第19話 アル君はヤンデレ?

 何たる無慈悲な爆弾発言。

 どこぞの将軍様に匹敵する無慈悲っぷりである!!

 アル君てば少年の仮面を脱ぎ捨てた瞬間にドSの本性をバッキバキに現しよった。

 ちきしょー、だけど何だこの湧き上がる感情。

 ときめき!?

 いや、待て。

 おかしいなぁ、これじゃ俺ドMみたいじゃないか。

 落ち着け、俺はアル君に恋心を抱いたけど十五年間の恥のダンスィライフが嘘偽りだったとは言わせない。

 それにエロフやサキュバスじゃないんだから、このままアル君の説に流されてドMになるつもりもない!


 ……そこ、アル君に愛されたいと思った時点でお前の男力は端からスカスカだとか言わない!


 一応ね、一応さ、その、俺にはそんな願望は無かったって、えっとねえっとね、着地点は同じであったとしても、その、さ……

 ああもう、分かるだろ!!

 同じだけど同じじゃ無いの!!

 分かんないなら気合い入れて分かれよ!!


「アル君! だ、だけどさ、それなら、アル君がこっちに戻ってきた時点で元に戻ったみたいに、俺も向こうに戻ったら元の俺に戻らないと変だよね?」

「うん? 何、まだ無駄な抵抗する気?」

「無駄とか言うなー!! そうじゃなくてさ、いや、そうなんだけど」

「何が言いたいの? リョウはよく思考と言動がバラバラになるよね」

「う~だってだって、好きになった子にこんなに近付かれたら冷静で何ていられないよ!!」

「……ッ」


 あ、あれ?

 俺、今勢いで何て言った?

 アル君が真っ赤になってそっぽを向いてるけど……

 また俺何かやっちゃいました?


「キミは本当に……」

「な、何だよその反応……」

「キミはもう少し自覚すべきだ」

「だから何をさ……」

「だから君自身の可愛さをだよ」

「ッ!」


 とんでもないことを言われて頭の奥が一気に沸騰する。

 だけど、だからこそ……


「アル君、あのね! その、さ。俺は向こうの世界に戻ったけど、この姿のまんまだった。アル君が教えてくれた人達の話を聞いた感じやアル君が今の姿ってことは、自然に元に戻ったんだよね?」

「そうだね、戻って来た時点で元の姿になっていたよ」

「じゃ、じゃあさ! お、俺が向こうに行っても女のエルフのままだったってことは、俺はアル君の仮説の枠組みに当て嵌まらないんじゃないかな!?」


 思わず噛み合いもしない会話を紡いでいた。

 実に無駄な抵抗。

 全く意味が無い。

 時間稼ぎにもならないのは俺自身が一番分かっている。

 それでも叫ばずにはいられなかった。

 だってさ、だってさ、急に怖くなったというか、どうして良いか分からなくなったと言うか……


「ふむ……」


 アル君が小さな唸り声を上げた。

 そんな様子に心の中で安堵を覚える俺が居る。

 まぁ、どちらにせよ組み敷かれたまま何だけどさ……


「直情的なリョウにしては意外な考察だね」

「直情的は余計じゃい。まあ言われても仕方ないとは思うけど」


 思い出される奇行の数々。

 まあ、そんな過去もありましたかもね。


「ふむ……まあ、仮説の仮説に過ぎないから間違っている可能性が大いにあるけど、まず向こうの世界からこっちの世界に来た人をボクはリョウ以外に知らない」

「そうなの?」

「居たのかも知れないけど向こうの者達は肉体が貧弱だから、こっちに出てきた瞬間に魔獣や魔物に襲われたとも考えられるけど」

「うわぉ……」


 つくづく俺はアル君に拾ってもらえて幸せだったと痛感する。


「それと、君たちの世界には魔術師は居ないんだろ?」

「もしかしたら万に一つ以下の可能性で居るかも知れないけど本物を見たことは無いよ。マジシャンとか手力の人とかは居るけど基本はトリックの人達だよ」

「そこだね。魔力が無い人が魔力の塊みたいな扉を超えた。肉体に及ぼす影響は想像以上と言えるだろうね」

「だから俺は元の姿に戻らなかった?」

「あくまで想像の域を出ない仮説だけど。ねえ、リョウは元の世界に帰りたい? 元の姿に戻りたい?」

「そりゃ元の世界には帰りたいよ……」

「こっちの世界にはボクが居るのに?」

「ずるいよ、そんな言い方……」

「大事なことだから、ずるいと言われても聞きたいんだ」

「正直すごく迷ってる。アル君と居られるならどこでも良いって思う俺と、残してきた両親や姉貴が心配しているって思うと……安心させてあげたい……」

「そっか。じゃあ、もう一つの質問は?」

「そ、それ、は……元の姿に戻り……戻り……戻……んにゃあああぁぁあぁぁぁぁ……」


 答えられなくて思わずパニックを起こす俺。

 アル君はそんな俺にちょっと困ったみたいな顔で微笑みかける。


「アハハ、ちょっと苛めすぎたかな?」

「ドS……」

「リョウがドMなんだろ?」

「う~……元の姿に戻っても前までの自分に戻れるのか分からないし……だけど、それよりもアル君に嫌われたらどうしようって、その不安ばかりが頭を駆け巡るんだもん……」

「ボクに……君ってヤツは」


 アル君が何故か真っ赤になってうつむく。


「それよりもさアル君は俺が元男なの嫌じゃ無いの?」

「まぁビックリしたかどうかと聞かれればそりゃビックリしたさ。だけどね、それがキミを拒絶する理由にはならいよ」

「え?」

「それに元に戻ったら嫌いになる何てことも無いと思う」

「ほ、ほんとうに?」

「ボクの常識をこんなにも超えて暴走するタイプなんて初めてで新鮮だったもん。興味が尽きないよ」

「珍獣扱いですか、そうですか……」

「だけど、リョウが言ってほしいことはそんな言葉じゃない」

「うん……」

「それに不安何だよね。友達やペットとしてじゃなく女性として愛され続ける安心が欲しいんだよね」

「口に出して言うな……」

「リョウ」

「何?」

「ボクが古の魔術をいくつも復活させたって話はしたよね」

「うん、魔術の天才アルフレッド……だよね」

「違うよ」

「え?」

「全界一の魔術の超天才アルフレッドだ」

「……厨二」

「リョウがたまに言うその厨二って何さ? 褒め言葉じゃなさそうだけど」

「今度教えるよ……で、その全界一の超天才様は俺にどんな安心をくれるの?」

「リョウが望む姿をあげる」

「え? 俺が望む……姿? そんなこと出来るの?」

「今は無理だ」

「ぐぬぅ~……アル君って、いつも俺を上げては落とすよね」


 ふくれる俺にアル君がその年には似合わない、ニヒルな笑みを浮かべる。

 う~、だから、そんなイケ顔するな!

 真っ直ぐ見れないじゃん!!


「リョウは苛められたいんだよね?」

「そ! そんなことは無いでしゅ……」

「素直な返事をありがとう」

「う~!!」

「ただ、苛めたお詫びにこれだけは約束するよ」

「え?」

「その姿がリョウの安心だって言うなら、ボクはどんなに大変な研究だったとしても古にはあっただろう姿形を固定する魔術を探し出してみせるよ」

「それって、俺をこの姿から戻らないようにしてくれるって……こと?」

「リョウが望むなら」

「でも、そんな魔術……本当にあるの?」

「さあ、どうだろう? あるかも知れないし、無いかも知れない……ただ、古の魔術師は今の常識外の魔術を山ほど生み出していたからね。一つや二つぐらいそんな不思議な魔術もあると思うよ」

「もし……もし、見つからなかったら? 俺が元の姿に戻っちゃったら?」


 俺の泣き出しそうな懇願に、アル君は先ほどまでの大人びた表情は何処へやら、まるでイタズラを思い付いた子供みたいな笑みを浮かべた。

 きゅ~、可愛いよ、アル君。やっぱり俺、その顔のアル君が一番好きだ。


「まあ、どうしても見付けられなかったら、ボクが生み出すのも面白いかもね」

「すごい、自信だね」

「そりゃ……この自信はリョウがくれたものだからね」

「ふぇっ!?」


 こ、このイケショタめぇ~……

 どんだけ俺をドキドキさせれば気が済むんだ!!


「リョウ……」


 優しく俺の名を呼んだアル君。

 そして、チュッと。

 俺の乳房から音が鳴ると、少し熱を帯びたみたいな痛みが胸に宿った。


「もう……胸元が開いた服、着れないじゃん」

「着ても良いよ。ただ、口づけの痕が見えるだけだもん」

「バカ……」

「ふふ……良いもんだね。ボクだけのリョウだと証明できる痕を残せるのって」

「……ばか」

「アハハ、それじゃ……」


 アル君の顔が近づく。

 父さん、母さん……ごめん、今日、娘が一人増えます。日野家の長男放棄してホントごめん!

 姉貴、妹になっても……可愛がってね。あとパンツの匂いを嗅いだりする奇行はもうやっちゃダメだよ。


「アル君……こんな元男でも、いっぱい愛してくれますか?」

「ボクの答えは変わらないよ……ボクの手から離れられるとは思わないでね

「ふにゅふふふ」

「どうしたの? 猫みたいな声出して」

「うん? 俺、これからアル君のモノになるんだと思うと嬉しいやら怖いやらで、何とも言えない感じになってる」

「なるほど……実に興味深い」

「またそんなガリレオみたいなこと言って」


 それは何気ない一言だった。

 アル君の動きがピタリと止まったのだ。


「? アルくん?」


 俺の呼びかけにも目を閉じ反応しない。

 何か胸騒ぎがする……

 まさか、これが男なら一度は夢見ると言われる伝説の腹上死!!

 ってそんなバカな。

 始まってもいないのにそんなことあってたまるか。


 だが、ここからの展開は俺の予想の斜め上を行くものだった。


「アル君、どうしたの? 何か目が怖いよ?」

「リョウ?」

「何?」

「そのガリレオって誰? ガリレオって男の名前だよね?」

「え?」

「もしかしてリョウが向こうに帰りたい理由の一つって、そのガリレオとやらじゃ無いよね?」

「無い無いそんなはず無いじゃん」


 俺が思わず吹き出して笑ったが、アル君の目は俺が思っている以上に真剣だった。


「じゃあ、リョウにもう一つ質問。それって男の名前だよね? もしかして、リョウって向こうじゃ男友達とか多かった?」

「そりゃ元男だもん。女友達もそれなりに居たけど男友達の方が多かっ……ひにゃああぁああぁぁぁぁぁぁぁぁあ」


 思わず声を裏返して出してしまった嬌声。

 だってアル君が首筋にビックリするぐらい強いキスをするんだもん♥


「ふ、ふひぇ……」


 やばい、キスだけで脳みそが蕩けそう。

 そんな発情期真っ盛りのメスエルフな俺。

 だけど次にアル君が放ったセリフは、そんな発情し脳みそが蕩けた俺でも一生忘れられない衝撃的なものだった。


「向こうに帰りたい理由が家族ならボクは手助けもするしゲートを繋げる術も開発してみせる。でも、向こうに帰りたい理由に男が居るなら許さないよ」


 ゾクリとした。

 アル君の台詞に狂気を感じたからじゃ無い。

 そう、正確に言うのなら、その台詞にゾクゾクしたと言うか、キュンキュンしたと言うか、ときめいて身体のどこかが疼きましたね、ハイ。

 もう、俺自身知りたくありませんでしたが、俺の性癖はどうしようも無いくらいにドMに仕上がっているみたいです。


 そして、アル君。

 アルハンブラの二つ名を持つアルフレッド少年。

 俺の最愛の男の子は、見事なヤンデレ属性も持ち合わせていました。

 世界最高峰の天才で格闘術も凄くて、優しくて、イケショタで、可愛くて、ドSで……ちょっとヤンデレ……

 いやいやそれ設定盛りすぎ~!!

 思わずIKKO風に言っちゃったけど設定過多にもほどがありませんか?


 俺はこれからの二人の未来にちょっとだけ、ほんのちょっとだけ恐怖を覚えたのと、どうしようも無い疼きを覚えたのであった。


 合掌――


 とか葛藤しながらもドキドキの……


 ……

 …………

 ………………


 迎えたかったさ、朝チュンをな!!

 ちきしょうめっ!!

 お預けだよこんちきしょう!!


 こんな18ゴールドまっしぐらなシチュエーションなのに神さまはとことん意地悪だった。

 後もうちょっとで深夜のマッスルドッキングをぶちかませると思ったのによもやの妨害が入ったのである。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る