モニター募集!来たれ小学生!カーアイ島の二泊三日の旅

浮地 秤

第1話 回廊を抜けた小学生



俺はレン。

新島(ニイジマ)レン。


昨日、

とある回廊を抜けてログインした、

小学二年生だ。




豪華!

島旅行二泊三日★に当選した両親が、

急遽、

ふたりとも仕事でいけなくなったので、

代わりに俺が来たんだ。


「休めないのか?。」「私もよ。」

二人の揉める声が、

夜の居間から漏れてたから、

なんとなくそうなるんじゃないかなあ、とは思っていた。


三連休。

部活も休みだった。

ほんの少し追加料金を払って、

1人分にして、

なんと、ホームステイプランに、

変えられたのだそうだ。


そう、

俺、

まさかの、一人旅!!

じゃーん!!


まだ小2だぜ?

緊張するけど、わくわくするぅ。

なぜかというと、

ちゃんと執事(バトラー)が、

つくんだってさ。

凄くない?

ラッキー★



ぱんっ、と真っ白な回廊が開いた。

中からは潮風!!


ここの回廊は空の上なのだ。

ひゃっ。

前髪もってかれるんだがっ。

気持ちが冷たくて、気持ちいい!!


そうして俺は、

サングラス姿の係員の指示に従って、

二人乗り(タンデム)し、

魔法滑空翼(グライダー)に捕まった。

そして、

回廊の向こうの大空へとすべらかにログインしたのだった。



広い空。

白い雲。

大小百からなる、火山列島。

そしてほら、

二番目に大きな島。

あれが、今回のステイ先のカーアイだ。


あっちの一番大きいのは、

オリオリポンポス山と呼ばれる、

大きな火山島。

天文台があり、

先日は、大きな噴火があって話題になったところだ。


大きな荷物(トランク)は、

もう宿泊先へ送ってあった。


俺の荷物は、

小さなリュックサックだけだ。



俺は、

グライダーの着陸地から、

2人用の竜車(タクシー)で移動した。

ここから、森の皇国神殿までは一人行動だった。

ううー、どきどきする。


窓からマーケットが見えた。

たくさんの竜が居て、

ちび竜も居た。



そそ。

俺の姿だってちび竜なんだぜ?

背中に羽だって生えてる。

ログイン前に設定済みだ。まだひらひらしか動かしてないけど、練習すれば飛べるようになるってさ。

これも楽しみだな!


色設定は自由だった。

五色のどれか+金銀(ゴールド/シルバー)のどっちか。

俺は赤とゴールドにした。


煉獄のレンだ!!

かっこいいだろ?!


中2病(ちゅうに)じゃない。

―小2だっ!!


俺は、自分にグッドをした。

バシッとキメてやるぜ!!


何を?

知らん!!




竜車は、

森の皇国神殿へついた。


ここで必要な装備を、

ひととおり揃えてくれるそうだ。

どれどれ。

  

「おい、こらっ!勝手にさわるな!」

売店の兄貴分らしき、

神父に声をかけられた。


は?

なんだよそれ。

俺はお客さまだぞ??

半目でにらみつけてやったんだ。


そしたら、

ぽっかーーーんと、

呆れた顔をした、が、


「な、

なんだよお!!」

と声を出すと、


あれっ?!と反応が変わった。

そして、にっこりされた。

「あー、君もホームステイの子だよね。」


ごめんごめんと、

汗をカキカキ、

ふとっちょの神父も寄ってきた。

巫女さんもだ。


なんでも、超絶手癖の悪い体格も、超そっくり!!な、赤いちび竜が居るのだそうだ。


なるほどな。


かっとなって、

棚を蹴らなくて良かった。


「誤解してごめんな。時間あるかい?」

そして、少し奥まった席に通してくれた。


巫女さんが試作品という、

白くてしゅわしゅわしたジュースをくれた。

ミルッシュソーダっていうんだって。

へえ。

「おいしい!」と言うと、

すごく嬉しそうにしてくれた。


大窓の外には森の木々が揺れていた。


なんでも、

ホームステイは、新しく始めたサービスだそうだ。


まずは、この島に伝手(つて)のある、

友人知人の子どもたちを誘って、

アンケートを取り、

今後のサービス向上に活かしていくらしい。

モニター調査って言うそうだ。

へえ。


「そうだよなあ。

五色と金銀だけじゃ、

カブる子が出て当然だった。」

対策を考えようと、

彼らはカリカリと真剣にメモを取っていた。

「何か対策を、かんがえなきゃな。」


このあと俺は、南十字星という工房に併設された、

ゲストルームで宿泊予定だ。


彼らにバトラーの名前を聞かれたので、

アトラス、だと伝えると、

みんな、ろこつに、

ぎょっとした。



え?


な、


何?


怖いんだが。




大人たちは、

いそいそと売店の方へ行ったが、

明らかに何かを話し合っていた…。


「…っかしなあ。」

「今日は俺抜けられないんだよなあ…。」

「そうだなー。老巫女さんとこにも送っとくか。」


俺、封書書くわ、といって、

兄貴分の神父は、そそくさと奥へ引っ込んだ。


さらさらと書類を書き封筒に入れて、

こめかみに手を当てて、

光を放ち、魔法封緘(シーリング)をした。

青白い光が見えた。

封筒を指先に乗せて、フッとふくと、

それは蜻蛉(トンボ)に変わった。


そして、ぶーっと息を吹くと、

トンボは二匹になった。

彼は小窓を開けて、それを外へ放った。


わあっ、おもしろっ!


「えっ?何?」と、

彼は、こともなげに言った。


その後、

ふとっちょの神父に、

さっきの売店で、

お泊りセットなる呪い紙とクッキーを渡され、

説明(レクチャー)を受けた。

それと、

蜻蛉(トンボ)のブローチを、胸につけてくれた。

連絡手段になるんだって。


「これってみんな同じのを、配るの?」

「名前とか、書いたほうがいいんじゃない?」


すると彼らは、

全員はっ!!とした。

ふとっちょの神父が、

「そうかあ。ごまかすやつがでるよな。」

そして、

「ご意見ありがとうっ!!」と、

すごく喜んでくれた。


そして、

俺が言われた通り、

渡された呪(まじな)い紙に名前を書くと、


彼は、

ババッ!!と、

人差し指と中指を眉間に押し当てた。

次に、その名前をとん、と叩くと、

名前だけが青く光って、ぺたりと持ち上がった。


わあっ。


ふとっちょの神父の眼は、

まるで別人のように、青白いをたたえている。

その指を横一閃に、シュッと素早く払った。


すると、

ババババーーっと、

ものすごい速さで、

すべての呪い紙に、名前が転写されていった。

わあっ。

名前は染み込んでみえなくなったが、

お泊りセットのペンの先にある、

特別なライトで照らすと、

青白く、くっきりと浮かんだ。


す、すげえ。


そして、

巫女さんは、

俺と目線を合わせて、

笑顔で、

「楽しんでね!」と、

にっこり言ってくれた。

そして、試作品の小瓶を3つくれた。

わあ。

どきっとした。

でもなんだか。

すっごく疲れが取れた気がする!!



そうして、

外に出た。

よし。

休んで元気も出たぞ!

ここから森のアプローチを抜ければ、

南十字星は、ほどなくだそうだ。


近頃は、

案内板も増えているから、

迷わずに行けるよ、とのことだった。

俺は、

むくむくとテンションが上って、

走って、南十字星へ向かった。


羽をぐぐっと羽ばたかせると、

低空だが力強く、

体がふわりと持ち上がった。

すっげえーー!!


露に濡れた草を蹴る。

土の香りとともに、

辺りは草の香りが、ぶわっと立ち上がった。



南十字星は、

木造の小さな店だった。

小さな扉には、

白い竜と南十字星の文様(レリーフ)が、

ステンドグラスで嵌められている。


低くなりだした陽光が木陰から透かされて、

きらきらと、

揺らめくように、

その濃紫と白色を、光り輝かせていた。




そして、

俺は、

金属製のノブに手をかけて、

おずおずと扉を開けた。 


がちゃり。





そして、

息を呑んだ。






振り返り、

目を見開く少女。








銀色のさらさらした髪。

すらりとした透き通るような手足。







 




みたこともない、

光沢とハリをたたえた白く美しい服。


菫だろうか?

紫の細やかな刺繍の装飾の、

銀の箔(ラメ)がきらきらと光っていた。







濃紫の長い長いまつ毛。

そして、星空のような瞳。








まるで、

俺の体の、

輪郭線が、

ガツン!と揺れて、


そのまま、

彼女の瞳に、

スーッと音もなく吸い込まれてしまいそうだった。





う、

うわあっ!!


俺は思わず、

尻もちをついた。



「大丈夫?」



手を貸し、

扉を開けてくれたこの美少女は、

ポーラと言った。

見かけは、俺と同い年くらいだ。


さらさらの銀髪。

唇と頬。

声も美しい。

足もすっごくきれい、、、。


うわあ。

見かけによらず、

ふわっとした、あったかい手!!

顔がみるみる赤くなった。

耳まで真っ赤だ。

涙目にもなったかもしれない。

ちっ、違うぞ!!

そんなんじゃない!!


だって、

クラスでも町でも、

こんなに綺麗な子は、

みたことがないんだ。


びっくりしたっていいだろ!!







俺の様子をみて、

奥から、くすくすと声が聞こえた。


紫色をした精悍なちび竜が、

よっ!!と手を上げた。



「俺がバトラーのアトラスだ。よろしくな!」




た、



タメ語?!







アトラスがぷーくすくすした。

なんだよあの目。

にやにやして。


バトラーを名乗った、

紫のちび竜アトラスは、

黙ってりゃイケメンだ。それもとびきりの。




彼らは、店舗の横にある、

かまどのある居間へ通してくれた。


そこには、

ちゃぶ台があった。


んん?

あれ?

どう見ても、

あいつの中身はおっさんだ!!


だって、

瓶のビールをシバきだして、

ちゃぶ台にごろんと横になり、

尻を向けたまま顔だけ振り返って、

お茶ー、と言うんだ。


そ、

そんな子どもいるかーー!!


つか、自分でやれよ!!おっさん!!


バトラーってそれやるほうじゃないの?!


でも、

呪(まじな)いなんだろうな。

誰もいないのに、

つつーっと、

彼の手元へ湯気のたつ湯呑みが来た。

俺の手元にも来た。


こっちはよく冷えたグラス。

ポーラはかまどの隣の作業台から、

にっこりした。


どっちも、

緑茶だってさ。

うまっ!!



店舗の扉が、かちゃりと空いた。


「がうーがうー。」


俺は、またびっくりした。





美しい声。

透き通るような指先。

濃紫の瞳には、

白銀の箔。




ローブで覆われていてもわかる。

美しい輪郭。




頭も口元も、

たっぷりと覆われていたが、

ちらりと見える瑠璃色の髪が、

キラッキラ輝いている。



長い睫毛。

ニッコリとした微笑み。

なんだろう。

まるで、よそのクラスの先生みたいな雰囲気だ。




俺見て、また、

がうーがうー、と優しく言った。



 



な、何を言ってるかわからん。






だ、だれ??



  


なんと。

彼が「南十字星」、

ここの店舗兼住宅の店長だった。


もともとは、

竜鎧(アーマー)と呼ばれる防具を作る工房なのだそうだ。

ただ、この店主、紫音(しおん)さんはオーダーメードしか受け付けない変わり者なので、

店舗はほぼ不必要となり、

ゲストルームの受付のほうが、

メインの仕事になりつつあるそうだ。

別棟にはおばあさんのメイドが、

三人も居るんだって。


ここが受付で、

ゲストルームは、隣の別棟にあるそうだ。


せっかくなら見ますか?

ポーラは嬉しそうに、工房を案内してくれた。



わあっ。


大きなチェスト、

高い天窓。

トルソーはたった一つだけ。

美しい竜鎧がかかっていた。


俺は、

鎧のことなんて、

ぜんっぜんわからないけど、


きれいだなあ!!


―ごくりと、息を呑むほど美しかった。






さっきの店主、紫音さんは、

にこっとして、

芋巾着と、熱々の緑茶をくれた。


美しい眼をしていたが、

やっぱり彼は、

言葉を発しなかった。



がうがう、ときれいな声が振動として、

響いては来る。

でも、さっぱり聞き取れなかった。


美しい指先。流れるような作業。

胸が震えた。


―この世のもんじゃない。

なぜか、背筋に冷たいものが走った。


でも、

ポーラもアトラスも、

すごくリラックスして見えた。


だから、いい人なんだろうなと思った。


近頃は、

さっきの森の神殿の地下と、

ここの工房を行き来してるんだって。へえ。


◇ 


アトラスがこっそり俺に耳打ちした。


いいか?

あいつは優男だけど、

一番逆らったらだめなやつだ。

今は地獄の番犬だ。ミルダと契約してるんだ。



最近、

俺たちは気づいたんだ。

あいつは契約主次第で、大きく性格が変わるんだ。

根がお道化だからな。


ポーラレアスターのシオルと契約してたときには 

竜じゃなくてシマシマエナガン(鳥)に乗り、

ふらふらと島をさまよい、

神殿の屋根で体操して、

浜辺で貝を拾う、

ぽやーっとした変なやつだった。


ドラゴンゾンビ狩りの変人シスターと組んだ今は、

あいつはキリスを守ることに命をかける、

一触即発、一途な番犬になっちまったんだよ。



??



よく話がみえなかった。


紫音さんは、がうがうー。こうこうー。と、

心地良い不思議な音がした。

「昔は、ポーラの契約主だったんだ。」


「ポーラが人間の女の子になったから、

契約が自然と切れたんだ。

だから、

ミルダと紫音で新規契約したのはべつにいいんだ。

そしたらあいつ、

だんだん竜に戻ったんだよ。」


??



「やーーっっと、

アイツの中のバケモンが出ていったんだ!!

七年?いやもっとか。

凄かったんだ!」


「俺も命がけだったぜ?

俺のほとんど全てをロストした。」


「俺じゃなきゃ諦めてたね!!」 

と、

彼を見て、とても嬉しそうに言った。


ホークさんは、

それを聞いて、

細い指先を合わせてにっこりした。

プラチナのように輝く瞳で、

アトラスにぎゅっとハグした。

長いまつ毛。

耳元に触れる唇。

まるでこちらが目に入ってないようだ。


花や果実を思わせる強い香りが刺さった。


な、

なんだ?!


紫音さんは、

アトラスの元をぜんぜん離れようとしない。

さっきと眼光が違う。

こ、怖え!!


アトラスが、

はっとして、

フルーツを食べさせると、

ふんっ、と鼻を鳴らして、

ぷいっと目をそむけた。

そして、かぷかぷと食べながら、

彼の両手首を、

全ての爪が食い込むくらい強く掴み、

指を舐め、手を噛みだした。

苛立つ瞳のまま、

アトラスをもみくちゃにして、

ガブガブと。

アトラスは、みるみる血だらけになっていく。

ヒャ、ヒャアー!!


ときどき、

ぱっと離れて、

身体を反り返らせた。

牙は血まみれで、

ときどき嬉しそうにニコニコした。

ひえええ、


そして、

プラチナの鋭い眼光から、

彼の動きに合わせて、

瞳の光の軌跡が見えた。

そのやりとりが、

二ターンくらいした。


アトラスが、

ぎゅうっと彼をハグすると、

手をぶらんと下げ、ぱたんと倒れた。


気絶したらしい。


そこだけ、

お芝居から、

くり抜いたみたいだった。

この世のものとは、

思えなかった。


アトラスは、

ぴゅーぴゅーと、

頭から細く血を吹き出したまま、

汗ビショビショの彼を、

外へ担ぎ出していった。ぱたん。


だ、大丈夫だろうか。




お、

お、

俺の認識がおかしいのだろうか?


俺は腰が抜けたまま、

とんとんとポーラの肩口を突いて、


耳元に、

あれってさ、



取り憑かれてね??



と聞いてみた。


ポーラは、

「うん。」

「もともと、ああなんだって。」

と、


まーったく理解できない、

というふうに、

頭を押さえて、首を振った。

それは、俺もだった。


俺たちは、きょとんとしたまま、

彼らの出ていった、居間の扉を眺めていた。


回廊のこっちがわの世界でも、

いろんな人といろんな考え方があるのは、

なんとなく、わかった。


(続)

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