第28話 彼氏とメッチャイチャつきたい

 ポォーッ!!


「……ん?」


 どこかでMJがシャウトして……じゃないじゃない、えっと汽笛の音か。

 ふぁあぁあぁぁぁぁ……えっとー、ここどこだぁ?

 暇を持て余す度にアル君にちょっかいを出しては車掌やらの妨害に遭っていた俺は、いつの間にか深い眠りに落ちていたらい。

 う~ん……

 あかん、どうにも頭には膜がかかったみたいにハッキリとしない。


「目が覚めた? もうすぐ獣人国デルハグラムに着くよ」

「獣人国デルハグラムかぁ……空飛ぶ機関車とは言え、結構長い旅だったね。ここが目的地何だよね?」

「そうだよ。ここを乗り過ごしたら魔王が支配するデルアノールに入るんだよ。だから、ここで降りないとえらいまたここに戻ってくるまで延々と乗り続けることになるよ」

「へー、魔王が支配する……って、何ですと?」


 今、予想だにしないファンタジーモノ臭い発言を聞いた気がするんだが……

 厨二? この世界の住人、皆厨二?


「あ、言ってなかったっけ? 最北の地は輪廻の魔王レオニスが治める地だよ」

「え? 何その死んでも死ななさそうな称号、怖い」

「四大魔王の中では一番の穏健派で知られてるけど――」

「って、ちょっと待ってアル君! 俺、魔王が居るとか聞いてないんだけど。それに四大魔王ってことはメッチャクチャいかちぃのが四人も居るの!?」

「キミに聞かれなかったし関わることも無いからね。それにしてもリョウは本当にのんびり屋さんだね。魔獣がいるんだから、魔神や魔王ぐらいいるでしょ」


 この愛しのイケショタめ、林先生もビックリな初耳をあっさりとぶっ込んできやがった!

 まぁ、そりゃRPGとかファンタジーなら魔王ぐらい普通にいますよ。

 だけど向こうの世界にはそんなん居なかったから想像なんて……想像、なんて……


 冷静に考えてみりゃ、何考えているのか分からない規格外の力を持った統治者って意味じゃ、向こうにも山ほどいたな。

 お米の国の金髪大統領とか熊をも倒す人類最強の男とか粛正大好きな黒電……


 ※ これ以上は危険なため、ご想像にお任せします。


 うむぅ……

 しかし改めて考えてみたら、俺が如何にこの世界に興味が無かったのかが分かる。

 まぁ、ぶっちゃけ俺はアル君さえ居ればそれで良いんだけど、さすがにこの世界の住人になるなら最低限知っとかないとやばいこともあるよな。


「ねぇ、アル君……」

「何、この世界を少しは勉強する気になったの?」

「正解」


 漠然とアル君のこと知りたいとか支えたいとか思っていたけど、こりゃ本格的に勉強しないとダメっぽいな。

 だって俺だもん。

 一歩間違うと……いや、間違えなくても、あっさりとどえらいことやらかしかねない。

こう言う時こそ、あの・・父さんの息子なんだって痛感する。

 

「ま、いっぺんに覚えようったって、時間には限りがあるし、能力にも限界があるからね。まずは宿に行って、言語の続きを勉強しようよ」

「アル君……」

「えっと、どうしたのさ? 突然にむくれて」

「宿屋は勉強の場じゃ無く、イチャイチャの場だと思うのですが?」

「リョウ……」


 うわぉ、アル君がまたチベットスナギツネみたいな顔してはる!


「物事には順序ってものがあるんだよ。キミはこの世界に馴染みたいの? 馴染みたくないの? どっち?」

「馴染みたいし、アル君とイチャイチャしたい。てか、むしろイチャイチャしたい。と言うか、今すぐメッチャイチャイチャ所望です! しょもうです!!」

「本能に忠実か!!」


 アル君から鋭い突っ込みを受けたと同時にまた汽笛が鳴った。


 何だよ汽笛まで俺に突っ込み入れるのかよ。

 どうせ突っ込まれるなら、俺はアル君のアル君に突っ込まれた……


 ポォー!! ポォーッ!! ポオォォォオォッ!!


 発狂した汽笛が鳴り響くと同時に前のめりになるような揺れが襲う。

 うん、停車が実に雑。

 これで何度目かの停車だけど、もう少し丁寧にしてほしいものだ。


「ほら、余計なこと考えてないで急いで降りるよ。乗降客が居ないと分かればあっという間に出発しちゃうんだから」

「待ち時間ってそんなに短いの?」

「鉄道を動かしているのがゴーレムだから融通が利かないんだよ」

「え、人じゃ無かったの?」

「キミがボクにイタズラしようとした時に回って来た駅員も人に似せたクレイゴーレムだよ」

「チッ! あの時、邪魔してくれたヤツか」


 乗客も無く静まりかえった車内で良い感じで俺が発情すると、まるで狙い澄ましたみたいなタイミングで邪魔してくれたヤツだ。

 野郎、人間じゃ無いならスクラップにしてやれば良かった……


「物騒な事を考えてそうな悪い顔をしてるね」

「おっと、こいつぁいけねぇ……」


 テシッ! とわざとらしく額を叩く。


「君の世界の文化に関してボクは詳しくないけど、今の行動は女の子向きじゃ無いよね?」

「サーセン……その突っ込みにはぐぅの音も出やせん」

「色々と言いたいこともあるけどとりあえず急ごうよ。これ以上もたもたしもていられないから。最悪出発されたら窓蹴破ってでも飛び降りないと」

「おおぅ、物騒なワードが」


 アル君がそこまで言うって事は、穏健派だとか言っても魔王国ってのは相当ヤバいんだろうな。

 俺はそれ以上はだだをこねずアル君に素直に従うことにした。


 重々しく開く鋼鉄の扉。

 数時間ぶりに外の空気を肺一杯に吸い込む。

 うん? ここの空気……

 正直、アル君と住んでた森とは比べものにならないくらい臭い。

 煙たいと言えば良いのか、排ガス臭いと言えば良いのか……

 うん、俺が住んでいた世界と同じような感じだ。

 元の世界に居た時には感じなかったけど、綺麗な環境に慣れたせいもあるのかも知れない。


「うん、どうしたの? ……って、そうか、ここは工業都市だからね。匂いが気になる?」

「アル君と住んでた森は空気が綺麗だったからね。この国の臭いに驚いちゃったよ」

「そうか、我慢出来そうに無かったら言って。調子が悪くなりそうなら早めにこの国を去るから」

「アハハ、大丈夫。向こうの世界よりマシなぐらいだよ。ただ、最近は昔に比べて温暖化だとか企業コンプライアンスだとかが五月蠅くてマシにはなってるって父さんが言ってたけど」

「なるほど企業倫理で環境に配慮とは面白いね」


 キラリと光るアル君の瞳。

 この少年の知識欲とはどこまで貪欲なんだろう?

 そのクールな眼差し格好良いです、はい♥


「さて、と。降りたらマズやることがあるんだけど……リョウ? リョウ?」

「ふぁっ!?」

「なんかトリップしてたけど、大丈夫?」

「えへへ、アル君格好いいなぁって」

「え? あ、あり、ありがとう」


 俺の唐突な褒め言葉にアル君が赤くなる。


「えへへ~」

「唐突で悪いけど、リョウは動物は何が好き?」

「ふぇ? 動物?」


 突然の質問に思わず間の抜けた声を返してしまった。


「うん、動物」

「動物かぁ……アルパカとかカピバラとかアリクイとかかな?」

「予想の斜め上を行かれた。えっと……せめて、もう少し身近な方向で」

「ん~……じゃあ、ライオン?」

「ライオンが身近な環境ってどんな生活圏だったんだよ」

「や、そう言われましても……」

「例えばボクと二人で住むとして、もし二人で飼うならどんな動物が良い?」

「え、え? それって、二人の愛の巣で飼うペットの話? じゃじゃじゃ、柴犬で! うちにモンジロウって柴犬居るんだけど、メッチャ懐いてて可愛いの!」

「柴犬ね……って、一瞬納得しかけたけど柴犬って何?」

「そ、そかぁ……そうだよね。柴犬って言われても分からんかぁ……ここはデルハグラムだから、デルハ犬とかになるのかな? でも、もしデルハ犬が見た目土佐犬みたいだったら、格好良いけどしつけとか大変そうだし……あ! じゃ、じゃあキツネで! チベットじゃなく、ホッキョクギツネ! 真っ白でアレ可愛い! 愛されペット力高そう!!」

「ホッキョクギツネ? もしかして、真っ白なキツネのことかい? オッケー。そうしたら、今からリョウにはホッキョクギツネになってもらう」

「え?」


 そ、それって……


「アル君、俺に首輪付けて歩きたいってこと!?」


 何だそのプレイ!

 俺、その領域にはまだ踏み込めてない!!

 もうちょっと!

 もうちょっとだけ時間下さい、アル様ごしゅじんさま!!

 数日以内に覚悟完了しますから!!


「アル様! って、うわぉ!! まだ俺何も言ってないのに、チベットスナギツネモードのアル君が!?」

「や、キミがすでに何を考えているのか想像付いてね」

「さすが♪ 俺たち以心伝心だね♥」

「う~ん、その前向きな捉え方はちょっと違うんだけど……まあ、リョウの想像もあながち的外れとは言えないから、とりあえず詳しいことは後から説明するよ」


 呆れ気味にそれだけを言うと、アル君は俺に向かって手を伸ばし何かを唱えはじめた。


 アル君の高速詠唱から生み出される力。

 その矛先は間違いなく俺だ。

 アル君の力は凶悪という表現さえも生ぬるい、その気になれば国を軽く一つや二つ滅ぼせるんじゃないかってレベルの魔術の使い手――

 

 だが、そんな力の奔流を前にしても、俺はアル君の魔術に構えるような真似はしない。


 だって、そりゃそうじゃん?

 アル君が俺を傷付けるはずが無いもん!!

 そう、何の説明も受けてないが、これは絶対に俺を思って使ってくれる魔術だ。

 その確信は微塵も揺るがない。


 だって、俺とアル君ラブぃもん!!

 めっちゃラブラブだもん!!


 ふ……

 これぞ究極の信頼。

 さあ、来い! アル君!!

 その漲る愛、俺が受け止める!!


「カモン! アル君!!」

「そのテンションがどこから来てるのか分からないけど、とりあえず……コンフィ!!」


 バチンという音とともに俺の中を走るシビれるような感覚。

 それが徐々に強くなって……


「ほんぎゃあぁあぁぁぁぁぁ……イダイダダダ! あ、ありゅくん……こ、こりぇって?」

「キミを守るためだよ。少しだけ我慢して」

「わかった! がんばりゅ!!」


 ありゅくんが俺のためと言うにゃら、疑うことが出来りゅだろうか?

 いにゃ

 断りていにゃ!!

 疑うにゃど出来ようはじゅもにゃし!!

 だだだ、だきぇど……


 正座をした時に起きる足のシビりぇを数倍にしたようにゃ……

 そんにゃ痛みに全身じぇんしんが絶え間にゃく襲わりぇると、そりゃ我慢ぎゃまんの限界もありゅもにょで……


「ほにゃああぁあぁぁぁあぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ…………って、あ、ありぇ?」


 と、突然に消えたシビれ。

 ……身体には特段変化が起きた様子も無い。

 え? 何?

 ホントに何も起きてない感じ……

 と思っていたら、さっきの呪文をアル君が自分にかけっちゃったよ。


 な、何ですか?


 そ、それは所謂上級者テクニック一人SMというヤツですか!?

 アル君、いくら俺でもそれを見せられるのはハードルが高い……

 一家に一本鞭が常備される時代は人類には早すぎると思うのですよ。


「アル君が望むなら、そっち方面の希望は俺が全部引き受けるから! だから、正常なる世界に帰ってきて」

「リョウ、盛大なる勘違いしているようだけどボクの姿をよく見てごらん」

「え、勘違い? ……ああ!! アル君の頭ににゃんこ耳が!!」


 ぶぶっ!!


「リョ、リョウ!! また、すごい量の鼻血が出てるよ!!」

「だってだって!!」


 いかん!

 これはいかんのですよ!!

 か、可愛すぎる!!


「ありゅくんありゅくん、ありゅくんにゃああぁぁぁぁぁあぁあぁぁぁぁぁ!!! もふもふもふもふしてクンカ! クンカ!! クンカクンカしてもいいですか? いいんです!! 何時するんですか!? 今でしょ!! 今しかないんです!! ありゅくん、ありゅくん!! んにゃああぁぁぁぁあぁぁぁぁっ!!」

「落ち着け!!」


 ドボッ!!


「ぐはっ!!」


 俺は人生で初めて好きになった男の子から、これまた人生で初めてソバットをお見舞いされたのであった。

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