●◯ ある日の竜医院。

がうがーうー。


近ごろでは、

すっかり紅玉の瞳を、

晒すようになった竜医ミルダ(キリス)が、

人口皮膚を用いた、

外科手術の練習をしていると、


シオンが後ろから口を出した。


「えっ?」


キリスが振り返ると、

まずいっ!!

と思ったのか、


口に手を当てて、

ぷいっと、目を逸らした。  


キリスはびっくりした。

半目になった。


シオンが、

他人の仕事に口を出すなんて。 

よっぽど変なことがあるのだろう。


先日、

学会で教わったばかりの、

新しい施術なのだ。


…。


「なあに?」


がうー。

貸してくれということらしい。

手を出してきた。

持針器を貸してみた。


すると。


「ええええーーー!!!??」


濃紫の瞳がプラチナに輝き、

ものすごい速さで、

さくさくと傷口を縫合するのだ。

結びかたも、

糸の張り方も、

まったく無駄がなく、

美しかった。


そして、

ここがちがう。


と、手を止めた。


たぶんこうだと、

結び方を修正して、

ゆっくりと針をすすめ、

ぷちん、と糸を切った。


こうじゃないか?

ということらしかった。 


キリスは、本をもう一度確認する。

元パートナーくんの動きも確認した。


…ほんとだ。

シオンのほうがあっている。


シオンはこともなげに、

持針器を返した。


彼的には、

そっちのほうが辻褄が合う、

誰だってわかるだろう、ということらしい。


ええ。


なんで今まで気づかなかったんだろう。


「きっ!!

君凄いよ!!

天才!!」


キリスは嬉しくて、

ぽろぽろ泣いてしまった。


ずうっと、

シオンのことを、

みんなに紹介したかったのだ。

正式なパートナーとして。


キリスは、

シオンに、

ぎゅっーとハグした。


すごいよお!!

お医者さんになろう!!

決めた!!

??!!


まるでダンスの相手のように、

両手を組んでぴょんぴょんした。


そして、

もう一度、ぎゅっとした。


◇ 


もう脳内では、

瑠璃色の髪をした、

白衣姿のシオンの姿がぽわわーーんと浮かんでいた。

きゃああっ。


キリスも、

意外とそういうところもあるのだ。


この島では、

ドラゴンゾンビが、

竜医師になろうとしていた…。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る