第20話 帝国の刺客?

 どうもリョウです♪


 前回までのお話――


 元男だけど、今や心は完全に乙女♪

 大好きなアル君と『合体』!!

 めでたしめでたし~♥


 ふ……

 と、ならぬのが世の常なんだよな

 もうね俺は一言物申したい。

 俺が敬愛して止まない板垣ティーチャーの刃牙だってじゅうはちき~んがあった訳じゃないですか!

 あった訳じゃないですか!!

 あった訳なんですよ!!

 SAGAってのがありましたよね!

 魔界塔士でもロマでも無く、スカでもフロンティアでもなく九州でも無いSAGAが!

 もう、世界最強の生物を怒鳴りつけて大人の階段まっしぐら♥

 そりゃ最強死刑囚だって引きますよ!

 俺もね、『リョウ・SAGA』として、大人の階段を駆け上がる気がありました。

 あーりーまーしーた!

 だってアル君好きだもん!!


 ええ、好きだと認めちゃえばあとは強く強くまっしぐらに突き進むだけ!!

 もう、女として生きていく覚悟完了してましたよ。


 それなのに――


 現在いま、何が起きているのか……


 ガスッ!

 ドゴッ!!

 チュドーンッ!!


 物騒な音ですね、はい。

 決してアル君が俺に対してDVに走ったとか、興奮しすぎておかしくなったとかそんなんじゃないんですよ。

 ええ……

 ふ……


「ちきしょうーめっ!! 俺とアル君の逢瀬を邪魔しやがって!! ちきしょーめ!!」


 何でじゃい!?

 異世界に来て今まで二人きりだったのに!!

 このエロスの土壇場に来て第二の異世界人って!!

 頼んでねーよ、ばーかばーか!!

 しかも俺のアル君を「迎えに来た」とか何様じゃい!!

 アル君は俺んだ!

 俺だけのアル君だ!

 シャシャシャーッ!!


 思わず獣みたいに威嚇してしまったけどとりあえず今現在の状況がどうなってるかと言うと、数名の部下を引き連れたどこぞの貴族の令嬢(自称)がアル君を連れ去りに来たのだが……

 えっと、その……令嬢、なのか?

 どう見ても格好が、その、おもくそド○ンジョ様です(爆)

 自称・貴族のご令嬢が高笑いとともに現れたけど、あの格好をリアルで見たら令嬢と言うよりただの痴女である。

 せめて「夜ノヤッ○ーマン」のド○ンジョ様だったら可愛げもあるだろうに……

 って、ダメダメ冗談じゃない!

 ここでロリ系の敵ポジが出るとか、漫画やラノベならアル君に惚れてハーレム要員になる立ち位置じゃないか!!


 そんなキャラが出てきたら最初のヒロイン(俺)が画面の端っこに追いやられて、ヒロイン(笑)になるのは目に見えている。

 俺は確かに男だった頃は報われない幼馴染みポジのヒロインが好きだったけど、自分の立場だったらそんなのはゴメンだ。

 俺は好きな人と結ばれたいしアル君を誰にも渡す気は無い。

 そりゃアル君は誠実な男の子だと思うけど、俺の安心のためにも今後邪魔になりそうなヤツにはさっさとご退場願うとしよう。


 なら、ることはただ一つ。


 アル君の敵はもちろん俺の敵。

 それが女だったら尚更だ。

 アル君を相手に余裕なさげに戦っている自称・貴族のご令嬢(痴)に、俺は隙を突いて地面に転がっていた赤子の頭大の石を拾って投げ付けた。


「うりゃ!」


 ゴンッ!!


ひでぶッドオンッ!!」


 石の直撃と同時に世紀末ヒャッハーな感じで呻き声を上げた自称・貴族の……面倒くさいからただの痴女でいいや。


「く……このッ、淑女の頭に石を投げつけるとか! 貴女、レディの風上にも置けませんわね!」

「何が淑女じゃ! そんなどぎついハイレグ着て股おっぴろげて大立ち回りとか! はっ! 淑女が聞いて呆れますわー!! 貴女なんかハレンチおばさんで十分ですのことよ!」

「だ、誰がハレンチおばさんですか!! あたくしはまだ三十前ですわ!」

「なんだ、アタシよりずいぶんおばさんじゃないですかぁ、ぷーくしゅくしゅー」


 罵り合う俺とハレンチおばさん。

 アル君が呆れたみたいなジト目を俺に向けてくる。

 ふふ、その目ご褒美ですよ……


「あのさ、リョウ……何そのしゃべり方?」

「あたくしのアルフレッド様はお黙ってて下さいまし! この自称しゅ……ぷぷ、淑女を痛めつけて差し上げてございますですわのことよですわ!」

「ほら、使い慣れない言葉を使おうとするからボロボロに……」

「ちょっ、アル君はどっちの味方なの!? 何でこんなポッと出の露出狂系ヒロインをかばうのさ!」

「いや、落ち着いて……ボクは何でそんな使い慣れもしないトンチキ淑女もどきみたいな言葉遣いをしてるのか気になっただけだから」

「い、いやその、何と言えば良いのか……」


 ポッと出のヒロインという存在に俺のレゾンテートルが脅かされそうというか……

 なんか見知らぬ強迫観念に襲われたと言えば良いのか……


 こんな恥ずかしいこと口に出して言えないけどね。

 そんな焦る俺に、だが、アル君は敵の存在さえも端から居なかったみたいに爆笑した。


 存在を忘れられかけている自称ご令嬢様が何事かとばかりにポカンとする。

 無視して爆笑するアル君。

 ポーカーフェイスを作る俺。


 え?

 何でポーカーフェイスを作ってるかって?

 たぶん、このままだと俺の心情がアル君に全部バレそうで怖いのである。


「リョウ……キミは本当に可愛いね」

「んきゅっ!?」


 バレた!

 あっさりバレた><

 ほらね、ほらね、「もう全部分かってるよ」みたいな顔をしてるよこのイケショタ。


「ボクがこの女に心奪われると思ったんでしょ?」

「そ、そう言うことは気が付いても口に出して言うな!」

「でも、その心配は全くないから大丈夫だよ」

「うん、そうだと思うけどさ……アル君ならそうだと思うけどさ……ただ、世の中はポッと出のヒロインに優しく、既存ヒロインに冷たい傾向があるから。ましてや元男に何て……」

「その理論はよく分からないけど、不安になるほどボクを思ってくれてるのはすごく嬉しいよ」

「アル君……」

「リョウ……」


 刹那に訪れた二人だけの甘い空間。

 ダメだなぁ、やっぱり俺アル君が好きすぎる。

 ときめきが止まらん。


「ちょっと待って下さいまし!!」


 だが、そんな二人だけの空間に割り込んできた自称淑女を語る痴女。


「何まだ居たの? あんた邪魔なんだけど?」

「まだ居たんだ。どうせボクに刃向かっても無駄なんだから、さっさと帰りなよ」

「さ、さっさ……は、は……さっさと……ひふぇ、ふう……」


 俺よりも辛辣なアル君の言葉を受けて呼吸困難を起こしかける哀れな痴女。

 まあ、さっきの戦いを見てて気が付いていたけど、実際のところは俺が加勢するまでもなかった。実力差があり過ぎて適当にあしらわれていた挙げ句、歯牙にもかけられていないのだ。

 一応こんなんでも貴族らしいからな。無視された挙げ句に雑に扱われりゃ呼吸困難の一つも起こしたくなるよな。

 って言うか俺に岩をぶつけられてダラダラ出血してんだから(ごめん、間近で見ると、流石にちょっとやり過ぎたと思う)、もう帰った方が良いと思うよ、うん。


「じゃ、さっさと帰れ。邪魔だから」

「そ、そんな……アルフレッド先生! そんな訳には参りません!!」


 お、なんだこの痴女?

 アル君を俺も呼んだこと無い先生呼びしやがって、何のプレイだそれ。

 クソ生意気な。よし、いじめよう。

 ん?

 あれ?

 ちょっと待て。

 今先生とか言ったか?

 え?

 先生?

 このイケショタ、先生何て称号まで隠し持っていたのか。

 いや、魔術の研究機関に居たアル君だ。先生と呼ばれてても不思議じゃ無いか?

 なら、この痴女はアル君の生徒? それとも弟子?


「んにゃ? 先生ねぇ……じゃあ、刺客じゃなかったの?」

「当たり前です刺客なんかじゃございません! そんな刺客だなどと……想像するだけでも恐ろしい!」


 自分の身体を自ら抱きしめてガタガタと震える哀れな痴女。

 てかさアル君……

 何となく想像が付くけど、大人がこんなに怯えるとかキミ昔は一体どんな子供だったのさ?

 思わず白目になりかける俺。

 聞こえませんとばかりにそっぽを向くアル君。


「あたくしはただ、名乗りを上げた瞬間に先生から問答無用で攻撃を受けたから相殺すべくとっさに魔術で防御していただけです!」

「…………」

「えっと……アル君?」


 衝撃の事実を伝えてくる痴女。

 さすがにそれは酷いだろうとは思ったけど……

 でも、俺の知っている今のアル君はそんな無秩序破壊をするタイプじゃない。

 ベッドの上じゃヤクザみたいだったけど♥

 あれ? でもそう考えたら、なんでアル君は攻撃魔術なんかブッパしたんだ?

 そういや、アル君が玄関チャイム鳴ってしぶしぶ出て行ってすぐだったな爆音が聞こえたの。

 はは~ん、アル君ってば俺との逢瀬を邪魔されてぶち切れたな。

 って、いくら何でも流石にそれは無いか。

 じゃあ、なんで爆撃系の魔法使ってまで追い払おうとしたんだろ?

 そりゃ過去がトラウマなアル君からすれば、昔の同僚に会うのはトラウマを直に触られるような感じかも知れないけど、それにしても魔術で荒々しく追い払おうとするなんていくら何でもやり過ぎだろ。

 アル君はアル君で何だかふてくされたみたいに横を向いているし。


 そんな困惑する俺とアル君の間に痴女がグイッと割り込んでくる。


「な、何故こんな頭の悪そうな女をはべらせて……それも、か、下等な劣等種であるエルフ如きと無駄な時間を過ごされるのですか!!」


 頭悪そうだの劣等種だの失礼な……

 ちょっと同情しかけたけどもういいや。

 やっぱこいつ嫌い。

 ホント嫌い。

 何でか分からないけどとにかく嫌いだ。


「先生、どうか魔導機関に帰ってきて下さいまし!」

「興味ないね今更」

「何故ですか!? 先生の頭脳は帝国の権力をより盤石とし、今まで我ら人間を虐げてきた劣等種を見返すべく天から与えられた奇跡の産物!」

「…………」


 無言を貫くアル君。

 いやヒシヒシと伝わってくるのは嫌悪の気配。

 だが、それに気が付かずに収まる気配を見せない痴女の放言。

 

「アルフレッド先生の英知は臣民に役立ててこその天稟で!! こんな所で怠惰に燻らせ導くべき人類のために使わないなんて、それこそ人類史への冒涜です!! 先生も皇族の」

――」

「それ以上しゃべるな」


 痴女の言葉を遮りアル君のドスのきいた声が辺りを包み込む。

 自分勝手な耳障りな言葉にアル君の我慢も限界に達したようだ。


「で、ですが、先生! いま、貴方に帰ってきていただけなければ、帝国は外敵の侵攻、いえ、分裂の危機にさえあるのです!」


 ああ……

 ダメだ……

 やっぱり嫌いだ、この女。


 そしてこの女が何で嫌いなのか、その理由が明確に分かってしまった。

 貴族だか痴女だかリケジョだか知らないけど、俺がこの女を嫌いな理由は実に明白だった。


 この吐き気がするほどに身勝手な使命感。

 臣民のためだとか何とか言っても所詮は自分の知識の高さを笠に着た傲り。

 自分の理想のためなら他者など気にしないという感覚。

 それを聞こえの良い言葉でさもさもらしく語る。


 ようはこの女の根底は選民意識の塊なのだ。


 そして俺が何より気に入らないのは、俺のアル君が何故その場を去ったのかを全く理解できないという人間性の低さだ。

 ああ、もしここが大講堂で迎合する聴衆が居たなら数で流されるかも知れないお題目の数々だ。

 弱かった時代と強くなった時代の対比で洗脳して前へ進もうとするやり方は、脳演説のそれに近い。

 だがバカめ。お前は気が付いていない。

 ここに居る聴衆は、この世界の歴史にまったく興味が無い俺しか居ないという事実に。

 よし、ここは一発キツいのお見舞いしてやろう。


「何だ、ようは自分じゃ何も出来ない無能だから、『アタシ』のアルフレッド様のお力にすがり付いてその恩恵のおこぼれを頂きたいと、そういうことですのね」


 俺の流暢な嫌みに、悪鬼もかくやというほどの形相でにらみ返された。

 そりゃこんなプライドの塊みたいな女、自分より劣ると思い込んでるヤツに己の無能を指摘されたら黙っちゃいられないだろ。


「メスエルフ如きが、アルフレッド様の天賦を語るな!!」

「別にアタシは『アタシのアルフレッド様』の才能を語ったんじゃ無く、『アタシのアルフレッド様』にすがる貴女が無様だと言ってるのですよ」

「何ですって!!」

「ほら気が付いてない。臣民のためとかご高説をのたまっているくせに、それを叶える力のよりどころが他人頼み。それも、とうに現場を離れて久しい自分よりも遙かに年下の男の子に縋り付く何て無様以外の何者でもないじゃない」

「ぐ、ぐぎぃぃ」

「それにも気が付かないでのご高説、最高に滑稽ですわー!!」


 ほーっほっほっほっ!! と、わざとらしく高笑いする俺。

 顔を真っ赤にする名も無き痴女。


 ふん、お前みたいなヤツはそうやって無様に吠え面かくのがお似合いじゃ、ボケ!


「い、言わせておけば、この敗残国の劣等種が……」

「ふん、その劣等種に指摘されてるようじゃ貴女もまだまだですわね」

「うぎぎぎ、こ、この……アルフレッド様の手前大目に見ていればずいぶんと良い気になって大口を叩いてくれやがりますわね。貴女が無価値な劣等種であると言うことを思い知らせてあげますわ!」

「思い知らせる? はっ、いい年こいて大口叩かないで出来ることだけほざきやがれですわ!」

「お、おい……」


 それまでほぼほぼ空気と化していたアル君が口を開くがもう遅い。

 それに俺はフェミニストを気取るような紳士じゃ無い。

 Jの付くとあるイギリス紳士に憧れていた、ただの元男。

 そう、出る杭は女であろうと引っこ抜いてへし折って燃えるゴミに出すタイプだ!

 だから俺とアル君のスイーツな時間を邪魔したこいつには潔く消えて頂くのになんの躊躇いも無し!!


 俺が構えると同時に術の詠唱に入る女。

 なるほどね。

 先ほどの魔術のぶつかり合い、アル君の実力に圧倒されてこそいたが、消し炭にならずに生きている時点でも相当な手練れなのは確かだ。

 間違いなく俺よりも術は使いこなせるんだろうな。

 術は、な。


 ボケが! 俺の勝ちだ!


 この女は魔術の実力こそあるがケンカの素人だ!

 や、俺も素人だけどそれに輪を掛けた素人ってことさ。

 父さんがよく言ってた。喧嘩は先手必勝、手近な物全てを武器にすれって。

 ああ、誰が術の完成まで待つかっての!!

 俺は地面に落ちている瓦礫・・から木片を拾うと、悠長に呪文を唱えている痴女の顔面に投擲した。


 メリッ!!


「ぐはぁ……」


 ふん、自称令嬢とやらもうめき声まではお上品じゃいられなかったらしい。


「な……何て野蛮な攻撃ですの! 優雅さの欠片も無い!!」

「鼻血吹いてから優雅を語れ」


 俺は性懲りも無く再び呪文の詠唱に入る女の懐に飛び込み自らの肩で女の顎をかち上げ、よろめいたところでリバーブローを叩き込む。

 痴女はものすごい勢いで吹き飛ぶと、あっさりと動かなくなった。

 えげつないやり方だが、実はこれアル君から教えられた魔術師に対する先手必勝方だったりする。

 大多数の魔術は身振り手振り詠唱を必要として行うモノだから、それを最初の段階で叩きつぶせば良いという実にシンプルにしてえげつない戦い方を教えられた。

 気分はヒーローの変身シーンを妨害する悪役だけどね。

 ま、それは良いとして俺は目を回した痴女を無理矢理起こして背後に回ると、


 ドズン!!


 直下型のバックブリーカーをお見舞いする。


「おーい? 生きてるか? 死んでるか? 死んでるなら返事しろー!!」


 ほっぺたをペチペチ叩くとまぶたがかすかに痙攣する。


「ち、仕留め損なったか……」


 俺もまだまだ甘いな。

 とりあえず女を引きずって井戸まで連れて行き井戸の釣瓶からロープを外し女を縛る。

 さすがに井戸にそのまま逆さに放り捨てる真似はしないよ?

 これ以上暴れるなら容赦なく投げ捨てるけど。


「よし♪」


 完全に捕縛した女の姿を確認し俺は満面の笑みでアル君に振り返る。

 と、何故かそこには引き攣った笑みを浮かべるアル君がいた。

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