第11話 絶望しかない……本当に?
希望の後の絶望とは、どうしてこんなにも残酷何だろう。
これからどうしたら良いのか……そんなことを考える気力さえ湧いてこない。
思考には靄がかかり、指先に至る手足の全てがまるで麻痺したみたいにもたもたと動かすのが精一杯だった。
「敵が出たら終わりだな……」
自虐的な呟きがガランとした遺跡の中でいつまでも反響する。
まるでそれは、俺をあざ笑う悪魔の囁き。
噛みしめた下唇に鉄の味が混ざっているのに気が付いたのは、冷たい床に寝そべってからどれほど時間が経ってからだろうか。
意外と早かった気もするし呆れるほど時間が過ぎた気もする。
自分なんか消えてしまえば全てが楽になるんじゃ無いのか?
そんなバカな考えさえ、当たり前みたいに脳裏をよぎる。
だけど……
まぶたの裏にちらつくのは姉貴の涙と両親の顔。
ここで死んだら、一瞬でも姉貴を喜ばせたのが嘘に変わってしまう。
父さんにも母さんにもさらに深い悲しみを与えることになる。
「あ、あはは……」
気が付けば俺の口からこぼれ落ちた乾いた笑い。
そういや誰かが言ってたな、真に絶望した人間は他人のことを考える余裕なんか無いって。
「何だ、俺……まだ頑張れるって事じゃん。俺、ちょー余裕じゃんか!」
それが空元気なのはわかっている。
でも、空元気だって元気には変わりない。
俺はもう一度、頭の中を整理する。
姉貴は言ってた。
『数ヶ月ぶりの良ちゃんクンカクンカ……幸せの香りだよ~』
って。
いや、ここまで詳細に思い出さなくても良いんだけどさ。
大事なのは向こうの過ぎた時間も数ヶ月ってこと。
こっちに来てからカレンダーが無いからよくわからないけど、たぶん三ヶ月か多く見積もっても五ヶ月は経っていないはず。
俺がこっちに来た時間と向こうで過ぎた時間はほぼ等速と考えて良さそうだ。
とは言え、このままずっと同じように時間が過ぎて行くかは分からない。
だけど今は少なからずとも同じように時間が過ぎている。
そして、ここは壊れちまった(壊した)けど、もしかしたら向こうと繋がる遺跡がまだ他にも残ってる可能性だってあるはずだ。
「帰るんだ、絶対に……ああ、帰ってやるよ、クソッタレ!」
俺は寝転がったままあらん限りの力で床を叩き付けた。
「痛ぇ……あはは、くだらねぇ。あるかないかもわからない物に縋り付くとかだっせえよなぁ……」
だけどよ……
「生きてやる。絶対に生きて元の世界に帰ってやる。こんな訳の分からねぇ世界に連れてきた神様なのか宇宙人なのか、それとも未来人なのか知らねぇけどよく聞きやがれ! 俺は、俺は絶対に帰ってやるからな!!」
よろめく足取り。
一度は気力を根こそぎ奪われた四肢は、それでももう一度前に進もうと活動を開始する。
「そうだよ……」
女になっても俺には少なくともこの四肢がある。
この世界には味方になってくれるアルハンブラが居る。
全てがゼロで始まった訳じゃ無いし、ゼロになった訳でもない。
むしろ今の俺はアイドルだってビックリする美貌持ちだぞ十分チート級じゃん!
身体能力だって、アルハンブラのおかげで人並み以上にある。
これって、まさに俺が憧れた異世界転生そのものじゃん!!
なら、歩いてみせるさ。
ついでに旅行だと思ってこの世界を楽しんでやる!
「そうだ! 空元気だって元気だ、姿形が変わろうと俺は俺だ! やいっ! どっかで胡座かいて俺をあざ笑っているヤツが居るなら言ってやるぞ!! 厨二嘗めんな!! 俺は永遠の厨二病『日野良』さまだ!! あーはっはっはっはっ!!」
俺の高笑いが何時までも、遺跡の中に残響となってこだました。
俺は腹をくくり遺跡を後にした。
アルハンブラは確かこの遺跡のことを迷宮と言っていた。なら、もしかしたらこの遺跡にはまだその先があって、向こうに繋がる手段だってあるのかも知れない。
でも、今はまだダメだ。
何一つ情報が無い。
生きて帰ると誓ったんだ。
無謀と勇気を履き違えれば、その時点で俺の人生はGame Overになりかねない。
情報だ、なによりもまずは情報が必要だ。
そして力が手に入ったと確信出来た時にもう一度チャレンジするんだ。
俺は後ろ髪を引かれる思いで遺跡から出ると太陽はすでに空高く昇っていた。
夏なら十時ぐらいにはなるだろうか。
「じゅうじ? やばっ!!」
ふと思い出し背筋が凍り付く。
俺はアルハンブラから夜明けまでに七体の魔獣を狩れと言われてたんだった!
って、あと何匹だ?
と言うか、もう限りなく時間はアウトっぽい。
魔物以下のチンピラは向こうで刈ったけど証拠が無い。
ラノベによくあるゴブリン討伐みたいに耳でもちぎって持ってくればよかった。
って思考が野蛮、落ち着け俺!!
どうする、どうすれば良い?
「土下寝……いや、土下潜りぐらいすれば、再チャンスくれるかな? やっぱほら一度の失敗で全てが終わるようじゃ、そんな国に未来何てないじゃん?」
俺の中のどこかがカタカタと震える。
この世界で生きてこられたのは間違いなくアルハンブラのおかげだ。
アルハンブラに見捨てられたら、その時点でこれまたGame Overが決定する。
「だ、大丈夫だよね? でもアルハンブラってば、可愛い見た目なのに俺に対してドSなとこあるからなぁ……問答無用で『はい、失格。お疲れ様でしたさようなら』とか淀みなく宣告しかねないし……ああ、もう!! アル君のイケず! 真性ドS!」
「誰が真性ドSだって?」
「ほきゃあぁぁぁぁぁ!! ア、アル君、な、何でここに?」
俺の背後に立っているのは、紛れもなくアルハンブラだった。
ってか、いつの間にあらわれた?
こんな砂利まみれの河原で音一つなく現れるとかあんたはニンジャか?
「アル君じゃなくて、師匠だろ」
「アハハ、え、えっと、アルくじゃなくて、し、師匠は何故ここに?」
「何時までも戻らないから様子を見に来たんだよ。そんな心優しい師匠にキミ、真性ドSとか好き放題言ってくれてたね?」
「え、えへへ……な、何の事でございやしょうか? あ、あっしには何のことやら?」
ペしっ! と額を叩いて誤魔化す俺に、アル君……じゃなくて師匠が呆れたようにため息をつく。
「一体それはどこから生まれたキャラなのさ? キミは自分の見た目とキャラのギャップをもう少し考えた方がいいよ」
「うへへへ……」
「全く……それよりも、キミに一言言いたいことがある」
「うぅ……お、お仕置きですか?」
「まあ、状況を詳しく聞いてからそれは判断するよ」
「選択肢としてお仕置きはありなんですね」
「お仕置きを回避したければ、しっかりと状況説明すること」
「ふぁい……」
うぅ、あんなにも力強く宣誓したのに、アル君にまるで頭が上がらないとは。
年下相手ににゃしゃけない……
「ほら、俯いてないで顔を上げる。ボクが聞きたいのはね」
「う、うん……」
ふ……アル君には俺のこの微妙な落ち込みとかは察して頂けないらしい。
「ボクは言ったよね。魔猿とは戦うな。この迷宮には近付くなって」
「う、うん。言われたよ」
「魔猿はね、他の野生生物とは比べものにならないくらい知能が高い。そのくせ異性と見たら繁殖能力を何よりも優先する本能と暴力の怪物だ。そんな相手に捕まればどうなるか。とりあえず無事だったから良かったけど……崩れた崖の上に魔猿の死体があったけどアレはキミがやったんだよね」
「えっと……」
どうにか誤魔化そうとも思ったがどう考えてもそれは不可能。
俺は観念してただ頷いたのだった。
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