第2話 タラス河畔の戦い
「で、俺っちたちはどこと戦うんです?
こいつ、いまだによくわかってねえのか。
「どちらでもない。
そう、それそれ。
たしか、
三月(旧暦)頃からずっと睨み合いが続いていて、いまや夏の盛りも過ぎかける頃だ。
それにしても、この辺は本当に暑いな。
左手の方には、
なんだか、つくづくすごいところに来てしまったなぁという思いが湧いてくる。
俺たちの隊は、
軍全体を指揮するのは、
このお人は元々
四年ほど前、
こんな名将の下にいられるなら、
まずは前に陣取った弓兵が矢を放ち、その後俺たち槍兵が戦うことになる。
初めて突き刺した人間の肉の感触は、何とも言い
兵力はどうも向こうの方がだいぶ多いようなのだが、甲冑は俺たち
その差だろうか、槍兵同士のぶつかり合いは、こちらに分があるようだった。
結局、勝負はつかないまま日が暮れて、俺たちは城に引き揚げた。
そして翌日も翌々日も同じような小競り合いが続いたのだが――。
四日目、状況が変わった。最悪の形で。
そして、事前に段取りが出来ていたのだろう。
「
まあ仰るとおりだな。
こんな西域の果てで戦場から逃げ出したところで、
何が何でも敵を撃退するしかない。
しかし、味方はどんどん討ち減らされていく。
周りを完全に
「……
俺と背中合わせで槍を構えたまま、
「ああ、多分な……。あんまり自信は無いが」
全身返り血にまみれ、
自分が本当にまだ生きているのか、正直半信半疑だ。
けど……、本当に投降するのか?
言葉だって通じないような連中だぞ。
結局殺されるのが関の山だろう。
お嬢様、達者で暮らしていらっしゃるだろうか。
脈絡も無く、ふとそんなことを思った。
待遇は悪くない、と言ったが、それには理由がある。
「
「……ああ。つまらないことで身を持ち崩して、兵隊なんぞやってたんだがな」
へえ、知らなかったよ。
他にも
俺や
あと他には、
それ以外にも色々いたようだが、あまり詳しい話は耳に入って来なかった。
特に技術も持っていない連中は、奴隷として売られてしまったようだ。
気の毒にな。
今回の
すごく感謝しているし、
ちなみに、
名将ってのもあてにならないもんだな。
いや、あの死地を切り抜けることができたのは、やっぱり名将ってことなんだろうか。
さて、
俺の嫁にあてがわれたのは、
歳は今年で十七。くしくもお嬢様と同い年だな。
やや黄色味を帯びた薄茶色――いわゆる
紙の原材料は、
あるいは、安価な紙だと竹の繊維を用いたりもする。
が、ここ西域の地では、綿はともかく、紙の原料になる木が全然生えていない。竹すらない。
代わりに使えそうなものを手当たり次第に試しちゃいるが、なかなか良い代用品が見つからない状況だ。
そんなある日、
こいつも今は真面目に働いている。
こっちには
「どうぞ、旦那様」
アニスが豆の
この娘は料理も上手なんだ。
小麦の
「すまないな、アニス」
俺が礼を言うと、アニスはにっこりと微笑んだ。
ちなみに彼女は、元は奴隷だったが今では自由の身だ。
奴隷を解放してやると
「いやあ、
「お前の嫁さんだってなかなかのもんだろうが。てか、あんまりじろじろ見るなよ」
アニスから聞いた話じゃ、
ここ
「
ん? 紙の原料の話か? アニスの髪の色を見て思いついたんだろうか。
「
考えてみたら、ちょっと木の皮にこだわり過ぎていたかもしれない。
「何のお話ですか、旦那様?」
アニスが怪訝そうに尋ねる。
「いや何、仕事が上手くいくかもしれないって話だ」
「そうですか。それは
アニスの笑顔を見ていると、何だか上手くいきそうな気がしてきたよ。
早速明日試してみるとしよう。
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