最終話 山の頂上の和菓子屋さん

そして水曜日。幸壱と登華の2人は頂上に和菓子屋があると言う和党山わとうやまに来ていた。


「高さが476m。上竜山じょうりゅうさんより、300m以上も低いのか。」


そう幸壱が案内看板を見つめながら言う。


「まぁ、上竜山はこの町では1番高い山だからね。」


そう登華は答えると先に山を登り始める。


幸壱もその後をついて行く。



「どう?初めての上竜山以外の山の登り心地は。」


そう登華が幸壱の隣を歩きながら尋ねる。


「ん?そうだなぁ。」


そう幸壱は足を止めると目線を横に向けて景色を眺める。


「…悪くないよ。」


そう幸壱は微笑んで答える。


「これからは、上竜山以外にも色んな山に一緒に登ろうね。」


そう登華も幸壱の眺める景色に目線を向けて言う。


「オレのレベルに合った山で頼むよ。」


「まっかせなさ~ぁい。」


そう登華が明るい声で答える。



2人は1時間ほどで頂上にたどり着く。


「おぉ。やっぱり、山の景色は頂上からが1番だね~ぇ。」


そう登華が頂上からの景色を見渡しながら言う。


「そうだな。」


そう幸壱も同意する。


「もう、5月も終わって夏か~ぁ。

夏になると綺麗な緑の世界が広がるんだよ~ぉ。」


そう登華が幸壱に話す。


「…そうか…今年も夏がくるのか。」


そう幸壱は憂鬱ゆううつそうな声を出す。


そんな幸壱の様子に登華は“やれやれ”と言った表情を見せる。


「相変わらず、夏産まれのくせに夏が苦手なんだね。」


そう登華は少し呆れた声を出す。


「得意、苦手に産まれた時期は関係ねぇんだよ。あの暑い日差しと虫は20回以上経験しても慣れん。」


そう幸壱は言葉を返す。


「そういうもんですか?」


「そういうもんですよ。」



頂上からの景色を楽しんだ2人はいよいよお目当ての和菓子屋さんに向かう。


「へぇ。ここって頂上まで車で来れるんだぁ。」


そう幸壱が駐車場にまっている多くの車を見て驚く。


「ふっふ~。この人達は分かっとらんなぁ。」


そうどや顔を作る登華に幸壱は目線を向ける。


「ここまで自分の足で登ってきて、少し身体を疲れさせる。そこに美味しい和菓子の甘味を入れる。これが山の頂上で食べれる和菓子屋の楽しみ方なのだよぉ。」


「偉そうに言ってるけど、お前もここで和菓子食べんの初めてだろうが。」


そう幸壱が冷静な声でツッコム。



山頂堂さんちょうどう”。和党山の頂上にある今話題の和菓子屋さん。店内は完全個室で落ち着いた和の雰囲気がある。


「2名様ですね。お好きな部屋をお選びください。」


そう女性の店員さんが明るく幸壱達に接客する。


「幸壱君、幸壱君。2階、2階があるよ。」


そう登華は興奮した声で呼ぶ。


「分かった。分かったから、はしゃぐな。」


そう幸壱が登華の興奮を抑える。


「すいません。2階の部屋って空いてます?」


そう幸壱が先ほどの店員さんに声をかける。


「空いてますよ。どうぞ。」


そう店員は幸壱達を案内する。


案内された部屋に幸壱と登華は靴をぬいで入る。


部屋には少し大きいい窓があり、そこから山の綺麗な景色が見れる。


「では、和菓子とお茶をお持ちしますので、少々お待ちください。」


そう店員さんが軽く頭を下げて言うと幸壱の口から疑問の言葉が出る。


「え?オレ達まだ何も注文してないですけど。」


その幸壱の疑問に答えたのは店員さんではなく、何故か登華だった。


「幸壱君。ここのお店は毎月出されるメニューが決まってるんだよ。

そして、今月のメニューは餅どら焼き。」


そう登華はどや顔で説明する。


(知ってるなら、先に言っといてくれよ。

恥をかいたじゃないか。)


そう幸壱は心の中で文句を言う。


「そうだったんですね。すいません。

お願いします。」


そう幸壱は恥ずかしさを隠して店員さんに笑顔を向ける。



餅どら焼きと緑茶は数分でやってきた。


「ではでは。いただきます。」


そう言って手を合わせると登華はどら焼きを1口食べる。


その美味さに登華の身体は震える。


「美味~ぁぁぁ!!」


そうあまりの美味しさに登華は叫ぶ。


その叫び声は他の部屋のお客さんにも届く。


「お、おい。叫ぶなよ、恥ずかしいから。」


そう幸壱が注意する。


「ご、ごめん。私も叫ぶつもりはなかったんだよ。でも、あまりの美味しさに叫ばずにはいられなかったんだ。」


そう登華は驚いた顔をしながら自分の手の中にあるどら焼きを見つめる。


「はは。それは大げさ過ぎだろ。」


そう小バカにした様子で幸壱も1口食べる。


その予想外の美味しさに幸壱も叫びそうになる。


「…マジで…美味いな…。」


「でしょ?」



餅どら焼きを楽しんだ2人はお土産にも1個ずつ買って、店を出る。


「いや~ぁ。満足、満足。」


そう登華は幸せそうな表情を見せて歩く。


「また1つ増えたね。」


そう言って登華は後ろをついてくる幸壱に目線を向ける。


そんな登華に幸壱は「え?」と驚いた顔を向ける。


「宝石の様に綺麗な私達の思い出だよ。」


そう登華は嬉しそうに微笑む。


「宝石?」


そう幸壱は聞き返す。


「そうだよ。夜空に輝く星にも負けないほど、綺麗な宝石だよ。」


「…そいつは凄いな。」


「これからも、そんな思い出をいっぱい作ろうね。その宝石がたくさん入った宝箱を持って私は天国に行きたいから。」


そう登華は楽しそう声で伝える。


「…いいなぁ。オレもそんな宝箱を持って、天国に行きたいよ。」


そう幸壱は優しい微笑みを登華に向けて答える。


そんな2人を太陽が照らす。

まるで、宝石を輝かせるように…。

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和党山の和菓子屋さん 若福清 @7205

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