第14話 お似合いの二人


「どう?

着替え終わった?エルザ。」


奥の店舗か、

居間にいたのだろう。

ローブ姿の女性が、こつこつと工房に入ってきた。


わあ。


ローブ越しでもわかる、

豊満な身体。

紅玉の瞳。

天窓からの朝日で、

銀色の髪がキラッキラ光った。


あっ、

あのローブは紫音先生のものだ。


てことは、

片思い相手のシスター、だ。

ミル姉さんだ。


わあ。息を呑むほどきれいだ。

するりとローブを脱ぐと、

女子とお揃いのドレスだった。

慣れた手つきで、ローブを作業台へ置き、

きれいに畳んだ。

濃紫に銀の刺繍。

ふわっとして、艷やかなドレスだ。


あっ、

思ってたら、

裏口の扉が開いて、

すぐに、紫音先生も来た。


おそろい。 


うっわあ!!

すっごくお似合い!!!


瑠璃色の色白の先生と、

赤い瞳の健康的なシスター。

ポーラとエルザもお揃いなんだ。

まるで、

アトラスのフクロウの魔法封筒が、

ビュンって飛んできたみたいだ。

バチーーーーッ!!!と来た。

どこかの、絵葉書になりそうな光景だ。

まだ行ってもいない、マーケットや、

海や山や、カフェテラスが、

まざまざと浮かぶようだった。



今は、

眼の前の、

天窓の木漏れ日が、二人に差し込んで。

工房の温かい木の香りが、静かに立ちあがって、


二人がクスクスと、

笑い合うたびに、

虹色の光の輪っかが、

シャボン玉みたいに、

たくさんたくさん、揺れて見えていた。




これで、

ふられちゃうんだ?





ミル姉さんは、

慣れた手つきで、

紫音先生の服を髪を整えていく。



紫音先生だって、

大鏡の前で、

後ろからミル姉さんに手を添えて、

身なりを整えていく。

首筋の釦を留めたりする。



そして、

同じタイミングで、

鏡ににっこりして、

おかしそうに、

くすくす笑い合っていた。




え、

ええ…。



もっと、

お似合いのやつが、

居るってこと…? 




大人って、

大人って

…。






なぜだろう。

俺のことじゃないのに、

悲しかった。

胸がチクチクした。

泣きたくなった。

上唇と下唇をぎゅっと噛んだ。


握りこぶしが、震えた。


この二人が正しくて、

世界が、間違ってるような気すらした…。





でも、

俺ってやっぱり、

お子様(おこちゃま)なんだろうな。




学校でも、

あるもんな。

控えめに言って、

だいっきらい!!なアイツと、

優しいあの先生が結婚したときは、

悲しかったもん。

はーあ。

こういう予想、

俺は、

ぜーんぜん当たんない。

いばんりんぼの女子のほうが、

当てたりするのだ…。


しかし、だ。


俺の、

頭の上がぽかぽかした。

あっ。


二人を見て、

エルザが、ぽわぽわしてる!!

だよな!!

そうだよな!!


じゃあ、

高校生のお姉さんにも、

そう見えるってことだ。

わあ。

ほっとした★


俺は、

クールな顔に似合わない、

彼女の暖かさが嬉しくて、

思わずかかとを上げて、

エルザに合図したんだ。

だよな、

だよな、

ルンルン★って、

身体を揺らした。

きっと伝わったと思う。



まあ、

でも。

俺だって、

ホンの半日一緒に居ただけで、



怖い目に遭ったもんな。



でも、すごく素敵な思いもした。




うーん。




たまにならいいけど、

あれを毎日は、

耐えられないよな。


俺はきっと、

アトラスやポーラと、

そっくりな顔をしていたと思う。

目を閉じて、

頭を抑えて、への字口。

ときにころりとひっくり返る、

シマシマエナガン。


二人がビュッフェから持ってきてくれた、

あったかいバナナミルクを飲みながら、


あったかい豆茶を飲んで、

笑い合う二人を眺めても、


身が持たない。

ばらっばらに解れちゃうなって、


やっぱり思った…。


みんなのカップから出る、

白い湯気は、

どれもなめらかにほぐれながら、

高い高い天窓へと登っていった。


(続)









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