第17話 別離 囚われの白竜の記憶


島の幽閉室じみた、プライベートルーム。


キリスは、

こんこんと眠ったままだった。


老巫女さんたちと相談して、

彼女の名義で、魔法封書を飛ばすことにした。 


解呪のために、

森の皇国神殿から、

神父長と巫女さんも来ていた。

二人の顔を見て、俺はすごくすごくほっとした。


南十字星から一番近い、

森の皇国神殿。


キリスとの契約をしたのも、

彼らの立会の下だったし、

笑ってほんとうに、心から祝福してくれたのだ。


巫女さんはよく、

試作品のぶどうジュースをくれたり、

真っ暗な部屋で本を読む俺に灯りをつけてくれ、

閉館まで眠る俺を、

やさしく起こしてくれたりした。


向こうがどう思ってるかは知らないが、

俺にとっては、

工房をリフォームしてるころからの、

すごくいい友だちなのだ。


内容は重複だったから、

巫女さんが、ブーッと吹いて、

トンボを複数に増やして、

小窓から、魔法封書を飛ばしてくれた。

キリスらしい文面にしてくれた。

みんなをよく見てる、

彼女の優しい気持ちが、すぐに見て取れた。

嬉しかった。



そして俺は、

一つの恐ろしい結論にまた至っていた。






直感(インスピレーション)。







幼い彼女に降り掛かったであろう、

おぞましい出来事が、まざまざと浮かんだのだ。


俺は船団時代、

アトラスと大陸の大神殿に行ったことがある。

まだ組み立ての頃だ。

七歳か八歳か、そこらだろう。

まあお使いだ。

船団の荷物運び。神殿の荷物運び。

新米のやる、なんてことないお手伝いだ。



そこで、




たくさんの白竜が、

幽閉されているのを見た。




広大な敷地で、

俺たちは迷子になったんだ。


たまたま壁の呪いがほころびていて、

壁穴を複数抜けたんだな。

二人ともチビだったから。


そこから入り込んで、

彼女たちに会った。

白竜は、みんな巫女さんだ。

30頭以上は居たんじゃないかな。


俺たちは、同年代だったから、

こっそり友だちになったんだよ。 


それで、

お互いに、

呪い紙を持ち寄ったり、

なんてことない石や貝を交換したり、

おやつを交換したりしてたんだ。


俺たちのトレードは、

あれが原点だったのかもしれない。

喜ぶ彼女たちの顔が見たくて、

二人で夢中で宝探しをしたよ。



しかし

ある日。



大人の男が来て、

俺たちは、


 

問答無用で、ぶっ飛ばされた。 



俺は震えて固まった。

でもアトラスなんて血の気が多いから、

なにするんだ!って食って掛かるし、

壁に穴を開けたし、

大人たちの髪も服も、

繰り返しやってくるやつ全部、

何人も何人も引きちぎったんだ。

樽はひっくりかえって、

寝床もぐしゃぐしゃにした。

あたりは、血まみれになったよ。

そのうち俺たちは、

袋を被せられて、

気を失ったんだ。



そして。



壁穴は塞がれて、

彼女たちは消えた。

 




おとがめもなし。




変だろ?

あれだけの大騒ぎになったんだ。




同じような部屋が、

おそらくあるんだ。

 





宝玉瞳の乙女の部屋がだ。



◆◆◆


もちろんあの場所って言ってるわけじゃない。 

例え話だ。


でもあいつらは、

価値のあるものは囲うんだよ。


それが、

生きてようが、生きてまいが。


意思があろうが、なかろうが。



価値のあるものを、

執拗に狙い続けるんだ。








俺は、大きなため息を付いた。


折よく、

南十字星には、

埃よけの呪いもした。

皇国神殿もだ。


施錠もしてある。

食料庫も空にしてある。


今回、二泊三日の回廊の向こうから、

来客があると知ってたからだ。


なんならスパだって作ってたんだぜ?

神殿の地下、

温泉が湧いたんだ!


高額な呪い紙で、

引水すれば完成だ。


ゲストルームの風呂は広くないから、

来客に間に合ったら、

良いと思ったんだよな。

俺にしては、このところせっせと働いてたんだ。




はあ。



(続)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る