敗走した女勇者〜負けた責任を押し付けられたので勇者をやめて異世界のんびりライフをすることにします〜

こーぼーさつき

第1話

 ――ダメだ。ダメだ。ダメだ。


 私は焦っていた。

 なにをやっても裏目に出る。

 まるで内通者でもいるかのように、こちらの一挙手一投足が読まれている。


 ……。


 「ふっはっはっはっはっ。勇者のその焦り顔。良い。実に良い。その顔が見たかった。我々を常に押し続けるその顔がぁ! 見たかったぁ」


 私の前に対峙し、剣を振るう魔王軍幹部エリザは軽やかに笑い、声を響かせる。

 そしてその部下たちが隙を見て私の首を狙ってくる。右から左から。やかましい。


 いくら召喚された勇者とはいえ、こうも実力を持った相手を何人もするというのは難しい話であった。一対一、一対二……一対五くらいまでならどうにかこうにかできる。けれど二十何人という相手は厳しい。

 私の仲間は全員違う部屋にいる。増援は望めない。


 「メメ。良くぞここまで情報を盗んでくれた。あとで魔王様へ活躍の報告をしよう」

 「ありがとうございます……」


 褐色の少女。

 かつて……というか、ほんの数分前までともに「勇者一行」として魔王城へ攻めていた仲間であった。


 裏切られた。


 事実として中々受け入れることの難しい現実が押し寄せてくる。


 作戦の漏洩。現状の不利。

 点と点が繋がる。

 頭では否定したい。なのに否定できない。否定させてくれない。


 『思念伝達。我々の敗北だ。撤退する』


 私の中に残った微かな理性で別の部屋にいる仲間へと告げる。

 情報が流れていた。

 その中で戦うのは酷である。このままでは全員全滅エンドもありえる。


 最善策だと思った。








 敗走。

 屈辱であった。けれどやれることはやった。負けて逃げた。そこに後悔はない。


 けれど、城内はそれを許さなかった。


 いつも戦果を持ち帰れば笑顔で出迎えてくれる上層部も、今日は冷たい。

 謁見室でもその態度は変わらない。むしろ密室になったことでより一層強まった。


 特に王様の態度は酷いものであった。

 私へ殺気を向けている。

 召喚された勇者である私に向かってなんていう態度だ。お前のこと殺そうと思えばいつでも殺せるんだぞ。


 「勇者ミユ」

 「……はい」

 「勇者としてありえないことをしてくれた。どう責任を取ってくれる。勇者とは全戦全勝。勝つのがあたりまえ。それが勇者だ。国民にそれで希望と安心感を与える。それが勇者だ。だが貴様は負けた。負けて死ぬのならいざしらず、死ぬのこともせずに逃げ帰ってきた言語道断である!」


 雰囲気からなんとなくわかっていたが、労いの言葉は一切ない。

 ふざけるな。

 今までどれだけこの国に尽くしてきたと思ってやがる。たった一回の失敗。それも外的要因による失敗。その失敗さえも許せない。堪忍袋の緒が切れそうだった。


 「ここで死ぬか。勇者ミユ」

 「……」


 そうか。わかった。私の負け。それはすなわち、この国の負けを意味する。

 責任をすべて押し付けたい、ということか。


 あぁ。なんだろう。

 召喚された勇者とはいえ、切り捨てられる駒でしかなかったのか。

 異世界に召喚され、チートみたいな力を手に入れて意気揚々としていた過去の私をぶん殴ってやりたい。


 もう勇者に対するモチベーションは皆無だ。


 それにこの国の上層部は私にすべての責任を押し付けたいらしい。

 なら良いか。


 「勇者やめます。お世話になりました」


 ぺこりとお辞儀してから謁見室を飛び出す。


 後悔はない。

 開放的な気分に心が踊った。


◆◇◆◇◆◇あとがき◆◇◆◇◆◇


ご覧いただきありがとうございます。

女の子ばっかりの異世界ファンタジーです。百合百合したスローライフを書けたらと思っています。

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2024年11月7日 07:08

敗走した女勇者〜負けた責任を押し付けられたので勇者をやめて異世界のんびりライフをすることにします〜 こーぼーさつき @SirokawaYasen

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