第15話 コスモスと芙蓉、お道化の少年たち


竜車は特別仕様で、

連結だった。

つまりバスだ。


俺、煉獄のレンは、

愛しのエルザをおんぶしたまま、

妖精のサヤナの隣に座った。

前の座席は、

ワンピース姿のかもめのナギサと、

はらぺこのチワだ。

エルザも座席に座らなきゃだめだ、

って言われたから、

俺は通路の簡易用の椅子をぱたりと出して、

そっちに座ったよ。

アトラス先生は前の方に居て、

よっ!!てした。


やっぱり、

執事(バトラー)じゃないんだよなあ。

でも俺たちの人数を確認して、

手早く書類に書き込んでいた。

ポーラもだ。

窓側の席で、

紫音先生は、

ぽやーっと外を見ていた。



マーケットは、

お祭り会場だった!

熱を帯びた砂埃が舞っている。

遠くに見えるオリオリポンポスの山は、

細い煙が立ち上らせていた。

特設の舞台には、

女の子の集団。


コスモス、

と名乗る女の子が、

センターで、

なんと、

紫音先生めがけて手を降った。

先生も、

小さく手を降ってにっこりした。

エルザより少し年上かな?

紫色の薄絹のドレス。

長いまつ毛。

細いけどスタイル抜群。

「耳かきが怖くて、

途中でやめたんですよね?」

ほっぺたつんつんして、

彼女は耳の近くに、

唇を付けてにっこりした。

先生は否定するでもなく、

シマシマエナガンみたいな顔してた。

やば。

アトラス先生は、

血の気が引いていた。

でも、ポーラはくすくす笑ってた。

隣のエルザもだ。


彼女たちは、

踊り子さん、

っていうんだって。

みんな、

まるで楽器みたいな、

しゃらんしゃらんした、

板のついたキラキラの、

たっぷりついた服で踊るんだ。

なんじゃこらって、

思うんだけどさ。


汗が飛んで、

肌も汗が滲んで、

キラキラしてくるんだ。

髪も瞳も一本一本。

爪の先まで、すらりとして。

腰がキュッとしててさ。

音楽に合わせて、

奥にテントがあって、

いろんな色の、ふりふりの女の子が次々に出て、

細い子も、

太い子もいた。

元気な子も、

もじもじした子もいた。

遅い子も、早い子もいた。

ときどき喧嘩っぽくなったり、

仲良しになったりした。

どきどきした。

俺は、なんか泣けてきたよ。


ステージが終わると、

みんなにこにこして、

シオン先生は、

もみくちゃにされた。

俺もいつのまにか夢中になって、

最前列に居たから

巻き込まれたんだがっ。

えへへ。

ラッキー★


そして、

俺は、

ブーーー!!ってした。


遠くで

仁王立ちする、

あのシルエットは。



み、

み、

ミル姉さん!!






着 替 え て る !!??





ど、

ど、

どう見ても、

彼女たちに、

喧嘩売ってる!!


いや?

同じ服だ。

なんか、

セクシー美女の、

それにかわってるんだよ。

なんか空いてるんだよ。

ところどころ。

ね?

なんで、

ぶわって、髪をかきあげたの!!!? 

何、その顔!!

そんな、うるうるしてたっけ?






うっわあ。






大人げないオーバーキル







そのうち、

スタスタと登壇したんだ。

マーケット中の人が、

ほおーーーって、

みーーーんな釘付けになってしまった。

どんどん集まってくるんだ。

あっというまに、

リボンの付いたマイクが来て、

背景に美しい花が飾られて、

背中を押されるんだ。

レッドカーペットが敷かれるんだ。

島の名士として、

祝辞を述べてもらうためだ。

もう引くに引けなくなってる。


ミル姉は、

もおーって顔をする。

でも、

精悍な顔つきで、

笑顔で、

声を発するんだ。

すると、


花や果実を思わせるいつものアレが、






ぶわぶわぶわーーーーっ!!!って、






猛スピードで広がった。

ふわふわの羽根のドーナツ状の剃刀。




撫で撫でされながら、

ズバズバズバーーーーって、

斬られたんだ。

何もかもが、

塗り替えられていく。







ゆっくりと開く赤い芙蓉の花。






島の美しさの化身。






女神様なんだ。









もうこっちは、

酸っぱい匂いの、

目障りな虫になってしまう。

みんなそそくさと、

天蓋の中へ引っ込んでしまった。


紫音先生は、

いつの間にかミル姉さんの近くで、

ぐうぐうと鼻を鳴らしていた。

ミル姉さんに、

ノールックで、

手早く身なりを整えられてた。

ドッグランみたいだ。

誰がどう見たってお似合いだ。

おそろいの衣装。

ミル姉の、彼を見るぽかぽかした顔。

少し下がったところに居る、

紫音先生の少し伸びた背筋。

誰だって、

胸が震えるだろう。


しかも、

島の人はみーんな、

紫音先生がミル姉に、

熱を上げてるのを知ってるのだ。


彼女は、

みんなに彼を紹介した。

竜医院で研修医になるみたいだった。

ミル姉さんが仲介になるらしい。

紅玉の瞳に加えて、

髪も赤みがかった銀色だ。

みんなは、

あっ、

と声を上げた。

祝辞が終わった。

大きな拍手。

プログラムがぷつりと切れて、

すんっ、となりかけた、

そのときだ。


クラスII(おれたち)のサヤナが、

ボールを持ってきて、

俺に大きく手を降った。


「今から、

俺たちリフティングしまーす!!

レーーン!!」

って。

でっかい声で。

俺は、それで体動いたよ!!

ナイッスー★


その間に、

ナギサが素早く、

竜車に積んであったローブを持ってきて、

チワが、ミル姉さんの後ろからずぼっと、

被せるのが見えた。


よしよし。

みんなが、

喧騒の向こうへ消えていくまで、

リフティングとパスを繰り返したのちに、

最期の大技、

ツインシュートをキメた!

かっこいいポーズで着地!

天蓋にぼすーーっ!!って当てて、

きゃあきゃあって声がした。

しゅたっ!!

うまく左右対称に着地して、

俺たちは、あわてて天蓋にお詫びに行った。

もおーっ、て叱られたけど、

彼女たちは、

中2に優しかった。

怪我がないか心配してくれた。

会場は拍手喝采だった!!

イエイ★


そして、

俺たちも、

喧騒を抜けて、

俺は、エルザを見つけて、

さっと、おんぶして、

その場を立ち去っていった。


アトラス先生が満面の笑みで、

俺たちの頭をぐしゃぐしゃした。

そっか、アトラスがボールをくれたんだな。

その背中は、

青年の格好をした今も、

湯気となり靄がかかっていた…。


隣でポーラが手を繋いで、笑っていた。



俺はてっきり、

ヤキモチだと思ってたら、少し違ったらしい。

コスモスは元々、

霊媒師という、

元皇国姫巫女の偽物をやってたんだそうだ。

ミル姉はなんと、

その本物の霊媒師なんだそうだ。


コスモスは詐欺師から足を洗い、

ダンサーになったことを、

紫音先生にだけ話を通して、

よりによってミル姉には、謝ってなかったらしい。

そりゃ許せないだろう。


彼女は、

自分はもちろん、

自分の仲間と、彼女と彼女の仲間たちのために怒ったのだ。

それを一瞬で判断した。



彼女は、

まだ今の俺たちくらい、

つまり十四にも満たない頃に、 

皇国姫巫女になったんだ。 


皇国大陸に行って、

ものすごく活躍はしてたんだ。

それで、エルザも大ファンになった。


でも、

ぷっつりと出番がなくなり、

ほどなく、

島に帰ってきたらしい。



島のみんなの自慢だった、

美しい紅玉の瞳と、

銀色の髪は、


すっかり損なわれていたそうだ。





誰も、何も聞けなかった。





言えること、

言えないこと。






そして、

長年、鳶色の下にひた隠しにしていた、

それらを、

今このタイミングで、 

再び、晒したというのだ。



相当に、覚悟が行ったに違いない。



本来の霊媒師やくめを果たしていなかったことに、

相当、負い目を感じていたんだろう…。



「あいつはさ、かっこいいよ。」



アトラスが前を見て言った。

精悍な横顔。




だから、

そうだなって、俺たちは思った。


(続)

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