第9話 下心と花束

 迷宮【コトアマツ】に来ております。

 列車から降り、すぐにカードへは通知が参りました。

 スキル【ショットガン:石礫】レベル壱。

 スキル【ロングレンジショット:石礫】レベル壱。

 スキル【ガンズ:石礫】レベル壱の三つを早速習得したと通知が入って参ります。やりましたね。


 モンスターテイカーのスキルは以下の通りにございます。

 スキル【モンスターブック】――中空にて空白の本が出現します。この本はモンスターの情報が記載されるたびステータスが加算されてゆきます。モンスターを登録するには、戦い、スキルを眺め、倒し、又瀕死にして捕えなければなりません。また一定数ごとにステータス加算が生じ、またブックに記載されたページを開くことにより、そのモンスターの固有スキルを再現できます。

 又捕えたモンスターのページを開き、モンスターを召喚、使役も可能です。使役する場合は瀕死のち捕えなければなりません。捕えるには確率が存在致しますので瀕死にしたからと問われまして必ず使役できるわけではございません。

 スキル【ジュエルイート】――モンスターのスキルが封じられたジュエルを摂取することで、スキルを個別に習得することが可能となります。


 モナドは迷宮内か怪異内でしか発動致しません。この【ジュエルイート】で得たスキルは本とは別に他のモナドでも使用が可能となっております。さらにこの【ジュエルイート】で得たスキルは、他のスキルと組み合わせる事で特殊スキルとして使用可能です。

 ついでにカードのモナド画面から【気配断ち】と【開錠】、【スローイング】を六つある空きスロットへ移しておきました。こうすることで他のモナドへ変更してもこの三つだけは継続されます。


 迷宮内へと入りましたので早速モンスターブックを取り出します。

「モンスターブック」

 手の中に本が現れ手の中へと収まりました。中身は全て白紙です。

 ここにモンスターの情報が記載されます。

 記載される条件はまず倒す事。

 そして倒すまでの間に使用した固有スキルの効果を受ける事。

 最後に弱らせたモンスターを本の中へ捕える事。

 この条件が一つでもクリアされると徐々に本にモンスターの情報が記載されてゆく仕組みとなっております。そして全ての条件を満たしますと一ページが完成致します。

 本は何処から来たのか……その設定に触れてはいけません。タブーです。


 迷宮内にて早速【赤鬼(小)】と対自致します。

 モンスター【赤鬼(小)】の固有スキルは【石礫】、【小雷撃】、【飛び込み棍棒】の三つにございます。

 相手がスキルを使用してくるまで待ちます。これがなかなかに面倒です。倒すだけならば【ショットガン:石礫】だけで良のですが、正直に申し上げて【ガンズ:石礫】は弱いのでお使えできません。【ロングレンジショット:石礫】は使えます。

 基本的に全てのスキルレベルを最大にして、筋力を最大まで上げないと弱いです。スキルブックによる加算、乗算は欠かせません。


 私は筋力(STR)より精神力(MDN)を主流に致します。それにはきちんと理由がございます。実は筋力等のステータスは装備を除いて素の数値に限界が設定されております。そして精神力だけ上限が設定されておりません。

 つまり精神力の数値だけは無限に上昇するのでございます。やったぜ。

 人属性には裏ステータスとして全ての人に人間強度レベルが設定されております。

 この人間強度レベルは五が最大で、寧々は最大の五を授かっております。

 さらに【人間強度マイナス五℃】と呼ばれる精神構造を所有しております。これは各人間に設定されたアビリティのようなものですね。個性です。

 このアビリティにより寧々の精神構造は複雑となりより高みを目指せます。その代わり、寧々の肉体的強度、各ステータスの上限値はそれほど高くございません。


 赤鬼の攻撃を避けます。

 赤鬼は棍棒を持ち、縦に振りかぶり殴ったり、横に振りかぶり殴ったり致します。ですが基本的にリーチが短いので後ろへ距離を置くことで簡単に対処できます。優しいですね。

 飛び上がったら【飛び込み棍棒】の合図。ですがリーチが短いので後ろへ下がるだけで対処できます。距離を取ると【石礫】を使用しました。

 【小雷撃】はピンチにならないと使ってこないので、これだけは大変かもしれませんね。


 話を戻しますと、つまり精神力だけは無限に上昇するのです。

 そしてこのゲームには他のステータスを他のステータスへ上乗せするスキルや装備が存在致します。つまり精神力のステータスは、このゲームにおいてもっとも重要なステータスなのでございます。とは申しましても人間強度レベルは公開されておりませんので、普通の方には知られていない情報となっております。


 このゲームで気に入っている所は、ソロで何でもできるところです。とは申しましても、パーティーを組み戦う方が楽です。私は人と組むのが苦手でしたので、一人で何でもできるこのゲームは好きでした。


 一応攻撃を食らってみます。

 振り上げた棍棒を手で受けます。普通に痛みがあり、否、普通に痛いです。ダメージ表記はありません。腕に痣ができ、アオタンになるでしょう。

 スキル【ショットガン:石礫】レベル壱を発動――指の間に小さな礫集が出現致しました。どんな放り方でも構いません。手を振るうと岩は複数の弾丸へと変化し、赤鬼を強襲致します。赤鬼はひっくり返り、消えてゆきました。威力が強すぎたようですね。

 今度は調節しないといけません。


 精神力を最大限に発揮するのに最適なビルドはいくつかございますが、殴りビショップは適しております。道のりは長いですが。

 完成すればソロで神様と殴り合えます。ガチです。

 それに支援も可能です。社会に優しく万能ですね。

 まぁ……わたくしは終生ソロでしたが。

 思い返すと肝が冷えて参りましたね。

 もしかしたら今世もソロで終生しかねない。そんなわたくしにございます。


 スキル【ショットガン:石礫】は最大火力距離が設定されており、敵から離れれば離れるほどダメージが下がってしまいます。そこで必要なのがオプションスキルの【サークルレンジ】なのですが、こちらは気長に待った方が良さそうです。

 このオプションスキルは装備にしか付与されておりませんので、付与された装備が出回るか取得するまで何もできません。

 特に腕輪やピアスなど、部位まで狭めるとかなりシビアな確率となります。

 こればかりは、どうにもなりませんね。


 次の赤鬼の相手をするわたくしです。

 【ガンズ:石礫】は正直に申し上げて弱いです。頑張って頑張って鍛えれば何とかなるかもしれません。【ロングレンジ】は主力です。近場の【ショットガン】、遠出の【ロングレンジ】ですね。わかります。


 この世界に銃器はございます。ございますが、この日ノ本の国に起きましては免許制となっております。設定上のお話でございますが、免許は二十歳にならなければ習得できません。さらにショットガンやライフル、種類ごとにさらに免許が必要となります。

 海外では銃器が主流となっているようです。

 そこはなかなかに難しい事情がおありのようですね。計りかねます。

 銃器は簡単ですが、パーティーですとフレンドリィファイアが頻発するとの事です。ゲーム時代でしたら仕様として消す事が可能ですが、現実となりますとそうは参りませんね。


 スキル【ガンズ:石礫】を使用。一発で赤鬼君は瀕死です。【小雷撃】の使用モーションを視認、そこまで痛くはありませんね。雑魚中の雑魚、わたくしといい勝負です。わかります。握手をしましょう。痺れますね。

 今度は武器を持ってきたほうが良いかもしれません。

 召喚した本。ページを開き捕獲します。捕獲率が高いので簡単でしたね。

 これで赤鬼は百パーセントです。本には赤鬼の絵と固有スキルが表示されております。このページを開いていれば、赤鬼の固有スキルが使用できます。

 モンスターテイカーはなかなかに奥深いものでございます。極めるのは大変困難ですので、わたくしでも二年、三年は必要かもしれません。


 ちなみに赤鬼のドロップアイテムには【角】と【棍棒】がございます。レア枠に【ブラッドストーン】が存在し、確率は一万分の一です。舐めておりますね。わかります。0.02%は人数換算では五十人に一人となります。計算とは難しいものですね。では五十回倒せば良いのかと申されますとそうでもないのです。

 一つ五万で売れるのを加味し……しばらく【赤鬼(小)】を狩る私です。


 スキル【ロングレンジショット:石礫】を使用して赤鬼(小)を遠くからしばきます。

 スキル【スローイング】スキルも上昇しますし、良い事ばかりですね。

 ただ略して【ロングレンジ】を使用する場合は周りにおられます他の方のご迷惑にならぬように十分な配慮が必要にございます。周りの方々から赤鬼さんを奪ってはいけませんからね。


 スキル【気配断ち】を使用し、ひたすら遠くから【ロングレンジ】で倒します。

 足を振り上げ目標を定めジャイロを加え投擲致します。赤鬼へ命中致しました。私コレ大好きです。【気配断ち】を使用していますので、赤鬼さんは視認できなければこちらに反応できず、キョロキョロしていらっしゃいます。可愛らしいですね。

 ちょっと楽しくなって参りました。ひたすらに【ロングレンジ】を繰り返す私です。

 スキル【ロングレンジ】は視界ギリギリまでが攻撃範囲なのですが、遠く離れるほどに命中率、そして威力が減衰致します。スキルレベルの低い今、目算五十メートル辺りが最大火力の発揮できる限界の距離でございましょうか。

 人がいない場所へ移動しながら、ひたすらに石を投げる私です。

 モンスター【河童】を倒すのも良いかもしれません。モンスター【河童】のスキルには【石切】がございます。【ロングレンジ:石切礫】。【ショットガン:石切礫】は中々に使えるものにございます。


 そうこう申し上げている間に赤鬼さんが倒れてゆきます。数が多く配置されておりますので沢山倒せましたね。やりました。赤鬼さんのドロップ率は正直に申し上げて渋いのですが、いくつかのドロップアイテムを得られました。そうして得られました棍棒を眺めます。複数の棍棒を改めて眺め比べますとアイテムによって形が均一ではなく、色々な形が存在する事実に気が付きます。ゲーム時代にはなかった仕様にございますね。

 これは……アクアリウムの組み木として使えるかもしれません。

 私、こうご覧になって水槽で生き物を飼うのがやぶさかではない質(たち)でございます。ふふふっ。これは拾いものかもしれません。

 何時か余裕ができましたら、水槽を立ち上げるのも悪くありません。

 宝鏡の中へ棍棒を収める私です。

 カードで時間を確認しながら二時間ほど、棍棒の数は四十六本になりましたが、七十体は狩りましたでしょうか。ブラッドストーンはまったく落ちませんでした。渋い。渋いです。角は十五個です。正直に申し上げてこの角の使い道がご理解できておりません。何に使うのでございましょうか。隠し味的な何かでしょうか。


 この渋さ、ブラッドストーン【石礫】の価値が五万なのも頷けます。むしろ破格ではないでしょうか。

 そろそろ母を迎えに帰らなければならない時間です。戻りましょう。

 明日は【河童】さんをシバキに参ります。目標を定めた私です。

 帰り際に迷宮【イザナミ】の人数を確認します。表示された人数は四人……微妙な数値ですね。


 なんだか、なんだか無性に甘えたくなって参りました。

 月に数度あるかないかの不安定な日が来てしまったみたいです。

 月に数度、無性に寂しくなりセンチになる日が私にはあります。


 列車に乗り機関へ戻ります。

 機関へ到着致しましたら、今日は売る物もありませんので早々に母の会社へと向かいます。路面電車を待つ人達、夕日、恋人たち、談笑、ざわめき、風の音色、デジャヴ。

 花屋さんで千円分の花束を買います。私はひまわりの花が好きです。

「……千円分の花束を頂けますでしょうか?」

「はい。何にご入り用かお伺いしてもよろしいでしょうか?」

「はい。母へ日頃の感謝を込めて……と思いまして」

「お母さん思いなのですね。わかりました少々お待ちください」

 店内を彩るバラにアネモネ、芳しい香りで胸がいっぱいです。……赤いコクリコ。


 今日はそれらのお花とは無縁ですが、それでも綺麗な花束に仕上げて頂きました。

 何時ものように母を待つ私です。手に持った花束の香りで何とも優しい気持ちになりますね。わかります。今日もキラリさんがいらしております。この辺り、この時間に何か御用があるのでしょうか。興味があります。

「……その花」

「はい?」

「綺麗ね」

「そうですね」

「あぁ……もっつっ……」

 ここで少女の漫画の乙女ならば、花を一本差し上げるところなのですが、私は致しません。ガラではありませんので。

「もらっつ……もっ貰ったのか?」

「いいえ。母に日頃の感謝を込めてです」

「そうっそうか。そうなのね」

 キラリさんの身長は180㎝を越えております。


 母が会社から出て参りました。

「キラリさんではまた」

「あぁ……」

 こちらを眺めると母の顔が綻びます。

「寧々‼」

 手を振り駆けより参ります母を受け止めます。

「どうしたのそのお花?」

「お母さんに、日ごろの感謝をこめて」

「寧々ぇ……お母さん胸がいっぱい。いっぱいよ……」

 母の腕に腕を絡めて寄りかかります。

「……今日は、朝まで、一緒にいてくださいね」

 母に寄り添い露骨に甘える私です。


 母が動きを止めたので見上げます。

 母は目を見開いて私を視界に収めておりました。その顔が緩慢に、時間をかけて、ゆっくりと崩れて笑みへと変わってゆきます。安堵と嬉しさがありますね。

 何を頂いたのなら何かを与える。それは簡単な事ではございません。しかし私が花束を差し出したことで母が笑顔を浮かべ喜んで下さる。これだけで十分なお返しを頂いていると感じる私です。

「今日は、もう全部寧々にあげる。お母さんのぜーんぶ、寧々にあげるからね」

 母の頬に唇を寄せ仲良しでお家へ帰ります。

 しかし残念ながらお家では腹ペコ魔王夏飴さんが待ち受けており、二人で立ち向かう事となりました。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る