第3話 ◆◆◆ポーラの竜服について
◆◆◆
キリスとの契約以降。
覚悟はしていたが、
直感(インスピレーション)の、
回廊は、
さっぱり開かなくなった。
鍵の交換が久しぶりすぎて、
テンションが上りすぎた??
顔を覆った。
恥ずかしい。
しかも、
あれ以来、
メッキの表情が板についてきた気がする。
これも鍵の交換の影響だろうか?
そうだろうな。
恥ずかしい、のような、
なんてことない呪詛であっても、
己の身に返ってくるたびに、
メッキは厚みと輝きを増すように思えた。
背負うものが増えたのだ。
キリス(彼女)は、
シマシマエナガンのシオルと違って、
人間だからだろう。
◆
どうなんだろうと思った。
職人として、意図せぬメッキが増えるのは、
あまり気が進まなかった。
直感(インスピレーション)。
混ざる気がする。
別のことをしよう。
休業だと思った。
◇
ノーザンクロスの出稼ぎで、
たっぷり報酬をもらったので、
懐は暖かかった。
彼女を通しているから、
帳尻も合っているはずである。
◇
うん。
引きこもって、
キリスのためのドレスを作ろう!
それがいい。
やる気の起きない仕事は出来ない。無理だ。
休暇のときに、彼女に来てもらうしかないな。
本気でやれば、採寸は五分でいける。
皇国神殿の家も、
だいぶさまになってきたし、
彼女のために、
完璧に準備さえしておけばいいのだ。
直感の回廊が、
明るく輝き出した。
紅玉のドレスを思うと、胸が高鳴った。
そして、大鏡を見た。
恥ずかしげもなく、
自分の服も作ってしまおうか
少しいい方法があるからだ。
最近、開発した新しいやり方。
〈目を借りる〉ということだ。
◆
先日、
ポーラの服について、
少し新しいやり方を実験したのだ。
ポーラ → 〈アトラス〉 → シオン。
彼らの、
〈目を借りる〉のである。
仕事ではない。
プライベートだ。
ポーラの服は、
かなりいいものが作れた、と思う。
二人には謎が多い。
直感(インスピレーション)を使うのは、
無理だと判断したからだが、
面白い試みだった。
彼らは、相性やセンスがいいのかもしれない。
◆◆◆
世間は、
ポーラを俺の娘だと思っているようだ。
便宜上、そのように振る舞ってきたが、
実態は、まったく違う。
彼女は、
かつて失った、二人の友人の化身なのだ。
―白竜と竜騎士。
それに二体の闇の竜。
贖えないはずの、俺の許されざる罪に、
ウルトラCの超技で、
無から許しを創造してくれた、
俺の【名の扉】の救済者だ。
面白がりといえば、
まあそうだが、
闇の竜二体を入れる必要なんて、
どこにもない。
彼女は、
彼らも許すと言ってるのだ。
これはシリウスではなく、
彼女からの申し出では??と思う。
違うかもしれないが。
その可能性に気づいてからは、
畏敬の念が強すぎて、
もはや、まともに見られるはずはなかったのだ。
俺には無理だ。
アトラスについても同様だ。
【名の扉】の鍵、
歌姫マーリーの人形
2つ残して、
全ロストだ。
いかれてる。
俺には出来ない。
そうか。
二人への尊敬の念を経由したから、
創造性が増したのかもしれないな?
三人か?
四人?五人?
すごいんだ。
アトラスは、金星と紫陽花。
白竜は、高山のスミレと北極星。
同僚については、初めて触れると思う。
桧皮色の蝉とスピカ。
羽化している最中のセミだ。
美しくて脆くて特別だった。
これから、地上に出るはずだったのに。
彼は、
俺よりも年下だった。
闇の竜二人の文様は、
永遠にわからずじまいだ。
◆◆◆
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