第10話 ◆◆◆不正の代償2

◆◆◆



でも、

顛末はあっけなかった。


俺も飛び込んだ、

闇の回廊の中には、

魔法緩衝材(クッション)が、

たっぷりとしいてあったのだ。



ぼよよーーーん。






どてん。


俺は、飛び込んだ回廊で、


上を向き、

空中でキリスをキャッチした。


彼女は、

気を失っていたが、

本物だった。

温かい。

どすん。


でも、

元パートナーと三馬鹿トリオは、


魔法生贄(デコイ)、

偽物だった。


そして、囲まれた。


もう察しがついていた。


情けなくて、

情けなくて、メッキが飛び散った。

俺は、斜めに首を降った。

―いい子ぶるな。

―ボケナス小僧。


「お前のファンなんだ。」

「女の子に払わせるなんて、

カッコ悪すぎる。」

「お嬢ちゃんのことも、考えてやれよ。」

「お嬢ちゃんがよくても、

止めるんだよ。

鍵の交換ってのは、

そういうことじゃないのか。」

口々に言うんだ。

止まらない。

「おかしいと思ったら、止めろ。」

「よく話し合え。

根深くなる前にだ。」


闇の竜だらけだ。

小さいのも大きいのもいた。細いのも太いのもいた。何人かは、見覚えもあった。


「ポーラちゃんもだぞ。

ホコリよけの呪いのひとつもかけてやれ。

そうだろ?

手間を減らしてやらないとさ。

あの子は、勉強がしたいんだろ。」

「お前、ケチすぎるんだよ。」

「「逃げられても、知らないぞーー!!」」


うぐっ。


「あんたのおかげで、

転生のコインも溜まった。」

「たくさんたくさん。

もういかなきゃ。」


「見守りを、引き継ぎたかったんだよ。」

「きついことして、ごめんな。」


彼らは暗闇の中、

目も口も朔月のように、

白くにっこりさせた。


空中を蹴り、

ひらり、ひらり、ひらり。宙返り。

桜の花をぱっと散らした。

キラキラした。

板張りの粗末なステージ。

いつかの俺にそっくりだ。


お前の歌だって、大好きなんだ。

アンタは手を抜かない。

みんな夢中だよ。

アンタのおかげで、つまらない仕事はつまらないとわかったんだ。

失敗ばかりだけど。いんちきなし。

コインが溜まったんだ。



わかってる、

誰も悪くない。

お嬢ちゃんたちだってだ。

でもお前は職人。

そうだろう?




みんな、お前のことが大好きなんだよ。





◆◆◆



ポーラを頼むよ。



◆◆◆


そして、俺の肩を叩いて、

みんなぞろぞろぞろと、

大きな名の扉へと消えた。

扉は、ぽちゃん、と、

白い水たまりになって、

消えた。


文様は桧皮色の蝉と、

桜と欅。


ゴースト化以来、

初めて見た。

連名の扉。


きっと、

あいつの友だちだろう。


扉からは、

ぶどうソーダの香りがした。




◆◆◆


そして、資格試験。

俺は、

回答を白紙で出した。


◆◆◆



今までだったら、

それで、

終わり。

ぷつん。



でも、

きちんと説明したよ。


眠る彼女を起こして、

頭を下げた。


一から勉強したいのだと。



キリスは、

びっくりして、


ごめんと言った。



まただ。


…。


もう少し、

彼らに居てほしかった。

ひりひりと、

灼けるような砂粒を、

俺もまた、

身体に残るこの、

煌めきを。

抱きしめる、

しか、

ないのだ。


強く、

強く。




違う。

もう一歩!!


俺は、

抱きしめた。

俺は、

顎まで汗びしょびしょだ。


彼女は、

半目になって、



それはそれは、

おおきなため息を付いた。



でも。

小さく、

ぎゅってした。


俺はハッとして、

もう一度強く抱きしめたんだ。


強く、

強く!!

ごめん!!って。


そうして、


頑張ろうねって。

言ってくれた。




一、いんちきしない。


職人の矜持、だ。



◆◆◆



恥ずかしかった。


今まで、

近道(ショートカット)してきた、

【恩寵】の恐ろしさを、

思い知らされていた。


俺は、

本当に本当に、

世間知らずなのだ…。




震えながら、

己の左手首を強く握った。

下唇を

激しく噛み切った。


…そして。


彼女の背負うものが、

いっときだけでも、

軽くなるように。

そのことを忘れまいと。


呪いと、

呪詛の、

新しいものと、

古いものとを、

織り交ぜながら、


彼女の、

綿菓子のような、

きらきらとした、

甘やかな、

輪郭線へ、

祈りを捧げ、

許しを、

乞うたのだ。

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