第14話 お似合いの二人
◇
「どう?
着替え終わった?エルザ。」
奥の店舗か、
居間にいたのだろう。
ローブ姿の女性が、こつこつと工房に入ってきた。
わあ。
ローブ越しでもわかる、
豊満な身体。
紅玉の瞳。
天窓からの朝日で、
銀色の髪がキラッキラ光った。
あっ、
あのローブは紫音先生のものだ。
てことは、
片思い相手のシスター、だ。
ミル姉さんだ。
わあ。息を呑むほどきれいだ。
するりとローブを脱ぐと、
女子とお揃いのドレスだった。
慣れた手つきで、ローブを作業台へ置き、
きれいに畳んだ。
濃紫に銀の刺繍。
ふわっとして、艷やかなドレスだ。
あっ、
思ってたら、
裏口の扉が開いて、
すぐに、紫音先生も来た。
おそろい。
うっわあ!!
すっごくお似合い!!!
瑠璃色の色白の先生と、
赤い瞳の健康的なシスター。
ポーラとエルザもお揃いなんだ。
まるで、
アトラスのフクロウの魔法封筒が、
ビュンって飛んできたみたいだ。
バチーーーーッ!!!と来た。
どこかの、絵葉書になりそうな光景だ。
まだ行ってもいない、マーケットや、
海や山や、カフェテラスが、
まざまざと浮かぶようだった。
今は、
眼の前の、
天窓の木漏れ日が、二人に差し込んで。
工房の温かい木の香りが、静かに立ちあがって、
二人がクスクスと、
笑い合うたびに、
虹色の光の輪っかが、
シャボン玉みたいに、
たくさんたくさん、揺れて見えていた。
これで、
ふられちゃうんだ?
ミル姉さんは、
慣れた手つきで、
紫音先生の服を髪を整えていく。
紫音先生だって、
大鏡の前で、
後ろからミル姉さんに手を添えて、
身なりを整えていく。
首筋の釦を留めたりする。
そして、
同じタイミングで、
鏡ににっこりして、
おかしそうに、
くすくす笑い合っていた。
え、
ええ…。
もっと、
お似合いのやつが、
居るってこと…?
大人って、
大人って
…。
なぜだろう。
俺のことじゃないのに、
悲しかった。
胸がチクチクした。
泣きたくなった。
上唇と下唇をぎゅっと噛んだ。
握りこぶしが、震えた。
この二人が正しくて、
世界が、間違ってるような気すらした…。
でも、
俺ってやっぱり、
お子様(おこちゃま)なんだろうな。
◇
学校でも、
あるもんな。
控えめに言って、
だいっきらい!!なアイツと、
優しいあの先生が結婚したときは、
悲しかったもん。
はーあ。
こういう予想、
俺は、
ぜーんぜん当たんない。
いばんりんぼの女子のほうが、
当てたりするのだ…。
しかし、だ。
俺の、
頭の上がぽかぽかした。
あっ。
二人を見て、
エルザが、ぽわぽわしてる!!
だよな!!
そうだよな!!
じゃあ、
高校生のお姉さんにも、
そう見えるってことだ。
わあ。
ほっとした★
俺は、
クールな顔に似合わない、
彼女の暖かさが嬉しくて、
思わずかかとを上げて、
エルザに合図したんだ。
だよな、
だよな、
ルンルン★って、
身体を揺らした。
きっと伝わったと思う。
まあ、
でも。
俺だって、
ホンの半日一緒に居ただけで、
怖い目に遭ったもんな。
でも、すごく素敵な思いもした。
うーん。
たまにならいいけど、
あれを毎日は、
耐えられないよな。
俺はきっと、
アトラスやポーラと、
そっくりな顔をしていたと思う。
目を閉じて、
頭を抑えて、への字口。
ときにころりとひっくり返る、
シマシマエナガン。
二人がビュッフェから持ってきてくれた、
あったかいバナナミルクを飲みながら、
あったかい豆茶を飲んで、
笑い合う二人を眺めても、
身が持たない。
ばらっばらに解れちゃうなって、
やっぱり思った…。
みんなのカップから出る、
白い湯気は、
どれもなめらかにほぐれながら、
高い高い天窓へと登っていった。
(続)
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