第7話 呪い2

アトラスは、

紫音さんのことをとても怖がっていた。

本人了承をとったうえでの、


アトラスから見たものだそうだ。


でも大昔のことらしい。

大人だって失敗してる。

その例え話だ。



画用紙に、

色ペンや鉛筆で、

描いてくれた。


なんでも、

紫音さんは、

相手の首筋を吹いて、

【いのちの風船】を作れるらしい。

相手の口からぷくーっと、

パンパンの風船が出てくる。

ハリツヤもいい。


普通の人は、

そんなとこ触らせないだろ?

あいつは手が早いんだよ。

風船の色と模様はその人による。

身体は残る。

パンイチくらいは残してはくれる。な?


しかし、

ほとんどの身ぐるみは剥がされて、

ぐるぐるまきにされ、

風船括られる。


それから、

上空の飛行船団から、どーん!!

と突き飛ばされるんだ!

怖くね?


怖い。


ぷーかぷか、

ぷーかぷかと。

みーんなが、大空へ浮いてゆく。

恍惚として、ぱらぱらと空へ散っていく。

赤、白、黄、緑、青、紫…。

エトセトラ、

エトセトラ。


それで、

朝が来て、

夜が来て、

暗くなれば風船が光って、

星が輝いて。

みんなで両手首も、

身体も、両足首も縛られたままで、

うっとりと、

笑い合うんだ。

きらきらしてるんだ。


でも紫音はな、

手前(てめえ)の風船は、

ださないんだ。

触らせない。

飛行船団のへりに立っている。

満足気にニコニコしてる。


そして、

指をぱっちん!!と鳴らす。

風船が割れる。

ぱっちん。


みーーんな、


恍惚としたまま、

頭から海へまっさかさま、

どぷん、どぷん、どぷん。


だ。  

これを見て、

腹抱えて笑ってるんだ。

闇の竜といっしょにだ。


へ?!

ヒ、

ヒエエエエーーーー!!!

こ、

怖すぎるだろ!!



ちなみに、

指を鳴らさなくても、

結末に大差はないそうだ…。




俺は言ったんだよ。 


「いーや、いやいや!!

みんな、まぬけすぎないか?!」

 

「だって、

一人や二人ならともかく、

立て続けに起きたら、

ばればれじゃんか?」


「と、

途中で気づくだろ!!??

対策しろよ対策を!!」


「お、

お、

俺だって努力したよ!!

風船は風船だ。

やめろといくら止めても、

聞いてもらえない。」

「あいつおかしいんだよ。 

船が長すぎたのかな?」


「ときどき自分をなくすんだ。

きれいすぎるのかもしれない。

すぐに変なのに取り憑かれるんだよ。」 


◆ 


俺は、

はっ!!とした。


俺は、さっき、

フツーに受入れていたんだ。

あの人のこと。


だって、

風船は、ただの例え話なんだ。


◆ 



ぞっとした。


それが、

〈混じってる〉


って、ことなんだ…。


  

そして、

わかる気がした。


俺だって、

途中でやめられないと思う。


ココのこと、

もっと知りたいんだもの…。


あんなこと出来る人、

他にいるとは思えない…。



あの、

ぬいぐるみに、

もし、

値札が括られていたら??  





紫音さんは、

―わざと、ぬいぐるみを消してくれたんだ。





過去の経験。

帳尻合わせだ。

 




結局、

当時のアトラスたちは、

魔法円翼(パラシュート)の呪いを、

こっそりかけようということになり、

仲間たちと汗みずくで、

手分けして昼夜を問わず、

汗びっしょりで飛び回ったそうだ…。

なんか凄い話だった。






…。


廊下では、

「ううっ、

えぐっ。」

紫音さんは、

長椅子に座って、

犬の絵本を読んで、ぽろぽろ泣いていた…。 


ええ…。


そして、

アトラスが近づくと、

うるせえ!!と言わんばかりに、

ガブッと、何故か噛みついた。


お、恩人じゃないの?!!

どゆこと!!??

何で?!?!




そして、

おばあさんのメイドさんが、

彼にこそこそと耳打ちすると、ぱあっ!!と目を輝かせた。


そして、

大窓を開けて、ローブを翻し、

濃紫の竜に変わった。

そして光の速さで、丘の邸宅へと飛び去っていった…。 



ポーラは、


わあっ、と思った。


なんて、きれいなんだろう。 



これが、竜になったシオンなんだ!!!



胸がどきどきした。

はるか昔、雪山で彼を見たことがある気がする。

―でも、そんなことはぜんぜんない気もする。


ぽろぽろ泣きそうだった。

でも、今は駄目。

お仕事中、だもの。



「ミル姉のとこ行くんだあ。」 

と言いながらポーラは、

あ!!っと思った。 


◆◆◆



だってもう、紫音の勝ちは確定したのだ。



◆◆◆


わあっ、と思った。


昔から、飛び抜けている。

ぞくぞくする。直感(インスピレーション)。

シオンは昔から天才だ。


私とはぜんっぜん違う!!



すべてのしがらみを飛び越えて、

いつだって眩しく輝き続ける。

彗星の竜騎士、なのだ。


人智も竜をも超えた、存在なのだ。



…。

またアトラスは、

頭から細くピューピューと血を吹き出していた…。

そして、

「たはははっ」と笑った。

いや、

何でちょっと満足げ?!

腰に手を当ててるの?!

わけわからん!!

あーっはっはっは!!と、

二人で大笑いしたのだ。


俺のこと置いていくなよ!!

お客さんだぞ!!

もう!!



ごめん、

よしっ! 

と、ポーラが突然立ち上がった。


「お風呂いこっかあ!」 




花開くような、満面の笑みで、

ぎゅーっとハグされた。




「仲直りっていうのはねえ、

ぎゅーして、お風呂で洗いっこだよ!!」 



 

人差し指を立てて、

きりっとして、きっぱりと言った。



「あ、あれ?

干したふとんで、にらめっこだっけ?」


なんだそら!

どっちも知らんっ!


俺は、

さっきの、

ふかふかの手を思い出していた。

だ、

だめだよ!!


やだやだやだ!!

だめだよ、だめだめ!



ポーラは、

にこにこして、

俺の腕を引っ張っていった。

キャアー!!



お、

お、

お、

女の子と、

行くわけ無いだろーー!


俺のこと、

何歳に見えてんの?!



あ、

竜だからか?

そっか、

そういうことか?



…。

ちがうって!!

これは、アッチの説明不足じゃん!!

驚くくらい、別にいいだろ!!



へ、

変な島!!

島の掟?!

この子が変なの?!

もう上着脱ぎだしてる!! 

なんか、

舌をぺろっとして、

おっさんみたいな脱ぎ方してる!!

捲った腕をぐるぐるしてる!!


や、やめろよーーー!!! 

そんなふうに、脇の下で、

ぱたぱたしないでぇっ。

夢が壊れるーー!!



(続)




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