Episode② 霧島涼花
第1話 好きな人
【涼花 視点】
中学1年生の頃、アタシは某バンドアニメを見てギターを始めた。
最初は指が自由自在に動かなくて上手く演奏できなかったけど、ほぼ毎日4時間以上練習したおかげで結構上達した。
けどまだダメだ、もっと上手くなりたいよっ。
アタシが憧れているイングヴェイ-マルムスティーンは『誰とも遊ばなかった。友達も作らなかった。とにかくギターばかり弾いていた』と言っていた。
またスリップノットのミック・トムソンも『部屋で8時間は練習しろ。友達をなくすまで出掛けるな』と言っていた。
その教えに従いアタシも友達と遊ばずに毎日ギターのことだけ考えた。
学校をサボって毎日8時間はギターの練習したよ。
今では難しいと言われているメタルバンドのギターソロを楽々と弾けるレベルにまで上達した。
誰かにアタシのギター技術を自慢したかったけど、アタシ学校に友達いないんだよね……。
リアルに自慢する相手がいないので、ネットに有名なメタルバンドのカバー動画をアップロードしてみた。
すると、色んな人たちがアタシのギター技術を褒めてくれた。
それが凄く嬉しかった。
もっと誰かに褒めてもらいたくて、ほぼ毎日メタルのカバー動画やアニソンのカバー動画を上げたら思っていた以上に再生回数が伸びた。
今ではチャンネル登録者10万人以上いる。
思い切ってネットに顔出ししてみたら、更にチャンネル登録者が増えた。
アタシ結構可愛いから顔出ししただけで、ファンが増えたの。
今では動画の広告収入だけで生活できるレベルになった。
この広告収入のおかげで30万円以上するESPのギターやマルチエフェクターを購入できた。
前からほしかった10万円以上するパソコンも購入しちゃった。
またSNSで仲良くなった人たちとバンドを組み、つい最近ライブハウスで演奏させてもらった。
アタシ目的で来てくる人もいたんだよ。
あれは嬉しかったな。
「うーん、このギターソロムズいな……全然指が動かないっ」
今日もアタシは家に引き籠もってギターの練習をしていた。
ずっとギターの練習をしていると、ピンポーンとインターホンの音が聞こえてきた。
ん? 誰だろう?
アタシは部屋を出て、玄関に移動する。
玄関の扉を開けると、一人の男性が視界に入った。
誰この人? 知らない人なんだけど?
「あの……あなた誰ですか?」
「佐藤和樹って言います。君のお姉さんと同じクラスなんだ」
佐藤和樹?
聞き覚えのある名前だった。
「あっ、もしかしてお姉ちゃんの彼氏?」
「うん、そうだよ」
へぇ~、この人がお姉ちゃんの彼氏なんだ。
結構かっこいいな。
背も高いし。
ふーん、お姉ちゃん、この人と付き合ってるんだ。
この人のどういうところが好きなんだろう?
顔?
それとも性格?
気になるなぁ。
「ねぇ」
「は、はい……なんですか?」
「君のお姉ちゃんって今どこにいるのかな?」
「お姉ちゃん、まだ部活だよ」
「あっ、そうなんだ……いつ帰ってくるかわかる?」
「たぶんもうすぐ帰ってくると思うけど」
「そっか。なら君のお姉ちゃんが帰ってくるまで俺の相手してよ」
「え? アタシが?」
「うん。優菜帰って来るまで暇だからさ。それまで君が俺の相手してよ。ダメかい?」
「ううん、別にいいよ。アタシも暇だったし。とりあえずうちに入りなよ」
「うん、そうさせてもらうよ」
アタシはお姉ちゃんの彼氏を家に招き入れる。
玄関で靴を脱ぎ、アタシの部屋に移動した。
アタシの部屋を見て、お姉ちゃんの彼氏は不思議そうな表情を浮かべていた。
「君の部屋、なんか凄いね……。高そうなギターいっぱいあるじゃん」
アタシの部屋には大量のギターがスタンドに飾られており、机の上にはパソコンやマルチエフェクター等があった。
全部動画の広告収入で購入したの。
「アタシ、ギターが趣味なの」
「へぇ~、そうなんだ。どういう曲弾くの?」
「メタルが多いかな」
「え? メタル……? 渋いね」
「あはは……よく言われる。あっ、たまにアニソンも弾くよ」
「へぇ~、アニソンも弾くんだ、いいね。俺も昔好きなアニメに影響受けてギター始めたことあるけど、すぐにやめたよ……」
「挫折しちゃったんだ」
「まぁね」
fenderが行った調査によると、ギター初心者のうちに9割が挫折してしまうらしい。
つまり、10人始めたらそのうちの9人はギターをやめてしまうってことだ。
おそらく、お姉ちゃんの彼氏も好きな曲を上手く弾けなくて挫折しちゃったんだろうね。
「君はなんでギター始めたの?」
「アタシもお兄さんと同じで好きなアニメに影響受けてギター始めたんだ」
「へぇ~、俺と同じじゃん。もしかしてアニメよく見るの?」
「うん、結構見るよ。今期は10タイトルぐらい見てるかな」
「10タイトルか。凄いね……ガチのオタクじゃん」
「ふふ、まぁね」
どうやら、お姉ちゃんの彼氏もアニメが好きみたい。
今期は15作品見てるんだって。
アタシとお兄さん、結構趣味が合うから話すのが楽しい。
男の人とこんなに話すの初めてかも。
「そういえば、まだ君の名前聞いてなかったね。なんて名前なの?」
「お姉ちゃんに聞いてないの?」
「妹さんがいることは聞いてたけど、名前は知らないね」
「
「え?」
「霧島涼花。アタシの名前」
「涼花ちゃんか。いい名前だね」
「そうかな?」
「うん、素敵な名前だと思うよ」
「ふーん、そっか。ありがと……」
素敵な名前か……。
あはは、なんか照れくさいな。
「俺の名前は……」
「知ってる、佐藤和樹くんでしょ?」
「あれ? なんで知ってるの?」
「お姉ちゃんに教えてもらった」
「あ~、そうなんだ」
「ねぇお兄さんのこと和樹くんって呼んでいい?」
「ああ、いいよ。俺も君のこと涼花ちゃんって呼んでいいかな?」
「うん、別にいいよ」
たぶん、アタシはこのときから和樹くんのこと好きだったと思う。
いや、まだ好きではなかったけど気にはなってたかな。
だって和樹くん凄く話しやすいし、イケメンだし、背高いし。
そりゃ気になっちゃうよ。
「涼花ちゃんってギター弾けるんだね?」
「うん、弾けるよ。聞きたい?」
「うん、聞きたい」
ギターで有名なアニソンを弾くと、和樹くんは驚いていた。
「涼花ちゃん、めっちゃ上手いね……」
「そ、そうかな?」
「うん、凄く上手いよ。ギターいつから始めたの?」
「2年前かな」
「たったの2年でそんなに上手くなったんだ。凄いね」
「も、もう褒めすぎだよ……」
「だって本当に上手かったんだもん。ねぇもっとギター弾いてよ」
「う、うん……」
アニソンや有名なメタルのギターソロを弾く度に、和樹くんは褒めてくれる。
彼に褒められるのが気持ちよくて、たくさんアタシのギターテクニックを披露してしまった。
やばいっ、和樹くんに褒められるの凄く気持ちいい……。
こんなに楽しくギター弾くのは初めてかも。
「涼花ちゃん、ギター以外に趣味とかあるの?」
「うん、あるよ。ゲームとか」
「へぇ~、ゲームやるんだ。どういうゲームするの?」
「乙女ゲーム……」
「乙女ゲーム? それって恋愛ゲームだよね?」
「う、うん」
「涼花ちゃん、そういうゲーム好きなんだ」
「へ、変かな?」
「いや、全然変じゃないよ」
「そっか……」
和樹くんが聞き上手だからついつい自分の趣味や最近起こった出来事を話してしまう。
昨日ライブハウスで演奏したことを話したり、学校の先生の愚痴言ったり、最近同じクラスの男子生徒に告白された事などをベラベラと話してしまった。
アタシの話ばっかりしてるのに、和樹くんは嫌な顔ひとつしなかった。
アタシが話すとタイミングよく相槌してくれるから凄く心地良い。
イケメンで、背高くて、話しやすくて、アタシに優しくて。
和樹くんと話せば話すほど彼のことが気になる。
もっと彼のことが知りたくなる。
アタシ、さっきから変だ。
和樹くんのこと考えると凄くドキドキする。
彼と目を合わせるのが恥ずかしくてすぐ目を逸らしちゃう。
なにこれ? 一体何が起こってるの?
もしかしてこれが恋?
アタシ、和樹くんのこと好きになっちゃったの?
初めての感情に戸惑いを隠せなかった。
アタシ、この人のこと好きになっちゃったのかな?
これが恋なのかな?
けど和樹くんはお姉ちゃんと付き合ってる。
お姉ちゃん、いいな……。
アタシも和樹くんみたいないい人と付き合いたいよっ。
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