第15話 コスモスと芙蓉、お道化の少年たち
◇
竜車は特別仕様で、
連結だった。
つまりバスだ。
俺、煉獄のレンは、
愛しのエルザをおんぶしたまま、
妖精のサヤナの隣に座った。
前の座席は、
ワンピース姿のかもめのナギサと、
はらぺこのチワだ。
エルザも座席に座らなきゃだめだ、
って言われたから、
俺は通路の簡易用の椅子をぱたりと出して、
そっちに座ったよ。
アトラス先生は前の方に居て、
よっ!!てした。
やっぱり、
執事(バトラー)じゃないんだよなあ。
でも俺たちの人数を確認して、
手早く書類に書き込んでいた。
ポーラもだ。
窓側の席で、
紫音先生は、
ぽやーっと外を見ていた。
◇
マーケットは、
お祭り会場だった!
熱を帯びた砂埃が舞っている。
遠くに見えるオリオリポンポスの山は、
細い煙が立ち上らせていた。
特設の舞台には、
女の子の集団。
コスモス、
と名乗る女の子が、
センターで、
なんと、
紫音先生めがけて手を降った。
先生も、
小さく手を降ってにっこりした。
エルザより少し年上かな?
紫色の薄絹のドレス。
長いまつ毛。
細いけどスタイル抜群。
「耳かきが怖くて、
途中でやめたんですよね?」
ほっぺたつんつんして、
彼女は耳の近くに、
唇を付けてにっこりした。
先生は否定するでもなく、
シマシマエナガンみたいな顔してた。
やば。
アトラス先生は、
血の気が引いていた。
でも、ポーラはくすくす笑ってた。
隣のエルザもだ。
彼女たちは、
踊り子さん、
っていうんだって。
みんな、
まるで楽器みたいな、
しゃらんしゃらんした、
板のついたキラキラの、
たっぷりついた服で踊るんだ。
なんじゃこらって、
思うんだけどさ。
汗が飛んで、
肌も汗が滲んで、
キラキラしてくるんだ。
髪も瞳も一本一本。
爪の先まで、すらりとして。
腰がキュッとしててさ。
音楽に合わせて、
奥にテントがあって、
いろんな色の、ふりふりの女の子が次々に出て、
細い子も、
太い子もいた。
元気な子も、
もじもじした子もいた。
遅い子も、早い子もいた。
ときどき喧嘩っぽくなったり、
仲良しになったりした。
どきどきした。
俺は、なんか泣けてきたよ。
ステージが終わると、
みんなにこにこして、
シオン先生は、
もみくちゃにされた。
俺もいつのまにか夢中になって、
最前列に居たから
巻き込まれたんだがっ。
えへへ。
ラッキー★
そして、
俺は、
ブーーー!!ってした。
遠くで
仁王立ちする、
あのシルエットは。
み、
み、
ミル姉さん!!
着 替 え て る !!??
ど、
ど、
どう見ても、
彼女たちに、
喧嘩売ってる!!
いや?
同じ服だ。
なんか、
セクシー美女の、
それにかわってるんだよ。
なんか空いてるんだよ。
ところどころ。
ね?
なんで、
ぶわって、髪をかきあげたの!!!?
何、その顔!!
そんな、うるうるしてたっけ?
うっわあ。
そのうち、
スタスタと登壇したんだ。
マーケット中の人が、
ほおーーーって、
みーーーんな釘付けになってしまった。
どんどん集まってくるんだ。
あっというまに、
リボンの付いたマイクが来て、
背景に美しい花が飾られて、
背中を押されるんだ。
レッドカーペットが敷かれるんだ。
島の名士として、
祝辞を述べてもらうためだ。
もう引くに引けなくなってる。
ミル姉は、
もおーって顔をする。
でも、
精悍な顔つきで、
笑顔で、
声を発するんだ。
すると、
花や果実を思わせるいつものアレが、
ぶわぶわぶわーーーーっ!!!って、
猛スピードで広がった。
ふわふわの羽根のドーナツ状の剃刀。
撫で撫でされながら、
ズバズバズバーーーーって、
斬られたんだ。
何もかもが、
塗り替えられていく。
ゆっくりと開く赤い芙蓉の花。
島の美しさの化身。
女神様なんだ。
もうこっちは、
酸っぱい匂いの、
目障りな虫になってしまう。
みんなそそくさと、
天蓋の中へ引っ込んでしまった。
紫音先生は、
いつの間にかミル姉さんの近くで、
ぐうぐうと鼻を鳴らしていた。
ミル姉さんに、
ノールックで、
手早く身なりを整えられてた。
ドッグランみたいだ。
誰がどう見たってお似合いだ。
おそろいの衣装。
ミル姉の、彼を見るぽかぽかした顔。
少し下がったところに居る、
紫音先生の少し伸びた背筋。
誰だって、
胸が震えるだろう。
しかも、
島の人はみーんな、
紫音先生がミル姉に、
熱を上げてるのを知ってるのだ。
彼女は、
みんなに彼を紹介した。
竜医院で研修医になるみたいだった。
ミル姉さんが仲介になるらしい。
紅玉の瞳に加えて、
髪も赤みがかった銀色だ。
みんなは、
あっ、
と声を上げた。
祝辞が終わった。
大きな拍手。
プログラムがぷつりと切れて、
すんっ、となりかけた、
そのときだ。
クラスII(おれたち)のサヤナが、
ボールを持ってきて、
俺に大きく手を降った。
「今から、
俺たちリフティングしまーす!!
レーーン!!」
って。
でっかい声で。
俺は、それで体動いたよ!!
ナイッスー★
その間に、
ナギサが素早く、
竜車に積んであったローブを持ってきて、
チワが、ミル姉さんの後ろからずぼっと、
被せるのが見えた。
よしよし。
みんなが、
喧騒の向こうへ消えていくまで、
リフティングとパスを繰り返したのちに、
最期の大技、
ツインシュートをキメた!
かっこいいポーズで着地!
天蓋にぼすーーっ!!って当てて、
きゃあきゃあって声がした。
しゅたっ!!
うまく左右対称に着地して、
俺たちは、あわてて天蓋にお詫びに行った。
もおーっ、て叱られたけど、
彼女たちは、
中2に優しかった。
怪我がないか心配してくれた。
会場は拍手喝采だった!!
イエイ★
そして、
俺たちも、
喧騒を抜けて、
俺は、エルザを見つけて、
さっと、おんぶして、
その場を立ち去っていった。
アトラス先生が満面の笑みで、
俺たちの頭をぐしゃぐしゃした。
そっか、アトラスがボールをくれたんだな。
その背中は、
青年の格好をした今も、
湯気となり靄がかかっていた…。
隣でポーラが手を繋いで、笑っていた。
◇
俺はてっきり、
ヤキモチだと思ってたら、少し違ったらしい。
コスモスは元々、
霊媒師という、
元皇国姫巫女の偽物をやってたんだそうだ。
ミル姉はなんと、
その本物の霊媒師なんだそうだ。
コスモスは詐欺師から足を洗い、
ダンサーになったことを、
紫音先生にだけ話を通して、
よりによってミル姉には、謝ってなかったらしい。
そりゃ許せないだろう。
彼女は、
自分はもちろん、
自分の仲間と、彼女と彼女の仲間たちのために怒ったのだ。
それを一瞬で判断した。
◆
彼女は、
まだ今の俺たちくらい、
つまり十四にも満たない頃に、
皇国姫巫女になったんだ。
皇国大陸に行って、
ものすごく活躍はしてたんだ。
それで、エルザも大ファンになった。
でも、
ぷっつりと出番がなくなり、
ほどなく、
島に帰ってきたらしい。
島のみんなの自慢だった、
美しい紅玉の瞳と、
銀色の髪は、
すっかり損なわれていたそうだ。
誰も、何も聞けなかった。
言えること、
言えないこと。
そして、
長年、鳶色の下にひた隠しにしていた、
それらを、
今このタイミングで、
再び、晒したというのだ。
相当に、覚悟が行ったに違いない。
本来の
相当、負い目を感じていたんだろう…。
「あいつはさ、かっこいいよ。」
アトラスが前を見て言った。
精悍な横顔。
だから、
そうだなって、俺たちは思った。
(続)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます