満員電車の人間観察

タヌキング

ーーー

 映画を見た帰りの夕方、私は満員電車の乗って帰ることになった。

 その満員電車というのが乗るのを躊躇われるほどのすし詰め状態で、私は一本遅らせようかな?とも思ったが、次の電車の時間を考えると、これに乗って帰るのが賢明だと、勇気を奮い立たせて、すし詰め状態の電車に入ることにした。

 車中に入り、当然のごとく座れなかった私。そんな私がまずしたことは、右手で上のつり革を持ち、左手にはスマホを持った。近くには女性が多いので、万が一にも痴漢に間違われる可能性がある。これはそれ対策である。

 すし詰め状態に嫌気が差してため息が漏れる。千円多く払い特急で快適に帰る手も無かったワケではない、ただ今日の駅には特急電車が止まらず、電車で一駅進んでから特急に乗り換えて戻ることになる。それが手間に感じたので、快適よりも効率を選んだわけである。

 あまりに人が多すぎて、小説を読むのも窮屈で、トンネルが多いから電波が悪くスマホゲームも出来やしない。仕方が無いので私はこっそりと人間観察をすることにした。悪趣味かと思われるかもしれないが、これが結構面白いのである。

 あんまりキョロキョロし過ぎると怪しまれる可能性があるので、ボーっと前だけ見ているフリをして前方120度で起こることに注目することにした。



 最初に黒髪ストレートの目鼻立ちの整った綺麗な女の人を一人発見し、淡くラブロマンスなんかを期待したが、こんな満員電車で、お前と彼女がラブロマンスなんて今から電車に隕石が落ちて来る方がまだ真実味があるぞと、私の中の毒舌家のおかげで夢見心地から抜け出すことが出来た。

 次に目についたのは、横に長い席に座ってお喋りするオバちゃん達と、子供をオンブして立っている若いママだった。若者が立ち、老人が座って居るのは、世の中の正しい構図かもしれないが、若いママは大変そうだし、おばちゃん達は喋くっていて元気そうなので、おばちゃん達の方が立つべきでは無いだろうか?と考えてしまった。座る際に「私達はお婆ちゃんだからね~」と言い訳がましいことを言っていたが、私の考えでいけば、あーいう人たちに限って老人扱いされると頭に血が上りそうである。

 この満員電車の中で、自分の席の隣の席に荷物を置く男を見掛けた。男の隣に座って居た人が電車を降りて席が空いた時は置いていなかったのだが、どうやら私が目を離している隙に置いたみたいだ。誰も座らなかったから空席が出来たわけなのだが、それにしたって荷物を置くのは逆に勇気がいるのでは無いだろうか?他人への拒絶なのか、それとも荷物を地面に置きたくなかったのか、インタビューして詳しい話を聞けたら良かった。

 ここまで社会人の方々を観察だったが、夕方の満員電車は高校生が多い。駅に着くごとに高校生が代わる代わる降りたり乗ってきたりする光景は、何だか見ていて面白い。

 私の近くの女子高生達が遠くに立っている女子高生のことを見て笑い合っている。聞こえてくる言葉で判断すると悪口なのだろうが、普段笑い合っているであろう同級生を集団で非難するという構図は、見ていてあまり気持ちいものでは無い。こういうことは時代を経ても無くならないのだろうと、しみじみと考えさせられてしまった。


 これは人間観察とは関係無いのだが、自分の降りる駅に近くなると、私は運転席の方を見た。電車の運転席の方を見る機会なんて滅多にない。少しワクワクしていたのだが、楽しい気持ちは電車の運転席の正面の窓を見て少し萎えてしまった。羽虫の死骸がこれでもかとへばりついており、それをワイパーが端の方に退けていく。考えてもみればこれも当然のことであり、さして珍しい事でも無いのだが、コイツ等が何百匹死のうが電車は止まらないのだと考えると、命の重さとは状況と対象によって変わるのだと再認識した。


 電車という箱から降り、いつもの日常が戻って来る。次の電車移動は快適な方を選ぼうと心に決めているが、たまには満員電車に乗るのも一興である。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

満員電車の人間観察 タヌキング @kibamusi

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画