第2話 幼年騎士学園へ
さて、この世界の12歳は子供ではない。
ただし、結婚できる成人は15歳で、12歳は小成人と呼ばれている。
納税の義務が発生したり、村の会議では発言権がある。
弟子入りの年齢でもある。
貴族の息子は大抵の場合は幼年騎士学園に入る。
期間は3年。
そのあとは騎士学園が3年ある。
騎士学園の入学試験は厳しい。
9割が不合格だ。
俺も将来のことを考えないといけない。
前世はエリートサラリーマンになるべく努力してきた。
その夢は叶わなかったが、転生によって再びのチャンスが巡ってきたわけだ。
それでエリートになるための方法を考えてみた。
まず何のエリートになるかだ。
エリート代官は嫌だ。
民と暮らすのは悪くないが、代官の主な仕事は農業の管理だ。
自然相手の仕事はいつ何時どうなるか。
自分のせいなら納得がいく。
だが自然災害で夢が絶たれたら、その責任をどこに持って行けばいい。
神に文句を言っても仕方ないだろう。
だから嫌だ。
エリート御者はなりたくない。
家畜の世話がしんどいのは知っている。
テレビで牧場の密着取材をみたからな。
生き物は自分勝手で理不尽だ。
世話をすれば愛着が湧いて可愛いんだとは思うけど。
それに前にも言ったが、貴族の息子が御者は外聞が悪い。
俺の家族や俺自身も気にしないが、やいのやいの言われるとちょっとな。
俺が馬鹿にされるのは我慢できる。
だけど家族が馬鹿にされるのは我慢できない。
なるなら、エリート商売人かエリート冒険者だ。
どっちもきつい。
商売人の資質、読み書きそろばんはできるけど、うちの親には商人の伝手があまりない。
全くなくはないけど、人脈のない商人なんて苦労するに決まっている。
冒険者は念話スキルではどうにもならないだろう。
考えてみると念話スキルって詰んでる。
そろそろ、どうするかはっきりさせないと。
それで考えたことがある。
農家じゃ現代知識は役に立たない。
ノーフォーク農法とかあるけど、見慣れないことをすると田舎ではハブられる。
成功すればいいけど、失敗したりすると大変だ。
やっぱり都会なのか。
都会なら発明品を売ったりしても目立たない。
だが、特許や著作権などない世界。
下手に世に出すと真似されて終わりだ。
それどころか厄介事を招き寄せるかも知れない。
努力するのが嫌いじゃない。
ただ、理不尽が嫌いなだけだ。
努力が報われないと悲しくなる。
とうぜんそういう方向へは行きたくない。
楽でなくてもいい。
努力が報われて欲しいだけだ。
才能がなくて報われないのは納得が出来る。
才能を作るのは環境と努力だから、これは自分で変えられる。
変えられなかったなら、それは自分のせいだ。
理不尽でも何でもない。
「父さん、幼年騎士学園を卒業したら冒険者になる」
「ふむ、中途半端で帰ってきたら、家の敷居は跨がせない」
「あらあら、そんなこと言っていいのかしら。きっと今頃どうしているかと心配になって、眠れなくなるくせに」
母さんが父さんに軽口を言った。
「そんなことないぞ」
「冒険者になるのか。クランや有名パーティ入りの宛てはあるのか?」
「アル兄さん、ないけど、冒険者ギルドに入れば、生活依頼がある。生活していけるはずだ」
「そうか、頑張れよ」
「頑張れよ」
「フーゴ兄さんも」
「俺は開拓して領地を貰う。アル兄さんに頼めば、耕作スキルで容易い。お前もそうしても良かったんだぞ」
「俺のスキルはフーゴ兄さんみたいな、スキルじゃないから」
「俺の投石スキルと鷹目スキルだって、ほとんど必要ない」
「モンスターを追い払えるでしょう」
「まあな。鳥とかも落とせるけどな。オーククラスになると追い払うのもきつい。オーガクラスだと手も足も出ない。だから騎士や冒険者は諦めた」
「俺も冒険者が向いているとは思わないけど、やってみたいんだ」
「決心したなら仕方ない」
「ラウ兄、手紙書いて。私も返事を出すから」
「お土産を期待してる」
「2人とも良い子にしてたらな」
次の日、両親と兄妹に見送られ、俺は野菜売りの荷馬車で、街に旅立った。
野菜売りの馬車という所が家がいかに貧乏なのかが分かる。
とにかく素振り方式で行くと決めたからには、それを極める。
その為には何でもやる。
隣町に着いたので野菜売りの荷馬車から降りて、乗合馬車に乗り換える。
そして、1週間。
第5幼年騎士学園があるフュンフに着いた。
この国の騎士学園は、第1から第5まである。
第1が一番実力が高い。
俺みたいに戦闘に使えないスキルはとうぜん第5だ。
フーゴ兄さんは現在、第4幼年騎士学園に行っている。
アル兄さんは、第3幼年騎士学園を卒業して、騎士学園の試験を受けたが落ちた。
まあ、幼年騎士学園を卒業していれば、貴族社会では問題はない。
ただ、騎士学園卒だと箔が付く。
俺も騎士学園を卒業したいが無理かな。
冒険者やるなら学歴は問題ない。
第5幼年騎士学園に入り、入口近くに案内というカウンターがあったので近づく。
「ラウド・リスナーと言います。今年からお世話になりますが、どうしたら良いですか」
「使用人と従者はいらっしゃらないのですか?」
「いません」
貧乏男爵家だからな。
母さんも家では家事をしている。
メイドはひとりいるけど、それだけだ。
「余っている一人部屋は色々と酷いですよ。ここ5年使われてませんから」
「構いません」
部屋の鍵を貰った。
ええと、5号室はと?
あった、ここだな。
そして、部屋に入る。
うん、掃除が必要だ。
埃が凄い。
掃除用具を借りて掃除を始める。
なんとか住める感じにするのに2時間近く掛かってしまった。
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