002:支援妖精
社会科教師が教室から出ると、一部の生徒がワイシャツの胸ポケットや鞄の中から何かを取り出し、ニヨニヨ顔で見つめている。
「おい藤沢、支援妖精を学校に連れて来るなよ。さっきの先生うるせぇんだからよぉ」
「いいじゃん、バレなきゃ。
それより高須、見てよ! うちのレウスきゅん、かぁ~ちぃ~でしょ?」
藤沢と呼ばれた女子生徒、
トカゲ型支援妖精が、高須と呼ばれた男子生徒、
「トカゲなぁ。どうせならライオンとかトラとかがいいなぁ」
「どんな支援妖精が出て来たとしても、絶対に愛着沸くと思うよ?
あたしだってレウスきゅんと出会うまで、トカゲがこ~んなにかぁちぃなんて思った事なかったもん」
「そういうもんかねぇ」
良光が教室内を見回すと、恵美以外にも自分の支援妖精を愛でている生徒がいるのが目に入る。
支援妖精とは、宇宙船『
神州丸の外交大使が人工生命体の事を日本語で『妖精』と呼称した為、今では違和感なく世界の共通認識となっている。
「トカゲが飛んだらもうそれはドラゴンやろ」
「何で関西弁……?
ワニに羽が生えてるのもドラゴンっぽいよねぇ~」
支援妖精はハチやトンボなどの昆虫形態、ワニやカメなどの爬虫類形態、鷲や鷹などの鳥類形態、さらには犬や猫などの哺乳類形態などの様々な形態が確認されている。
全ての形態において、支援妖精の背中には小さな羽が生えている。ただし、原型となった動物に元から羽が生えている場合を除く。
支援妖精は、羽を羽ばたかせて飛ぶのではなく、ふわふわと宙に浮く事が出来る。
まるで物理法則を無視しているようだが、教室内の生徒達は違和感など持っていない。身内や近所の大人達が、それぞれに支援妖精を連れているのを物心付く前後から見て育っているからだ。
「実は俺も今日の放課後に行くんだよ、神州丸。
妖精ガチャも楽しみだし、迷宮デビューも楽しみだなぁ」
神州丸が探索者の身体情報や性格の傾向を読み取り、適切な形態の支援妖精が提供されるのだが、探索者本人の趣味嗜好で選べない事から、妖精ガチャと称されている。
支援妖精は取り換える事は出来ないとされており、一人につき一体しか与えられない。神州丸から、支援妖精の個体差は基本的にないと言われている。
なお、リセマラは不可である。
「あれ? 高須って誕生日は先月だったよね? 神州丸に行く様子がないから、親に承諾してもらえないのかなぁって思ってたんだけど」
「いんや、うちは両親共にインプラント埋入してっから反対なんてされないぞ。二人とも最初期に手術したらしいからな。
俺は
良光が教室前方を見やる。
「あー、メガネ君? 確か幼馴染だって言ってたね。
パっとしない感じだけど、メガネ君は迷宮探索出来るん?」
恵美は休憩時間の今も、黒板の内容をノートに写し続けている男子生徒、艦治の後ろ姿を眺める。後ろの生徒の邪魔にならないよう背を縮こめている。その後頭部には一生傷があり、そこだけ髪の毛が生えていないので目立っている。
艦治は分厚い眼鏡を掛けているにも関わらず、目を細めて必死に内容を読み取ろうとしていた。
「あぁ見えて小さい頃は活発な奴だったんだぞ?」
「そうなんだ。あんま喋った事ないから全然知らないや」
艦治は小学生の頃、自動車に轢かれて大怪我を負った。その事故の後遺症で、今も極端に視力が低い。
その為、黒板をノートに写すだけでも結構な時間が掛かってしまう為、休憩時間になっても自分の席に座ったままである事が多い。
良光は艦治とは事故以前からの仲だが、事故については自分が口にするべきではないからと、詳しく説明はしなかった。
「まぁ、艦治の活躍については、乞うご期待って事で」
キーンコーンカーンコーン♪
チャイムが鳴ると同時に、女性教師が教室へと入って来た。その姿を見て、良光は藤沢の席を離れ、自らの席へと着いた。
「はーい席に着いてねー。支援妖精は机なりカバンなりに入れておくように。怪我とかはしないけど、雑な扱いはしないでね?
人工生命体とはいえ、命は命なんだから」
この教師は支援妖精を連れている生徒に対して寛容なようだ。
「
「すみません、今写し終わりました」
「おっけー。じゃあ黒板消すね。
さて、現代文の授業を始めましょう」
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