第4話 俺最強。と思ったらそんなことはなかった。
「ちょ。ま。いきなり勝負って何のさ」
「うるせぇ。貴様も勇者なら戦いは避けられねぇ。早いところ慣れておかないと、いざというとき、死ぬぞ?」
「うっ……」
しかし僕は臆病で向こうの世界では喧嘩どころか言い争いまで避けてきたような人間だ。たとえゲームのスキルが使えたところで、目の前の格闘馬鹿っぽい兄ちゃんに勝てるのか?
しかし兄ちゃんが言ってることも理解できる。たまたま初めの戦闘が目の前の兄ちゃんで、これがモンスターだったら、しのごの言ってる場合ではないのだ。
「ゆるす。やりたまえよ。タケル君」
パウルがにやにや笑いを張り付けた顔でそう言った。
「ヨハン。落ちこぼれの猫のといえ、相手は勇者。油断は禁物だぞえ」
ミツクニがそう言った。
「お前ら勝手なことを……」
そう言いながらも僕はヨハンの動きを観察していた。実際相当の実力なのだろう、構えてさえいないのに、とても攻撃できそうな隙は見当たらない。
「来ないならこっちから行くぜ?」
「……よろしくお願いします」
僕は両手を合掌してペコリと一礼した。別に格闘技が好きなわけではないが、大好きな漫画の主人公がそうしていたからである。
相手の油断を誘おうとかそういう意図はない、仮にも格闘家と立ち会うなら礼は必要かなと思っただけだ。
「お。おぅ!」
ヨハンはそれを見て、拱手の礼をして、構えた。
構えた瞬間、ヨハンから凄まじい、プレッシャーを感じた。
僕は、咄嗟に2、3ステップ後ろに飛びのいた。
僕は格闘ゲームも好きだ。まぁ、ゲームなら大体好きなんだけど。たまにある。上級プレイヤーと対峙したとき、2、3挙動見ただけで、こいつはとんでもないと思うことが。それの、桁違いバージョン。
構えを見ただけで、素直に、格闘では格段に差があると認識させられ、この間合いはまずい、瞬殺される、と直感で悟った。ゆえのバックステップ。
「悪くない判断だ」
言って。ヨハンは前に出た。
瞬間ヨハンの姿が消えたと思ったら、目の前でボディーブローを繰り出していた。
「縮地」
僕は、咄嗟に腕を前に出してガードしようとした。このスピードについていけたのはひとえに勇者としての動体視力と反射神経のたまものだろう。
カキン!
僕の腕の前に作られた光の壁にヨハンの拳がぶつかった。岩の時にも使ったシールドガードだ。
「ほぅ」
ヨハンは、続けて、左右左右と四本腕でパンチを繰り出した。
僕はとにかく、なんとかヨハンの拳に触れる。
カツンカツンカツンカツンッ。
全てシールドガードが発動して、ヨハンの腕がはじかれる。
「なかなかいい技だ。地味だが嫌いじゃねぇ。俺のコンビネーションをここまで耐えられる奴がどれぐらいいるか……」
僕は距離を取ろうと後ろに飛びすさった。
『タイタン・ファイティング』というゲームのバックエスケープというスキルが発動したらしい。思っていたよりもだいぶ後ろに瞬時に跳躍した。
「瞬歩」
だが、ヨハンはその距離を一瞬で詰めてきた。
「歩法も悪くねぇ。お前。思ったより筋がいいな」
「火炎拳」
そしてまたボディーブロー、僕は腕をクロスさせてシールドガードを使った。
「あっつ!」
しかし、ヨハンが放った炎の拳の炎は防ぎきれなかった。
なるほど、ファンタジー世界の格闘術か。
僕の一瞬の戸惑いを逃さず、ヨハンがまたコンビネーションを仕掛けてきた。
ワンツーと左の二本の腕で二発、スリーに左ローキック、
フォーで右の下の腕でボディー、ファイブに右上の腕で顔面にフック。
だが僕も一つ閃いたことがあった。
ファイブを『プリンセス・オベリスク』のシールドガードで受けずに
『タイタン・ファイティング』の『ガードキャンセリング』で受けたのだ。
瞬間ヨハンの拳を光の壁でガードし、そのまま光がヨハンの顔面に向かった。
ヨハンは、普通来るはずのない反撃のタイミング、おまけにフィニッシュブローを打った、体勢の崩れたところへの反撃で、とっさに、右の下の腕でガードするのが精いっぱいだった。
「たっ!」
「やるねぇ。俺相手に格闘戦で打ち返してきた奴なんて、トラ兄と竜兄ぐらいだぜ」
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