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「1500円を使い切らないどころか、なんで所持金が増えてるんだよっ! どうしたらそうなる!」

 帰宅早々これである。そりゃ突っ込まれるわな。

「人助けの結果だよ」

 母にカステラの袋を一つ渡す。私はそれ以上の言葉の授受を拒む意思表示として、カステラを口に入れながら答える。キャラクターの形を模したものだが、いちいち形を確認するような歳でもない。

 野上は私に1000円を渡してきた。小遣いとして貰ったものだが、野上の思惑は小遣いをあげることではなかったはずである。

 これは口封じだ。野上は、私が原稿の在処を突き止めた以上、ゴーストライターの件にも気づいていると察したのだろう。そのことを吹聴して回られないように、私に金を渡した。

 ……これって普通に賄賂?

 成程野上も「これは小遣いだ」と執拗に念押しするわけである。

(まぁ、私が小遣いだと言い張ればこれは小遣いになるんだろう。まさか野上の方から賄賂だと言うわけもないだろうし)

 しかし、1000円、1000円か。

 舐められたものである。

 ガキ相手なら1000円程度で黙ると思ったのだろうか。甘い。まったく甘い。自分が学生だったとき、たった1000円の小遣いで相手の言うことを聞く気になっていたのだろうか、野上は。そんなはずはない。絶対ない。胸に手を当てて当時のことを思い出してほしいものだ。

「………………」

 まぁ過ぎたことに文句を言っても仕方がない。それで1000円が2000円になるわけでもないのだし。貰ったものはありがたく活用させていただこう。1000円では単行本は買えないが、文庫本は買うことができる。

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