6
「む……何だね、また君か」
焦って気が立っていたであろう野上は、不機嫌さをあまり隠さずに立ち止まった。そりゃイラつきもするだろう。私のような者に付きまとわれるのは。
「例の物なら既に見つけたと言ったはずだが……」
「おや、そうなんですか。それ、私も見つけて町長の机に置いておいたんですけど」
う~ん、嘯かれた相手にも真実を伝える。私は以外と良い奴なようだ。
私の言葉に、野上は静止する。呆けた顔だった。そしてその表情は次第に驚愕と困惑が入り混じったものに変わる。
「な、き、君は……」
言いたいことはいろいろあるだろう。何故嘘に気がついたのか、原稿はどこにあったのか、ゴーストライターの件を知ったのか、とか。私は口を挟まずに野上の次の言を待った。
「ま、待て、まずは確認が先だ。良いか君、すぐ戻ってくるから、ここから動くんじゃあないぞ」
野上は慌てふためきながら祭り本部の方へ走って行った。私は一人祭りの喧騒の中に取り残される。輪投げの屋台は今も賑わっている。良いことだ。
数分して野上が戻ってきた。
「はぁ……はぁ……君、あれをどこで見つけた」
「町長の後ろのトイレ」
「と、トイレだとぉ!」
信じられないという面持ちで。
野上は少しの間、今後の行動を再考するかのように目を細めた。そしてその後何を思ってか鞄に手を突っ込むと、財布を取り出した。
存外良い財布を使っているんだなぁと思ったのも束の間、野上は紙幣を取り出す。
「良いか君、これは小遣いだ。そうだ、あれを見つけてもらった礼として渡す物だ」
私は半ば強引に紙幣を握らされる。1000円。
「良いか、それ以上の他意はないんだからな。協力感謝する。それで何か美味いものでも食べたまえ」
やけに厳重に念押しし、野上はまたどこかに去って行った。眠っていた町長に何か言いに行くのだろうか。町長があれからずっと眠っていたとしたら、原稿が戻ってきたことにも気づいていないはずである。
私は手の中にある1000円札を眺める。皺が寄っている。
「………………」
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