第5話 子ども

 アタシは高校を自主退学し、和樹くんの子どもを産んだ。

 子どもの名前は霧島和也。

 男の子だ。

 そう、女の子じゃなくて男の子が産まれたの。


 出産して1年ぐらいは本当に大変だったよ。

 和也はすぐに泣くし、言葉が通じないからアタシの言う事全然聞いてくれないし。

 寝てるときも大泣きして起こされるし。

 近所の人には『あの子、17歳で子ども産んだみたいよ』と噂されるし。

 毎日和也のこと抱っこしてるから全身痛いし。

 はっきり言って毎日がストレスだった。


 けど、和也が言葉を覚え始めてから毎日が楽しくなった。

 突然泣くことが減ったし、1人で歩けるようになったし、アタシに甘えてくる姿は可愛いし。


 この子、今まで喋れなかったのに、最近はアタシのこと『ママ』って呼んでくれるの。

 アタシが『ママのこと好き?』と聞いたら『うん、大好きっ』と返事してくれるし。その言葉だけで毎日頑張れた。

 今では小さなマンションで和也と一緒に二人暮らししてる。


 平日は和也を幼稚園に預けて仕事し、夜は和也と一緒に過ごしてる。


 今のアタシはネットにギターの動画を上げて、そこで得た広告収入で食べてるの。

 たまに生配信でゲーム実況もするよ。あと、ギター系のブログも始めてみたの。

 そういった活動をしてなんとか生活できてる。

 本当は就職したかったんだけど、アタシ中卒だからどこの企業も雇ってくれないんだよね。

 ギターがなかったら絶望的だった。

 中学の頃からネットにギター系の動画上げてて本当に良かったよ。


「ねぇママ」

「ん? どうしたの、和也?」

「ギターって面白い?」

「うん、凄く面白いよ」

「じゃあ僕にも教えてよ」

「え? 和也、ギターに興味あるの?」

「うんっ!」


 毎日ギターを弾いているアタシを見て、和也もギターに興味が湧いてきたみたい。

 どうせすぐ挫折するんだろうな、と思ってたけど全然そんなことなかった。

 この子、自分の弾きたい曲を上手く弾けなくても挫折しないの。

 弾けるようになるまで一生懸命練習するの。

 こういうところはアタシにそっくりだな。


「ママっ! 見て見て! これ弾けるようになったんだよ!!」

「おぉぉ! 凄いね!」


 やっと弾けるようになったフレーズをアタシに自慢してきた。 

 その姿は本当に可愛かった。

 ああぁぁ〜、本当に可愛いな、和也は。

 この子だけがアタシの癒やしだ。

 

 

 ◇◇◇






 和也はあっという間に成長し、気づいたら高校生になっていた。

 もう高校生か。

 早いな……。

 高校生になった和也はイケメンで、背も高くて。

 父親の和樹くんにそっくりだ。

 性格や喋り方も和樹くんにそっくりだし。

 ふふ、なんか面白いな。


 高校生になっても和也はギターを続けていた。

 あの子、昔からギターの練習ばっかりしてたから今は本当に上手いよ。

 大抵の曲は弾けるんじゃないかな。

 

 今は軽音部に入って毎日友達と楽しんでるみたい。


「和也、もうすぐ文化祭だよね?」

「ああ、そうだよ」

「軽音部はなんか演奏するの?」

「アニソンと俺達軽音部のオリジナルソング演奏するよ。母さんも見に来てね」

「へぇ~、オリジナルソングまで演奏するんだ。絶対見に行くからね」

「うん」


 文化祭当日。

 軽音部の演奏を聴くために和也が通ってる学校にやってきた。

 演奏は体育館でやるみたい。

 体育館に行き、軽音部の出番が来るまで待つ。


 あっ、言っとくけど今日は1人で来たわけじゃないよ。

 義理のお母さんと一緒に来たの。

 義理のお母さん。つまり、和樹くんのお母さんだ。

 和樹くんが自殺した時、お義母さんは本当に悲しそうだった。

 そりゃそうだよね。

 自分の息子が同級生二人を殺害し、そのあと自殺までして。

 更にアタシのお腹には息子の赤ちゃんがいるし。


 和樹くんの狂気的な行動にお義母さんは本当にショックを受けてた。

 けど和也が生まれてから徐々に元気を取り戻してくれた。


 和也が生まれた時はたくさん可愛がってくれたよ。

 子育てのやり方はこの人から教えてもらったしね。

 和也が産まれて間もない頃は毎日のように助けてもらった。 

 この人には感謝してもし切れないよ。


 お義母さんと話しているうちに、やっと軽音部の出番がやってきた。

 ステージに和也とその友達が上がって、演奏を始めた。

 一曲目は有名なアニソンのカバーだった。

 大衆受けのいい曲だったから体育館はめっちゃ盛り上がったよ。

 みんな、楽しそうだった。

 

 演奏を始める前はそこまで人がいなかったのに、今では体育館に収まらないほどの人で賑わっていた。

 おぉぉ、めっちゃ盛り上がってるじゃん。


 一曲目が終わったあと、軽音部は各メンバーの自己紹介をしてから2曲目を演奏し始めた。

 2曲目はオリジナルソングだった。

 オリジナルソングだから最初は1曲目ほど盛り上がらなかったけど、サビに入ったところで再度盛り上がった。

 特に和也のギターソロは本当に盛り上がったよ。


 みんな、あの子のギター技術に驚いてた。

 アタシも驚いたよ。

 あの子、あんなに上手くなってたんだ。


 お義母さんも和也のギターソロに凄く驚いてた。

 お義母さんはギターが下手くそな頃の和也を知ってるから余計に驚いただろうね。


「和也くん、凄く上手くなってたわね」

「あはは、そうですね」

「ギター上手くて、顔も良くて、背も高くて。あの子モテるでしょ?」

「うーん、どうなんでしょうね。あっ、でも彼女いるみたいですよ」

「え? もう彼女いるの?」

「はい、最近告白されて付き合ったみたいです」

「ふふ、モテモテね。浮気とかいないといいけど」

「たぶんしないと思いますよ」

「ならいいけど」


 最近和也には彼女ができた。

 同じクラスの女の子に告白されて付き合ったみたい。

 一回会ったことあるけど、凄く綺麗な子だったよ。

 礼儀正しかったしね。

 本当にいい子だったな。

 

「涼花ちゃんはどうなの?」

「え? 何がですか?」

「結婚とか考えてないの?」


 お義母さんの言葉に思わず目を丸くする。


「結婚ですか?」

「ええ。あなた今でも凄く美人だし、相手には困らないでしょ? 結婚とか考えてないの?」

「結婚は……考えてないです。まだ和樹くんのこと好きですし」


 アタシがそう返事するとお義母さんは目を見開く。

 驚いている様子だった。


「涼花ちゃん……まだ和樹のことが好きなの?」

「はい……」

「そう……」


 和樹くんが自殺して10年以上が経つのに、アタシはまだ彼のことが好きだった。

 

 たまに知り合いの男性から告白されたりするけど、全部断ってる。

 だってまだ和樹くんのこと好きなんだもんっ。

 あの人と過ごした日を忘れられないよっ……。


 本当は和樹くんと一緒に和也を育てたかった。

 自殺してほしくなかった。

 ずっと生きててほしかったっ。


 どうしてっ自殺しちゃったの、和樹くんっ。

 アタシ、寂しいよっ。

 一人は寂しいよっ。


 アタシにはあなたが必要なのにっ……。

 あなただけが全てだったたのにっ……。


 自殺する前、和樹くんはアタシに『愛してる』と言ってくれた。

 あのとき初めてアタシに愛の言葉を囁いてくれた。


 あの言葉は本当だったのかな? 

 本当にアタシのこと愛してくれたのかな?

 実は嘘だったのかな?

 まだお姉ちゃんのことが好きだったのかな?

 答えを知りたいけど、もう和樹くんはこの世にいない……。

 彼の声を聞く声さえできないんだ。 

 もう一度あの人に会いたいな。

 会って色んなこと話したいし、肌に触れたいし、またたくさん愛されたいよっ……。

 和樹くんっ、大好きだよ。

 ずっとあなたのこと好きだからね……。








































 



















 Episode② 完結

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