第7話 呪い2
アトラスは、
紫音さんのことをとても怖がっていた。
本人了承をとったうえでの、
アトラスから見たものだそうだ。
でも大昔のことらしい。
大人だって失敗してる。
その例え話だ。
◆
画用紙に、
色ペンや鉛筆で、
描いてくれた。
なんでも、
紫音さんは、
相手の首筋を吹いて、
【いのちの風船】を作れるらしい。
相手の口からぷくーっと、
パンパンの風船が出てくる。
ハリツヤもいい。
普通の人は、
そんなとこ触らせないだろ?
あいつは手が早いんだよ。
風船の色と模様はその人による。
身体は残る。
パンイチくらいは残してはくれる。な?
しかし、
ほとんどの身ぐるみは剥がされて、
ぐるぐるまきにされ、
風船括られる。
それから、
上空の飛行船団から、どーん!!
と突き飛ばされるんだ!
怖くね?
怖い。
ぷーかぷか、
ぷーかぷかと。
みーんなが、大空へ浮いてゆく。
恍惚として、ぱらぱらと空へ散っていく。
赤、白、黄、緑、青、紫…。
エトセトラ、
エトセトラ。
それで、
朝が来て、
夜が来て、
暗くなれば風船が光って、
星が輝いて。
みんなで両手首も、
身体も、両足首も縛られたままで、
うっとりと、
笑い合うんだ。
きらきらしてるんだ。
でも紫音はな、
手前(てめえ)の風船は、
ださないんだ。
触らせない。
飛行船団のへりに立っている。
満足気にニコニコしてる。
そして、
指をぱっちん!!と鳴らす。
風船が割れる。
ぱっちん。
みーーんな、
恍惚としたまま、
頭から海へまっさかさま、
どぷん、どぷん、どぷん。
だ。
これを見て、
腹抱えて笑ってるんだ。
闇の竜といっしょにだ。
へ?!
ヒ、
ヒエエエエーーーー!!!
こ、
怖すぎるだろ!!
ちなみに、
指を鳴らさなくても、
結末に大差はないそうだ…。
◆
俺は言ったんだよ。
「いーや、いやいや!!
みんな、まぬけすぎないか?!」
「だって、
一人や二人ならともかく、
立て続けに起きたら、
ばればれじゃんか?」
「と、
途中で気づくだろ!!??
対策しろよ対策を!!」
「お、
お、
俺だって努力したよ!!
風船は風船だ。
やめろといくら止めても、
聞いてもらえない。」
「あいつおかしいんだよ。
船が長すぎたのかな?」
「ときどき自分をなくすんだ。
きれいすぎるのかもしれない。
すぐに変なのに取り憑かれるんだよ。」
◆
俺は、
はっ!!とした。
俺は、さっき、
フツーに受入れていたんだ。
あの人のこと。
だって、
風船は、ただの例え話なんだ。
◆
ぞっとした。
それが、
〈混じってる〉
って、ことなんだ…。
◆
そして、
わかる気がした。
俺だって、
途中でやめられないと思う。
ココのこと、
もっと知りたいんだもの…。
あんなこと出来る人、
他にいるとは思えない…。
◆
あの、
ぬいぐるみに、
もし、
値札が括られていたら??
紫音さんは、
―わざと、ぬいぐるみを消してくれたんだ。
過去の経験。
帳尻合わせだ。
◆
結局、
当時のアトラスたちは、
魔法円翼(パラシュート)の呪いを、
こっそりかけようということになり、
仲間たちと汗みずくで、
手分けして昼夜を問わず、
汗びっしょりで飛び回ったそうだ…。
なんか凄い話だった。
◆
…。
廊下では、
「ううっ、
えぐっ。」
紫音さんは、
長椅子に座って、
犬の絵本を読んで、ぽろぽろ泣いていた…。
ええ…。
そして、
アトラスが近づくと、
うるせえ!!と言わんばかりに、
ガブッと、何故か噛みついた。
お、恩人じゃないの?!!
どゆこと!!??
何で?!?!
そして、
おばあさんのメイドさんが、
彼にこそこそと耳打ちすると、ぱあっ!!と目を輝かせた。
そして、
大窓を開けて、ローブを翻し、
濃紫の竜に変わった。
そして光の速さで、丘の邸宅へと飛び去っていった…。
◇
ポーラは、
わあっ、と思った。
なんて、きれいなんだろう。
これが、竜になったシオンなんだ!!!
胸がどきどきした。
はるか昔、雪山で彼を見たことがある気がする。
―でも、そんなことはぜんぜんない気もする。
ぽろぽろ泣きそうだった。
でも、今は駄目。
お仕事中、だもの。
「ミル姉のとこ行くんだあ。」
と言いながらポーラは、
あ!!っと思った。
◆◆◆
だってもう、紫音の勝ちは確定したのだ。
◆◆◆
わあっ、と思った。
昔から、飛び抜けている。
ぞくぞくする。直感(インスピレーション)。
シオンは昔から天才だ。
私とはぜんっぜん違う!!
◇
すべてのしがらみを飛び越えて、
いつだって眩しく輝き続ける。
彗星の竜騎士、なのだ。
人智も竜をも超えた、存在なのだ。
◇
…。
またアトラスは、
頭から細くピューピューと血を吹き出していた…。
そして、
「たはははっ」と笑った。
いや、
何でちょっと満足げ?!
腰に手を当ててるの?!
わけわからん!!
あーっはっはっは!!と、
二人で大笑いしたのだ。
俺のこと置いていくなよ!!
お客さんだぞ!!
もう!!
◇
ごめん、
よしっ!
と、ポーラが突然立ち上がった。
「お風呂いこっかあ!」
花開くような、満面の笑みで、
ぎゅーっとハグされた。
「仲直りっていうのはねえ、
ぎゅーして、お風呂で洗いっこだよ!!」
人差し指を立てて、
きりっとして、きっぱりと言った。
「あ、あれ?
干したふとんで、にらめっこだっけ?」
なんだそら!
どっちも知らんっ!
俺は、
さっきの、
ふかふかの手を思い出していた。
…
…
…
だ、
だめだよ!!
やだやだやだ!!
だめだよ、だめだめ!
ポーラは、
にこにこして、
俺の腕を引っ張っていった。
キャアー!!
お、
お、
お、
女の子と、
行くわけ無いだろーー!
俺のこと、
何歳に見えてんの?!
あ、
竜だからか?
そっか、
そういうことか?
…
…。
ちがうって!!
これは、アッチの説明不足じゃん!!
驚くくらい、別にいいだろ!!
へ、
変な島!!
島の掟?!
この子が変なの?!
もう上着脱ぎだしてる!!
なんか、
舌をぺろっとして、
おっさんみたいな脱ぎ方してる!!
捲った腕をぐるぐるしてる!!
や、やめろよーーー!!!
そんなふうに、脇の下で、
ぱたぱたしないでぇっ。
夢が壊れるーー!!
(続)
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