第2話 執事(バトラー)アトラス爆誕

アトラスが戻ってきた。

別棟のメイドさんに、彼を引き渡したそうだ。


「ごめんなあ。

そんなわけで、

今の紫音にバトラーは難しいんだよ。」


う、うん。


「片思いとか、

失恋してるわけだ。」


お、おう。



「俺たちだって、子どもだぜ?

今度の春にはオリオリポンポス山の天文台にある、

小学校二年生なんだ。」


「でも、噴火で休校になったし、

どのみち、暇してたしさ。」


「頼りないかもだけど、

力になろうって思ったわけさ。


気軽に何でも聞いてくれ。

あいつは俺たちの仲間なんだ。

あとで他の仲間も紹介するよ。

そんなとこだ。」


な、

なるほどなあ。



俺だって、

大人は仕事を簡単に休めないことは知ってる。

ましてや、

そんな理由で?!と思うけど。




…。

あれじゃ無理だろう。

やばすぎるもんな…。



二人は、

への字口をして、

上を見ながら目を閉じていた。


…。


湯のみ茶碗を片手に並ぶその姿は、

キッズのそれではない。


熟年夫婦の趣きすらある。


な、

なぜだ?


このちゃぶ台のせいか!?


「あいつも大変なんだよ。」

「ミル姉はさ、ライバルが多いの。」

二人は床の血を拭き拭き、

ポツポツと語った。


ああ。

同じような苦労をしている、

仲間なんだなと思った。 


改めて、

経緯(あれやこれや)を、

メモやジェスチャーで、

一生懸命に、俺に教えてくれようとした。



この二人(ポーラとアトラス)は、

現実主義者(リアリスト)だ。


シオンを応援する気持ちに、

寸分も変わりはないが、

世間のランキング的なものも、

冷静にきちんと見えるタイプである。


せめて、

ゴンゾーくらい実績があればまだしも。


シオン(ホーク)は今のところ、

ツンデレとヤキモチ焼き、

お道化とドラゴンミントンを、

魔法映写機へと、

晒しただけなのである…。

闇の竜の討伐なんて、本人の尻拭いの面もおおいにあった。


芙蓉(ハイビスカス)のドレスは、

素晴らしい芸術品だが、

ミルダとの帳尻、という意味ではまだ弱い。


ミルダは別に、

竜と人して雇用契約をしてるのであって、

形式上は以前、

ビジネスパートナーだ。


シオンは、

かなりの熱のあげようだが、

島の人達からすれば、

進展なんて、

あってないようなものである。


みんなの感想はただ一つ。


お若いの!!がんばれ!!

 

悲しきかな。


ミルダとホークの帳尻は、

まーったく釣り合ってないのだ!!


とはいえ、

なんだかんだで、

みんなシオンを応援していた。

彼には、そういう圧倒的な華と才能があった。



ライバルは本当に多いのだ。

島の内外の名士から、

竜医院の面々、

学生時代の同級生、

かつての伝説の皇国皇女時代の根強いファン(大富豪)まで、

エトセトラ、

エトセトラ。


強くて、

イケメンなだけでは、

はっきり言って、

彼に勝ち目はないのである!!


若いって、いいわよねえ!!

島ではみんなが、

口々に話題に出して楽しみ、

シオンのオッズは、まさかの一番人気だ。


お年寄りは、

ホークがミルダの祖父であるシリウスの、

再来であることに加えて、

ミルダ本人が、のびのびと楽しそうなことから、

ほぼ彼に票が入っていた。

彼女の小さな頃を思い出す、

本当に嬉しい、ありがとう、彼女をよろしく、と震える声で涙ぐむ者までいるのだから、

なかなかの熱の入れようである。


キッズからは、

見た目のかっこよさと腕っぷしの強さ、

持ち前の優しさと足の早さから、

ものすごーーく票が入っていた。

しかも、

ドラゴンミントンに勝ったほうが、

ミルダのハートを射止める!!という設定に、

勝手に置き換わってしまっていた。

シオンが主役なのである。

元パートナーくんなんて、

地味すぎるし、見た目がシブすぎる。

候補にすら挙がらない!

名前すら知らないのだった。


もはや、

ノーザンクロスのモーブくんのほうが、

上なくらいだ。


そして、

悲しいことに。


ミルダ本人の、

友人知人の間では、

ミルダの元パートナーくんどころか、

研修医(もう研修医ではない)三バカトリオの方が、

はるかはるか、

雲の上のランキング上位なのであった…。



ゴースト化すれば、

ミルダの文様を覗いて、

おそらく現在のランキングくらいは見えるのだが、

そもそもの肝心のゴースト化は、

ミルダに頼むものである。


資産家でもなく、

医者家系でもない、

彼のポテンシャルを考えたら、


【恩寵】でブーストかけてるうちに、

彼の優れた直感を活かして、

情報を引き出し、

やや強引にオトすしかない!!


…みんなわかっているのだ。


アトラスやポーラは、

ひたすら応援の日々である。


二人でハチマキまでしていた。

うちわはもちろん、

ゴールデンペア!!


彼らはそういうのが、

たまらなく好きなのだ!!


それで柄にもなく、

アトラスが代理を、

仰せつかったそうだ。




俺は、魔法映写機を見ながら、

そんなところを、

ざっくりと説明を受けた。



ほえー。

どきどきするなあ。


大人の事情、

ってやつだよな。



いやなんか、

ばかみたいだけどっ!! 


いいの?!

そのミル姉さん、

どんどん変な人になってない!?

紫音さんなんて、人間じゃなくなってるよね?!


つか、

俺はお客様だぞ?!

説明必要あった?!

うーん、

でもなあ。

そっかあ。




アトラスは、

「悪いなあ。」

と言って、

お詫びに、

キンキンに冷えた、

オロッポロッポビールを、

俺にも一瓶持ってきてくれた。

薄いグラスも、キンキンに冷えていた。


「だってさあ、

あいつがさあ、

あいつがさあ、

ミルダと契約しただろ?

あいつが竜と契約するのなんて、

俺以来だぞ。

俺のときは、人と竜が逆だけどさ。


それだって、

幼馴染だし、

別に船団が勝手に決めたようなもんなんだよ。」


「今回はさあ!!

あいつがさあ!!

自分の意志で、

契約主を決めたんだよ。

ほんっと、めでたいじゃないか! 」


「あ、あの、

シオンがあ。

大きくなって。

俺は、俺は嬉しいよお、、、!!」


おっさんどんだけストーカーしてるんだよ!!

怖っ。


「俺もさあ。

あいつにはお医者さんとかさあ、

お道化に付き合ってくれる、

アイドルがいいと思ったんだよお。

まさか、両方の女が居るなんてさあ。

こいつは奇跡だよ。

シスターだからあいつにいじめられることもない。

奇跡だあ。」

ポーラも、深くうなづいた。

よほど、二人は苦労をかけられたんだろう。 

なぜだろう、

俺は全くの他人なのに、

彼らの苦労が見て取れた。


「今回はさあ!!

あいつがさあ!!

自分の意志で、



え、えぐっ」


あっ!話がループした!

おっさんくさっ!!


見た目は美しい、

七歳のドラゴンなのに、

彼の背中は、

もはや汗が霧となって、

靄がかかって見える始末だった。


ま、

まあ、

いいやつなんだろうな。ふふ。


どっちも。

なんかいいな。  


レンからしたら、

眼の前の、

アトラスとポーラを見て、

あったかいなと思った。


しかし。


今日は、

抜けてる大人にばかり合うなあと思った。


それで、

あっ、

ここの大人は、

すぐにお詫びをくれるんだ!

悪いことをしたら、なあなあにせず、

きちんと謝るから、

まるでミスが多いように見えるんだと気がついた。


三人で、

オロッポロッポビールの、

あわあわがひげになって、みんなで笑った。


へんてこりんだけど、

素敵な島に来たなあと思った。


大窓の外では、

森の木々が、月明かりに照らされていた。


(続)

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