るほとんど皆が同じ反応と言えた。

 ただし、もう一人の学者は遅れて気が付く。


「あ、そうか、そう言うことか。根腐れや!」

「正解です」

「リョウ、根腐れって?」

「だいぶ前にじぃちゃんの突発的な趣味で畑作りを手伝ったことあるんだけどさ」

「突発的な趣味って何さ?」

「暇を持て余した老人の優雅な暇つぶしだよ。まぁとりあえずそれは良いとして、じぃちゃんその手のことに疎いくせに何の知識も仕入れずに山盛りの肥料を畑にぶち込んで、さらにジャブジャブ水を毎日あげてたんだよ。そしたら、数日でトマトの苗が全部駄目になってね。調べたら根が真っ黒だったの」

「それが根腐れ?」

「うん、ここの植物は生物という点を考えると成長が異常だったからね。それは魔物だからなのかここの土が異常なのかは分からなかったけど……」

「リョウさんは生物が原因なら水を大量に撒けば強制的な吸収を逆手に取ることが出来る。もし土が原因なら、地面を凍らせれば植物の異常過ぎる成長が逆に栄養不足を招いて枯らさせることが出来ると考えたんやな。さすがやな~」

「なるほど。ボクは今まで火力で押し切ることしか考えてなかったけどこんなやり方もあるのか……」

「まあ、結局はアル君の魔術があったから出来た倒し方だから、火力には違いないけどね」


 これは火力で押し切れるタイプの強い人だと逆に思いつかない発想だったのかも知れない。

 それにしても意外なのは……いや、ある意味でらしい・・・とも言えるアル君の反応。

 明らかに偏った知識……

 うん、少しずつでも俺が変えてやらな――


「リョウたん! -10点よ!! 減点! 減点! どぅわぃ減点ッ!!」


 考え事をしようとした途端に突然横からシャシャリ出てくるオネェ。


「何さ……正当な戦い方じゃないって言いたいの?」

「違うわよ! そんなのはどうでも良いの!!」

「どうでもって……ロイはリョウの何に駄目出しをしているの?」

「アルキュン! さっきのリョウたんの悲鳴聞いた? 『うぉっ!』よ『うぉっ!』。あんたはゴリラか! ぎゃーとかうぉー何て叫び、乙女としては失格も失格、だいっしかあぁぁぁぁく! リョウたんは乙女力が圧倒的に不足しているわ!!」

「や、そんなこと言われましても……」

「そうだね、リョウにはちょっと乙女力が足りないかもね」

「アル君まで酷い! それって悪ノリだよ!!」

 

 プウと頬を膨らます俺ににこやかな笑みを向けるアル君。

 むぅ……

 怒ってるんだぞ、俺は。

 そんな優しい笑みを向けるな。


「ああん♪ 良いわ、イイッ!!。そうよ、その表情こそ乙女、ゾクゾクするわ! あとは言葉遣いだけよリョウたん!!」


 ……めざといオネェさんだよ、アンタは本当に。

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