第17話 別離 囚われの白竜の記憶
◆
島の幽閉室じみた、プライベートルーム。
キリスは、
こんこんと眠ったままだった。
老巫女さんたちと相談して、
彼女の名義で、魔法封書を飛ばすことにした。
解呪のために、
森の皇国神殿から、
神父長と巫女さんも来ていた。
二人の顔を見て、俺はすごくすごくほっとした。
南十字星から一番近い、
森の皇国神殿。
キリスとの契約をしたのも、
彼らの立会の下だったし、
笑ってほんとうに、心から祝福してくれたのだ。
巫女さんはよく、
試作品のぶどうジュースをくれたり、
真っ暗な部屋で本を読む俺に灯りをつけてくれ、
閉館まで眠る俺を、
やさしく起こしてくれたりした。
向こうがどう思ってるかは知らないが、
俺にとっては、
工房をリフォームしてるころからの、
すごくいい友だちなのだ。
内容は重複だったから、
巫女さんが、ブーッと吹いて、
トンボを複数に増やして、
小窓から、魔法封書を飛ばしてくれた。
キリスらしい文面にしてくれた。
みんなをよく見てる、
彼女の優しい気持ちが、すぐに見て取れた。
嬉しかった。
◆
そして俺は、
一つの恐ろしい結論にまた至っていた。
直感(インスピレーション)。
幼い彼女に降り掛かったであろう、
おぞましい出来事が、まざまざと浮かんだのだ。
俺は船団時代、
アトラスと大陸の大神殿に行ったことがある。
まだ組み立ての頃だ。
七歳か八歳か、そこらだろう。
まあお使いだ。
船団の荷物運び。神殿の荷物運び。
新米のやる、なんてことないお手伝いだ。
そこで、
たくさんの白竜が、
幽閉されているのを見た。
広大な敷地で、
俺たちは迷子になったんだ。
たまたま壁の呪いがほころびていて、
壁穴を複数抜けたんだな。
二人ともチビだったから。
そこから入り込んで、
彼女たちに会った。
白竜は、みんな巫女さんだ。
30頭以上は居たんじゃないかな。
俺たちは、同年代だったから、
こっそり友だちになったんだよ。
それで、
お互いに、
呪い紙を持ち寄ったり、
なんてことない石や貝を交換したり、
おやつを交換したりしてたんだ。
俺たちのトレードは、
あれが原点だったのかもしれない。
喜ぶ彼女たちの顔が見たくて、
二人で夢中で宝探しをしたよ。
◇
しかし
ある日。
大人の男が来て、
俺たちは、
問答無用で、ぶっ飛ばされた。
俺は震えて固まった。
でもアトラスなんて血の気が多いから、
なにするんだ!って食って掛かるし、
壁に穴を開けたし、
大人たちの髪も服も、
繰り返しやってくるやつ全部、
何人も何人も引きちぎったんだ。
樽はひっくりかえって、
寝床もぐしゃぐしゃにした。
あたりは、血まみれになったよ。
そのうち俺たちは、
袋を被せられて、
気を失ったんだ。
そして。
壁穴は塞がれて、
彼女たちは消えた。
おとがめもなし。
変だろ?
あれだけの大騒ぎになったんだ。
同じような部屋が、
おそらくあるんだ。
宝玉瞳の乙女の部屋がだ。
◆◆◆
もちろんあの場所って言ってるわけじゃない。
例え話だ。
でもあいつらは、
価値のあるものは囲うんだよ。
それが、
生きてようが、生きてまいが。
意思があろうが、なかろうが。
価値のあるものを、
執拗に狙い続けるんだ。
◆
俺は、大きなため息を付いた。
折よく、
南十字星には、
埃よけの呪いもした。
皇国神殿もだ。
施錠もしてある。
食料庫も空にしてある。
今回、二泊三日の回廊の向こうから、
来客があると知ってたからだ。
なんならスパだって作ってたんだぜ?
神殿の地下、
温泉が湧いたんだ!
高額な呪い紙で、
引水すれば完成だ。
ゲストルームの風呂は広くないから、
来客に間に合ったら、
良いと思ったんだよな。
俺にしては、このところせっせと働いてたんだ。
はあ。
(続)
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